ノマドランドはAさんにいい映画と薦められていたのですが、その後アカデミー賞作品賞等を受賞して、こういう作品がアカデミー賞を受賞する時代になったのだと、一昨年のグリーンブックに続いて思いました。今見たい映画が他にもシネマ歌舞伎であるのですが、紫苑さんのブログを見て、ノマドランド見たいと思っていたのに機会を逃してしまっているとあわてて今日渋谷まで見に行きました。7月1日までのようで、滑り込みました。
『ノマドランド』予告編
ジェシカ・ブルーダーによる原作『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(鈴木素子訳、春秋社、2018年)を下敷きにして、フィクションを交えて作られた映画で、途中まるでノンフィクションのように真実味がありました。アカデミー賞を取った時クロエ・ジャオ監督のことをTVで見ましたが、たくさん取材して、出演者にも実際のノマド生活者たちを起用したというようなことを話していました。これによりフィクションとドキュメンタリーの境界を融解させ、映画という芸術の新たな側面を作ったと言われています。
最初のアマゾンでの作業のシーンでは思わず笑ってしまいました。というのは最近娘がしょっちゅうアマゾンから荷物が届くのですが、どんな小さなものでもバカ大きい箱で送られてくるのです。流れ作業で何も考えることなく詰めて送られる荷物。これが効率的ということなのでしょうか・・
ホームレスではなくハウスレスという彼女は高齢者の女性とは思えないような肉体労働をして年金だけの生活で足りない部分を補って車上生活者となります。思い出を詰め込んだワゴン車で仕事のあるところに移動しながらのノマドになります。出会いと別れを繰り返しながら一人で暮らすことの安全やメカニックなことまですべて自分で引き受けなければならない強さが必要です。
社会から切り捨てられた人たちのやさしい連帯がありました。
印象に残ったのはボブとスワンキーの言葉で、ボブが主人公のファーンに大自然の中で、人にも出会い、あなたの答えが見つかるかもしれないと励ますシーンとスワンキーが人生を語るシーンです。彼女は人生の時間を無駄にしてはいけないと思い仕事を早めにやめて自然と出会う旅に出る。癌で死期が迫っているのに病院で死を待つ生き方はしないと、感動した大自然に会いに出かけていく彼女。何百というツバメが岸壁に飛んでいる姿を見て、これを見て死ねたら幸せと話して。perfect という言葉が聞こえました。このシーンが一番心に残っています。
またシェイクスピアがあちこちにちりばめられていて、主人公が代用教員として教えていた頃のシェイスクピアのマクベスからの台詞が出てきました。有名な台詞なのでわかりましたが、そのあとに出てきた誌もシェイクスピアのソネットだったことが下記のブログを見て知りました。
物語が一巡して、消滅したかつて住んだ街に戻り、夫との思い出の品を処分して新たな旅に出るシーンがラストでした。ホームは心の中にあると・・
参考)
『ノマドランド』で旅する荒野と記憶 自分にとって誇れる人生とは何か、教えてくれる路上
アカデミー賞最有力! 映画『ノマドランド』──放浪する主人公を支える詩の力
時代を越えたシェイクスピア ~『ノマドランド』に見る、悲しめる者にこそ宿る詩心~
この映画を見て、なにかざわざわしたものが残るのも確かです。東京の街中で起きたホームレスの女性の事件のことが思い浮かぶからです。心豊かな人生を送るにはお金などから自由になることが必要ですが、最低生きていくのに必要な経済力がないといけません。年をとっても経済を確保しないと存続することが難しい。まして一人で大自然の中で生きていくのには健康と体力も必要です。アメリカならではのスケールの大きさを感じさせる映画でもありました。主人公を演じたフランシス・マクドーマンドの抑えた自然な演技も素晴らしかったです。