自分の様な家族の間でならいざ知らず、この子がこの調子で人と交わり、外で他人との間にどんな厄介事を起こすだろうかと思うと、祖母は孫娘が酷い目に遭いはしないかと案じます。
今迄は息子だけでよかったのに、この孫の身の上迄案じなければいけなくなるなんて…。何て気苦労な事だろうと、彼女はしゅんとうな垂れると、目を閉じて意気消沈してしまいました。加えて、彼女には、息子が持っている宗教の言葉や古語に対しての知識の加減がよく分かったのでした。
「あれはよく大学へ入れたね。」
祖母は絶句しました。息子に掛かった学費が頭を過ぎりました。そして、一瞬にひゅーっと顔から血の気が引いて行くと、ツンと目が細く吊り上がり、眉間には青筋、口はきりりと引き締まると、その顔は…。
「あれ、お祖母ちゃん、あか…」
と蛍さんが言ったところで、蛍さんの口には誰かの手が当てられました。蛍さんは口を塞がれたのです。
「三郎や!」
「三郎はおらんか、ちょっとこっちに来や!」
と家中に祖母の甲高い金切り声が大きく響き渡りました。彼女は怒りでかっと来て、息子の名を家中に響けとばかりに叫ぶのでした。そんな祖母の傍にいた蛍さんの耳には、この声ががらがらがら…と、雷でも響いたように聞こえました。蛍さんはてっきり雷が鳴ったと思い、びっくり仰天しました。そして今、この様に突然口に手が当てらたという状態も初めての事でした。蛍さんには全てが異様に感じられるのでした。