深川・伊勢屋さんの「豆大福&塩大福」
【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した
2020年12月後期の書評から
久能 靖『実録 昭和の大事件「中継現場」』
文藝春秋 2090円
テレビの特性が最も発揮されるのが「中継」だ。離れた場所の事件や出来事を、リアルタイムの映像で見せてくれる。著者は日本テレビのアナウンサーとして様々な「現場」に立ってきた。60年安保闘争、成田闘争、東大安田講堂事件、よど号ハイジャック事件、浅間山荘事件などだ。そこでは何が起きていたのか。当時は伝え切れなった事実も含め、1960~80年代の深層に迫る貴重な証言集といえる。(2020.11.30発行)
朝日新聞将棋取材班『藤井聡太のいる時代』
朝日新聞出版 1430円
5歳で将棋と出会った少年が「史上最年少棋士」となり、無敗で公式戦の最多連勝記録(29連勝)を樹立。さらに王位と棋聖の「二冠」を手にした。藤井聡太は他の棋士と何が違うのか。集中力、読みの速さと正確さ、そして負けん気。だが、それだけではない。本書は新聞で3年以上も連載が続く同時進行ドキュメントだ。本人はもちろん、対局した棋士たちの証言も交えつつ強さの秘密に迫っていく。(2020.11.30発行)
内館牧子『今度生まれたら』
講談社 1760円
主人公の佐川夏江は昭和22年生まれ。まさに団塊世代だ。2歳上の夫の寝顔を見ながらつぶやく。「今度生まれたら、この人とは結婚しない」。夏江が若かった頃、「できる女」は好まれず、幸せは男からもらうものだった。今、そのツケが回ってきて、人生の満腹感はあるが満足感はない。それでいて「前向きバアサン」「終活バアサン」が大嫌いだ。老人になりきれない70代の明日はどっちだ?(2020.12.01発行)
小林泰彦『続にっぽん建築散歩』
山と渓谷社 1540円
1970年代後半、『POPEYE』などに載った著者のイラストで、「ヘビーデューティー・アイビー」という名のファッションを知った人も多いのではないか。本書には、その温もりのある絵柄で描かれた全国30エリアの名建築と地図、エッセイが並ぶ。文明開化の香りを楽しむ鶴岡。昔の町並みにおもしろい建物を探す飛騨高山。産業遺産を歩く北九州市。リアルな旅も架空散歩もこの一冊が友となる。(2020.12.01発行)