碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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なぜ説明がない? 五輪閉会式「ダンス」で流れたのは、武満徹作曲のドラマ『波の盆』テーマ曲

2021年08月11日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

『波の盆』の舞台 マウイ・ラハイナ浄土院

 

 

なぜ説明がない? 

五輪閉会式「ダンス」で流れたのは、

武満徹作曲のドラマ『波の盆』テーマ曲

 

8日夜、新国立競技場で、東京オリンピックの閉会式が行われました。
 
その中盤、一瞬暗くなった会場の中央で、女性によるダンスが披露されました。
 
ダンサーは、長野県出身のアオイヤマダさん。
 
灯籠を下げた女性たちが、周囲をゆっくりと歩き、中央でアオイさんがオリジナル・ダンスを繰り広げました。
 
ダンスのバックに流れた音楽が、スペシャルドラマ『波の盆』(日本テレビ系)のテーマ曲だったので、驚きました。
 
この美しい名曲を作ったのは、世界的な作曲家である武満徹さん。きちんとした説明がなかったことが不思議です。
 
『波の盆』が放送されたのは、1983年の秋。
 
脚本は倉本聰さん。主演は笠智衆さん。音楽が武満徹さん。そして演出は実相寺昭雄監督。当時、最高の「座組み」と言っていい面々です。
 
制作は日本テレビとテレビマンユニオン。
 
私自身はアシスタント・プロデューサーとして携わっていました。準備段階から撮影はもちろん、東京コンサーツによるサウンドトラックの収録にも立ち会っています。
 
『波の盆』は、明治期にハワイ・マウイ島に渡った、日系移民1世が主人公のドラマです。
 
移民1世の山波公作(笠智衆)は、サトウキビ畑での過酷な労働に耐え、家庭と理髪店を持ち、子どもたちを育ててきました。
 
しかし1941年、日本軍の真珠湾攻撃により、その運命が大きく変わります。
 
また成人した子どもたち、つまり2世たちは、アメリカ軍の日系人部隊として、ヨーロッパ戦線などで厳しい戦いを経験しました。
 
このドラマは、公作が妻ミサ(加藤治子)を亡くして初めて体験する「お盆」、その1日に起きた物語です。
 
日本で亡くなったはずの四男・作太郎(中井貴一)の娘、つまり公作の孫だという若い女性・美沙(石田えり)が突然訪ねてきます。
 
それによって、公作の中で、自身が歩んできた激動の「過去」と「現在」が交錯していくのです。
 
この年の「芸術祭大賞」をはじめ、いくつもの賞を受賞しました。
 
名作ドラマのテーマ曲が、38年の時を超え、こうしてオリンピックの閉会式で、世界に向けて流されたことに感慨を覚えると同時に、武満さんの名前や曲名も含め、何の説明もないことに違和感をもったのでした。
 
 
『波の盆』の加藤治子さん、笠智衆さん(写真:実相寺昭雄研究会)