テレ東の深夜ドラマは、なぜ元気なのか?
テレ東の深夜ドラマは、なぜ元気なのか?
ピカピカのあの時代、空気も再現
マクドナルド「僕がここにいる理由」編
舞台は1971年、銀座の歩行者天国だ。デート中の女子中学生(宮崎美子さん!)の前に、日本に上陸したばかりのハンバーガー、しかもビッグマックが置かれる。
でも彼女は手をつけず、気まずいままデートは終わってしまった。
半世紀後、かわいい婦人(宮崎さんの2役)が、そんな思い出話を孫にしている。食べなかったのは、「だって恥ずかしいじゃない。好きな人の前で、こんなでっかいの」。
だが、じいじい(村上ショージさん)の前なら、「ぜんっぜん平気!何でだろ?」と笑う。そこで孫の少年は気づく。ビッグマックがもう少し小さかったら、自分はここにいなかったのだと。
この新作CMにはいくつもの驚きがある。まず、少女を演じて違和感のない宮崎さん。大学4年生だった80年にカメラのCMでブレークした時と同じ髪型が心憎い。
さらに、時代の再現性の高さだ。銀座1号店はもちろん、街並みや行き交う人のファッションも含め、70年代の空気に満ちている。
ずっと変わらず愛される場所。50周年にふさわしいメッセージだ。
(日経MJ「CM裏表」2021.08.09)
『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』の
「再開」を心待ちにする理由
天海祐希「緊急取調室」
オリンピックが終わり、テレビに通常編成が戻ってきた。第3話までで止まっていた、天海祐希主演「緊急取調室」(テレビ朝日系)も、ようやく今週から再開となる。
思えば第4シーズンとなる今回、このドラマは開幕から攻めていた。2週連続で扱われたのはハイジャック事件。犯人は70年代の「伝説の活動家」大國塔子。しかも演じたのは桃井かおりだ。
50年も潜伏していた彼女が、なぜハイジャックなどしたのか。その真相もさることながら、見どころはやはり真壁(天海)による塔子の取り調べだ。
塔子は、「権力の手先」である真壁を歯牙にもかけない。得意の弁舌で押したり引いたりの独壇場。途中、塔子が真壁にコップの水をあびせるシーンなど、「なめんじゃないわよ、私を誰だと思ってんの!」という桃井VS天海のリアル女優対決に見えたほどだ。
この「桃井編」に比べ、岡山天音や神尾楓珠がプロボクサーを演じた第3話は、残念ながら弱い。オリンピックに合わせたスポーツネタとはいえ、犯人像や事件の中身がいかにも薄味だったのだ。
放送開始から7年。あらためてキントリの役割を振り返ると、相手は一筋縄ではいかない犯人だ。簡単に自白しない。言うことも嘘を含めて二転三転する。つまり「取り調べ不能な容疑者」こそ、もう一人の主役なのだ。
再開後は、そんな原点を踏まえた物語を見たい。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.08.11)
『波の盆』の舞台 マウイ・ラハイナ浄土院
なぜ説明がない?
五輪閉会式「ダンス」で流れたのは、
武満徹作曲のドラマ『波の盆』テーマ曲
<碓井広義の放送時評>
深夜はドラマの実験場
鍵は虚実皮膜にあり
今期、テレビ東京-TVHの深夜ドラマが元気だ。
金曜深夜のヒットシリーズ「孤独のグルメ Season9」は、主人公の井之頭五郎(松重豊)が商談に訪れた町の食べ物屋で食事をするというシンプルな内容を変えていない。それでいて、「ひとり飯のプロ」としての振る舞いや言葉には説得力が増している。
これに続くのが、一昨年に放送されてサウナブームの火付け役となったドラマの続編「サ道2021」。サウナ愛好家のプロ、“プロサウナー”を自任するナカタ(原田泰造)が各地の極上サウナを楽しみ、サウナ仲間(三宅弘城、磯村勇斗)に報告する基本スタイルに変更はない。
共通するのは、「架空」の人物が「実在」の場所へ行き、その「体験と実感」をドラマ仕立てで伝える構造だ。登場するグルメもサウナも、視聴者が実際に行くことが可能な「ドキュメンタリードラマ」である。フィクションとノンフィクションの境目を行くドラマ作りは、以下の新作でも発展的に踏襲されている。
木曜深夜の飯豊まりえ主演「ひねくれ女のボッチ飯」は、いわば「孤独のグルメ」の20代女子版。
ただし、井之頭五郎は自分が見つけた店にふらりと入るが、こちらの主人公・川本つぐみは違う。SNSにアップされた食レポを頼りに、実在の店に出かけて行き、町中華のカツカレーや大衆食堂のしょうが焼き定食などを堪能する。どんな料理もごく自然に、実においしそうに食べる、飯豊の「食べ芸」が見どころだ。
「ボッチ飯」の前は、元乃木坂46の伊藤万理華が主演する「お耳に合いましたら。」。ヒロインの高村美園がポッドキャスト番組のパーソナリティーとなる。ポッドキャストはインターネットの音声配信。ネット上のラジオみたいなもので、個人が自由に発信することが可能だ。
