碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「緊急取調室」“取り調べ不能な容疑者”こそもう一人の主役なのだが…

2021年08月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

天海祐希「緊急取調室」

“取り調べ不能な容疑者”こそ

もう一人の主役なのだが…



オリンピックが終わり、テレビに通常編成が戻ってきた。第3話までで止まっていた、天海祐希主演「緊急取調室」(テレビ朝日系)も、ようやく今週から再開となる。

思えば第4シーズンとなる今回、このドラマは開幕から攻めていた。2週連続で扱われたのはハイジャック事件。犯人は70年代の「伝説の活動家」大國塔子。しかも演じたのは桃井かおりだ。

50年も潜伏していた彼女が、なぜハイジャックなどしたのか。その真相もさることながら、見どころはやはり真壁(天海)による塔子の取り調べだ。

塔子は、「権力の手先」である真壁を歯牙にもかけない。得意の弁舌で押したり引いたりの独壇場。途中、塔子が真壁にコップの水をあびせるシーンなど、「なめんじゃないわよ、私を誰だと思ってんの!」という桃井VS天海のリアル女優対決に見えたほどだ。

この「桃井編」に比べ、岡山天音や神尾楓珠がプロボクサーを演じた第3話は、残念ながら弱い。オリンピックに合わせたスポーツネタとはいえ、犯人像や事件の中身がいかにも薄味だったのだ。

放送開始から7年。あらためてキントリの役割を振り返ると、相手は一筋縄ではいかない犯人だ。簡単に自白しない。言うことも嘘を含めて二転三転する。つまり「取り調べ不能な容疑者」こそ、もう一人の主役なのだ。

再開後は、そんな原点を踏まえた物語を見たい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.08.11)