昨日につづく「大村益次郎・花神」の話です。
この小説をNHK大河ドラマになってから読んだのか、観る前に読んでい
たのか、忘れてしまいましたがこのこの人の名が記憶に残ったのはあ
るシーンでした。彰義隊との戦いの最終盤です。
司馬さん書くところを要約すれば、旧幕臣を中心とした徳川政権の再興を
ねらう彰義隊は三千の力を擁し官軍は千人以上をひねり出すことは困難で
した。
それに勝・西郷会談のあと、京都の新政府は江戸のことは西郷任せ、西郷
は江戸の治安は勝に任せるという状態でした。その中で彰義隊の存在が危険
なものであることが明らかになってきます。
ついに江戸鎮圧、彰義隊討伐の方針へ新政府は一変します。
そこで、蔵六こと大村益次郎に軍政上の最高職を与え江戸へ向かわせます。
≪蔵六が、大村益次郎として歴史の本舞台に登場するのはこのときからである。≫
≪参謀会議の席には、新政府最大の巨人である西郷もいた。西郷は一言も発せ
ず、蔵六もまた西郷を無視した。≫
≪かれ(蔵六)は戦況ニュースとでもいうべき戦陣新聞を発行しはじめたのである。
「いま天下は非常事態である。風説が湧き、風説が流れ、風説によってときに一軍が
潰乱し、ときに勝利軍でさえ投降する。味方に正確な事実を知らしめねばならない」
として、(略)「江城日記」と、名づけた。毎日、発行した。
かれのおどろくべきことは、いよいよ彰義隊討伐をやるという二日前からひそかに
新聞をつくっておいたことである。原稿は予定稿である。しかし予定稿どおり戦況が
すすみ、一字の訂正も必要としなかった。≫
彰義隊討伐の戦いがはじまって、
≪前線からくる報告はすべて苦戦であった。
ついに代表者数人が蔵六のもとに押しかけた。蔵六はこのとき富士見櫓にのぼって
いた。代表のひとりが、「いったいどうなさるおつもりです」といったが、
蔵六はなにも答えず、不意に気づいたように袴のひものあたりから時計を引きづり出
して、文字盤を見たのである。
「ああもう第二時(午後三時)になるのか」
と、時計から顔をあげ、
「それほどご心配なさるにはおよびません。もう片づきます」
といって(略)
そのうち騎馬伝令が上野からもどってきて、
「官軍の勝利」
と触れこみながら城内に入った。≫