碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」妻夫木聡の感情を抑えた演技が光った

2021年08月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

終戦ドラマ

「しかたなかったと言うてはいかんのです」

妻夫木聡の感情を抑えた演技が光った

 

13日の夜、終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」(NHK)が放送された。

戦争末期に九州帝国大学(現・九州大学)で行われた、米軍捕虜に対する「生体解剖」が題材となっている。遠藤周作の小説「海と毒薬」や、熊井啓監督の同名映画などで知られる事件だ。

鳥居太一(妻夫木聡)は西部帝国大学医学部の助教授。石田教授(鶴見辰吾)の指示で捕虜の手術を手伝うが、それは軍と共同で「内臓を摘出された人間は、どこまで生きられるのか」を探る人体実験だった。敗戦後、石田は自殺し、太一は“首謀者”と見なされ死刑判決を受ける。

ドラマは獄中の太一と、誤った判決を覆そうと奔走する妻・房子(蒼井優)を軸に展開される。最終的に太一は減刑されるが、ポイントは生還したことではない。太一の心の葛藤である。教授の暴挙を止めなかったこと、つまり「なにもしなかった罪」に苦しむのだ。

戦争だったから、本当のことを知らなかったから――。言い訳はいくらでもあったはずだ。しかし太一は、「しかたなかったと言うてはいかんのです」という心境に達し、一時は死刑を受け入れようとさえする。

感情を抑えた演技が光る妻夫木。粘り強く理不尽と闘う妻を好演する蒼井。重いテーマ「命をめぐる罪」と正面から向き合ったことで、終戦ドラマの秀作となった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.08.18)