染織工房きはだや 「店主の独り言」

きはだや店主が今日の出来事を語る。喚く。話す。切る。
でも日記は苦手。
皆様の気軽なコメントをお待ちしています。

小説「むろまち」

2017年01月12日 | 店主の一日
昭和47年刊なので、これも随分と古い本です。
京都の問屋街、俗に言う「むろまち」を題材とした小説。


丁稚に出た主人公が直向きな努力で商いの才覚を発揮し、身を立て、独立、発展させる一代記。
今もある京都むろまちの「市原亀之助商店」がモデルの様です。

登場人物のほぼ全員が「どすえ」と話すところがなんだか京都っぽいのですが、ほんまかいなって気もします。
商人としての努力で、奉公先から独立して作った店まで、戦中の統制期の危機を除くと一本調子で会社は発展し、主人公が金策に走るところは見られない。その辺りは全体分量の問題か。
丁稚奉公から始まる勤務内容は、今流行りのブラック企業ですら顔面蒼白。しかしながら、「働く」ということは本質的にはこういうことなのではないだろうか思う節もある。

中でも今際の際にある養母を案じて大島へ仕入れに行くのを躊躇する主人公に「男の心を慰めるのは酒でも女でも賭け事でもない、事業や」と言い切るところが圧巻。
戦後の復興期の労基署と主人公とのやり取りはなかなか牧歌的で面白い。
いずれにしても今の若い人には理解し難い「おしん:むろまち商人版」と言ったところ。

宮本輝の「流転の海」を思い出させなくもないのですが、芥川賞作家がライフワークとしながら書く大作に比べると、ちょっと小ぶり。(笑)


この本に描かれているむろまちは日本一の問屋街として発展するのですが、バブルで大きな痛手を受け、数多の名門、老舗が斃れ今は跡地にマンションが建ち並びすっかりすっかり景色が変わりました。
僕が京都にいた当時が「むろまち」の形が残る最後の頃であった様に思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする