<メディア万華鏡>
投稿動画に頼り過ぎ?
気になる「お手軽ニュース番組」
早朝、民放テレビのニュースを見ていて「いいかげんにしたら」と、頭にきた。一般の人がスマートフォンなどで撮影し、SNS(ネット交流サービス)で拡散している映像や防犯カメラ・車載カメラの映像がニュース番組でやたらに増えている。
一時期、「中国ではこんな変な事故が起きている」という中国のSNS微博(ウェイボー)上の映像が民放のワイドショーで多く流され、「やっぱり中国は」と思わせるヘイトに近いと思った。
先週のある朝の民放ニュースは、「高級自転車のタイヤ泥棒」「白い車にスプレー攻撃」「車のボンネットにヒトが乗り上げ」など、視聴者提供映像のニュースばかり。
途中、名古屋市の河村たかし市長が金メダルをかじり、給与3カ月返上のニュースをはさみ、「フラフラ蛇行運転の車」「海面に背ビレ。実はイルカ」など、再び視聴者提供映像のニュースが続いた。
この民放の午前7時のトップニュースには「独自」のテロップ。何かと思ったら、今度は刃を赤く塗った刃物がズラリと民家の玄関先に置かれていたという防犯カメラの映像を基にしたニュース。「新型コロナウイルスの感染拡大や豪雨被害のニュースは?」と思ってしまった。
各局が投稿呼びかけ
読者から映像を募るのは、SNS時代の流れだ。NHKスクープBOXは、災害・事故で「スマートフォンやデジタルカメラ等で撮影した提供可能な映像がある場合はお送りください」と呼びかけ、「撮影や投稿を行う場合は、安全に十分気をつけてください」と注意も。
TBSスクープ投稿は「あなたがスマホやビデオカメラで撮った感動・驚きの映像をテレビ番組で活(い)かしませんか」、テレビ朝日「みんながカメラマン」は「映像も写真も大歓迎です。事件・事故、災害現場の様子や、ハプニングなど、あなたのスクープ映像をお待ちしています」と、一般の投稿を募る。
小学館が運営するニュースサイト「NEWSポストセブン」(8月15日)は「1億総スクープカメラマン 衝撃映像番組のネタ元は一般人の動画だらけ」との記事を掲載。
メディア文化評論家の碓井広義さんは「以前は海外のテレビ局の映像や資料などを入念なリサーチのもと、高額で買い取っていましたが、いまは一般人の撮影した動画を再生回数が多い順に流せば、それでゴールデンの番組が成立してしまう」と解説する。
碓井さんは「バラエティーだけではなく、報道番組も視聴者提供の映像ばかりです。スマホで誰でも簡単に動画を撮れる時代になって、“1億総スクープカメラマン”というべき時代が訪れてしまった」とみる。
1億総スクープカメラマン
“1億総スクープカメラマン”については、かつて東洋経済オンライン(2018年10月12日)で、コラムニスト兼テレビ解説者の木村隆志さんが「『視聴者提供』のニュース映像が激増した意味」について書いていた。
木村さんは「有事に備える意識を持ち、遭遇したらすぐに発信すること。メディアから映像、写真などの提供依頼があったら応じること。つまり、“1億総ジャーナリスト化”することが、増え続ける災害、事件、事故から私たちを守る日本全体のセーフティーネットになる」という。
もちろん、7月の熱海土石流災害時に現場にいた一般の人が撮影したような動画は、私たちに災害の恐ろしさを伝えるとともに防災にも役立つ。まさに木村氏の言う“セーフティーネット”に説得力を与える。しかし、そうではない、映像がなければ全国放送のニュースになっていないような“面白い”提供映像に頼り過ぎるのはどうか。
現代が“1億総ジャーナリスト化”“1億総スクープカメラマン”の時代だとしたら、それで食べているプロのジャーナリストやカメラマンはそれでいいのか。「取材力の低下」を懸念
「ヤクザと憲法」「ホームレス理事長」など話題のドキュメンタリーを繰り出した東海テレビのゼネラル・プロデューサー、阿武野勝彦さんは近著「さよならテレビ」(平凡社新書)で、コロナの時代に、視聴率、収入と支出、競合他社とのシェア争いという「数字」の揺さぶりが再び始まったと嘆く。
阿武野さんは「もはや、テレビモニターは若者の部屋にはない。モニターがあったとしても、地上波テレビはほとんど観(み)られていない。(略)魅力ある番組が作れなければ、地上波テレビは終焉(しゅうえん)を迎える。必要なのは、作れる人材を、作る部署に最大動員して、『やっぱりテレビだ』と思い知らせることだ」と断じる。
そういえば、テレビ局に勤める友人も、視聴者映像提供の多用について、記者やカメラマンの「取材力が低下する」といたく懸念していた。視聴者など外部提供の“面白”映像のないニュース番組、見てみたい。プロの記者やカメラマンは視聴者に頼らず、自ら現場に迫ってほしい。もちろん、テレビに限らす新聞も。【山田道子・元サンデー毎日編集長】
(毎日新聞 2021年8月23日)