美園が自分の番組で語るのは大好きなチェーン店のグルメ、略して“チェンメシ”。自室に置いたマイクの前で、テークアウトした「富士そば」のコロッケそばや、「餃子の王将」のギョーザを食べながら実況を行う。
好きなものを、好きなだけ、好きなように語り、それを誰かが聴いていてくれる幸せ。若者の間で人気が高まっている「音声コンテンツ」の魅力を、「映像コンテンツ」のドラマで描くという挑戦が面白い。
深夜は新機軸のドラマを開発する実験場である。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2021.08.07)
<碓井広義の放送時評>
深夜はドラマの実験場
鍵は虚実皮膜にあり
今期、テレビ東京-TVHの深夜ドラマが元気だ。
金曜深夜のヒットシリーズ「孤独のグルメ Season9」は、主人公の井之頭五郎(松重豊)が商談に訪れた町の食べ物屋で食事をするというシンプルな内容を変えていない。それでいて、「ひとり飯のプロ」としての振る舞いや言葉には説得力が増している。
これに続くのが、一昨年に放送されてサウナブームの火付け役となったドラマの続編「サ道2021」。サウナ愛好家のプロ、“プロサウナー”を自任するナカタ(原田泰造)が各地の極上サウナを楽しみ、サウナ仲間(三宅弘城、磯村勇斗)に報告する基本スタイルに変更はない。
共通するのは、「架空」の人物が「実在」の場所へ行き、その「体験と実感」をドラマ仕立てで伝える構造だ。登場するグルメもサウナも、視聴者が実際に行くことが可能な「ドキュメンタリードラマ」である。フィクションとノンフィクションの境目を行くドラマ作りは、以下の新作でも発展的に踏襲されている。
木曜深夜の飯豊まりえ主演「ひねくれ女のボッチ飯」は、いわば「孤独のグルメ」の20代女子版。
ただし、井之頭五郎は自分が見つけた店にふらりと入るが、こちらの主人公・川本つぐみは違う。SNSにアップされた食レポを頼りに、実在の店に出かけて行き、町中華のカツカレーや大衆食堂のしょうが焼き定食などを堪能する。どんな料理もごく自然に、実においしそうに食べる、飯豊の「食べ芸」が見どころだ。
「ボッチ飯」の前は、元乃木坂46の伊藤万理華が主演する「お耳に合いましたら。」。ヒロインの高村美園がポッドキャスト番組のパーソナリティーとなる。ポッドキャストはインターネットの音声配信。ネット上のラジオみたいなもので、個人が自由に発信することが可能だ。
美園が自分の番組で語るのは大好きなチェーン店のグルメ、略して“チェンメシ”。自室に置いたマイクの前で、テークアウトした「富士そば」のコロッケそばや、「餃子の王将」のギョーザを食べながら実況を行う。
好きなものを、好きなだけ、好きなように語り、それを誰かが聴いていてくれる幸せ。若者の間で人気が高まっている「音声コンテンツ」の魅力を、「映像コンテンツ」のドラマで描くという挑戦が面白い。
深夜は新機軸のドラマを開発する実験場である。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2021.08.07)
鴻上尚史
『演劇入門~生きることは演じること』
集英社新書 968円
舞台に立つ俳優でもなく、演劇の熱心な観客でもない。そんな人も一読の価値ありだ。劇作家・鴻上尚史の新著『演劇入門 生きることは演じること』である。
著者は言う。人間は演じる存在であり、誰もが「見る人=観客」を想像して振る舞っていると。役柄は「親」だったり、「上司」だったり、「近所の住民」だったりする。
私たちの人生は演劇そのものである。それが、アナログの典型のような演劇がデジタル時代も生き延びている理由だ。
そして演劇の知恵や演劇的手法は、演劇人でなくとも実人生に応用することができる。たとえば俳優が目指している、「予想を裏切り、期待に応える」演技は、私たちが実生活で行うスピーチや表現の基本だ。
また「演劇の創り方」という章では、人の気持ちを動かす秘訣が明かされる。俳優の仕事は傷つくことだ。一番隠したい恥ずかしい部分を見せることで、人の気持ちが動くと言う。
さらに演技は「セリフの決まったアドリブ」であり、プレゼンなど人前で話す際も、内容を考えると同時に観客の反応を感じ取れば、彼らの気持ちを揺り動かせる。
スマホやSNSによって希薄になった、生身の人間関係。「つながり孤独」という言葉が象徴するように、私たちには、どこかで生身の人間を感じたいという欲求がある。
たとえ「不要不急」と言われようと、劇場で見る演劇は、今後も身近に現実の人間の存在を感じる、貴重な機会であるはずだ。
(週刊新潮 2021年8月5日号)