【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した
2021年1月後期の書評から
門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』
文藝春秋 2420円
活動50周年の細野晴臣、初の本格評伝である。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)で知られる細野だが、そこに至るまでの遍歴時代もすこぶる興味深い。松本隆、鈴木茂、坂本龍一、高橋幸宏、松任谷正隆などとの出会い。エイプリル・フール、はっぴいえんど、キャラメル・ママといったグループ活動。YMOの狂騒の後も細野は自身の音楽を探し続ける。その軌跡はポップス同時代史だ。(2020.12.20発行)
中村 明『日本語の勘 作家たちの文章作法』
青土社 2640円
多くの作家と作品に向き合ってきた文体研究の泰斗が、文章を書く上でのヒントをまとめたのが本書だ。発想、描写、心理、比喩、技法など24項目が並ぶ。たとえば「視点」については、大岡昇平自身が『武蔵野夫人』を例に、作者が斜めから見るスタンダールの方法を語る。また庄野潤三の『静物』では、登場する金魚鉢が平穏な日常に隠された意外な脆さの「象徴」であることが明かされていく。(2020.12.30発行)
北原保雄:編『明鏡国語辞典 第三版』
大修館書店 3300円
初版からほぼ20年、最新の第三版が登場した。定評のある「誤用」解説以外にも新たな特色が加わっている。改まった場面で使える言葉を挙げた品格欄。「開く・空く・明く」などの書き分け欄や、「注ぐ(つぐ・そそぐ)」のような読み分け欄も新設。時代を反映する「食品ロス」、生活密着の「サブスク」、さらに「エモい」などの新語も含め、3500語が増補された。改訂を超える充実ぶりだ。(2021.01.01発行)
中野俊成『ジャケ買いしてしまった‼ ストリーミング時代に反逆する前代未聞のJAZZガイド』
シンコーミュージック・エンタテイメント 2500円
著者はバラエティ番組を手掛ける放送作家。ジャズの中古レコードのコレクターでもある。「ジャケ買い」とは、ジャケットのビジュアルだけで判断してレコードを買うこと。その当たり外れの妙を含め、アルバムを紹介しているのが本書だ。後頭部、落書き、自分の妻といったジャンル分けが笑える。ジャケ買いの成否も「やや失敗」などとランク付け。「モノクロ・ジャケに駄盤無し」は名言だ。(2021.01.10発行)