この記事は、品川から乗った新幹線の中で書いている。名古屋に行くためである。もちろん、ストラスブールから突然ワープしたわけではない。これはまったく想定外の行程なのである。どうしてそういうことになったのか、説明しよう(って、誰もそんなこと興味ないでしょうけれど、書いておかないと腹の虫が収まらないので、書かせていただく。いつもの連載と雰囲気違いすぎ、などと言わないように)。
昨日は朝プールに行ってから、シャルル・ド・ゴール空港直通TGVで空港に向かった。空港まではまあ大過なかった(途方もない荷物の山で通路塞いだおばさん軍団には呆れたが)。今回はわずか三泊四日の日本滞在であり、南山大学宗教文化研究所での和辻哲郎ワークショップへの参加だけが目的であるから、荷物は最小限に押さえ、機内持ち込み荷物だけで済むはずであった。ところが、最近いろいろ物騒なことがあるからであろう、荷物検査がやたらと厳しい(そのくせ治安はいいとは言えず、警備体制の脇が甘い。しっかりしろフランス!)。小さなスーツケースとリックサックの総重量が14.4キロ(13キロが上限)だったため、持ち込み不可となり、また受付カウンターに小さなスーツケースを預けに逆戻りさせられた。同じような人たちが私の前にすでに行列を作っていた。
やっとのことで荷物を預け、パスポートチェックの長蛇の列を忍耐強く待ち、所持品検査も通過したときは、出発予定時刻の25分前であった。小走りで出発ゲートに向かうと、すでに乗客たちが列をなして待っている。その最後尾に付いたが、何分経っても搭乗開始にならない。しまいには、まだ搭乗まで時間がかかりそうだから、一旦ベンチに戻って待機するようにとのアナウンス。ほとんどの人がベンチに戻ったが、私は列に並んだまま。自ずと前の方に進めた。
ようやく搭乗開始になったが、いつものようにガラス張りのすぐ向こうに見える飛行機への通路は閉鎖されており、階段で地階まで降りるように表示が出ている。不審に思いながら、地階に着くと、そこから外に出る出口しかない。タラップが故障でもしたのかと思ったら、そうではなく、バスが待機している。それに乗って空港内を十分ほど走行して、やっとのことで搭乗機前に辿り着く。その時点ですでに出発予定時刻数分前。嫌な予感がする。結局、席に着いてから離陸までに二時間近く待たされることになる。その間、機長からの機内アナウンスでようやく事態が明らかになった。空港の管制官たちのストライキのせいで、滑走路使用の許可がなかなか下りないとのこと。そんなわけで出発が定刻より約二時間遅れ、到着も当然のことだが大幅に遅れ、定刻より一時間二十分遅れで成田着。というわけで、成田から乗り継ぐ予定であった中部国際空港行きのJAL便に乗り遅れてしまったのである。なんであいつらのために私たち乗客(そのおよそ半数はフランス人でさえない)が迷惑を被らなければならないのか、と、機内心中穏やかならず。
それに、以下の理由で、国内線JAL便の運賃は半額しか戻ってこなかった。エール・フランス便とJAL便それぞれネットで別々に購入したので、このような場合、たとえ遅延してもエール・フランスは成田までの分しか遅延に関して保証してくれない(「遅レチャッテ、ゴーメンナサーイ。デモ、コレ、私タチノセイジャアーリマセーン。フランス政府ガ全部ワルイデース、って感じですよ)。そこで成田空港のエール・フランスのカウンターで遅延証明書を発行してもらい、それを持って第一ターミナルから第二ターミナルまでシャトルバスで移動し、そこでJALのカウンターで事情を説明し、交渉することにする。
乗り遅れた便のチケットをカウンターで見せるなり、「あーっ、Kさんですか。ぎりぎりまでお待ちしていたのですけれど…」とにこやかに対応してくれる(ワタシ、日本人、大好キデース。ミンナ、トテモ親切デース)。遅延証明書を見せると、なんでも成田空港における遅延に関する規定によると、第一ターミナルと第二ターミナル間の乗り継ぎの場合、110分以上の遅延かどうかで払戻額が変わってくるのだそうな。110分以上なら全額払い戻し。私の場合、80分だったので、半額しか払い戻してもらえなかった。トホホである。「どうせ遅れるなら二時間たっぷり遅れてくれれば、少なくとも国内便は全額払い戻しを受けられたのになあ」と、妙な悔しがり方をして、対応してくれた女性に笑われてしまった。
中部国際空港近くのホテルに宿泊するので、成田で少し待つことになっても、飛行機にしようかと最初は思っていたのだが、次の便に空席はあるにはあるが、出発まで八時間近く間があるので、その間ずーっと成田でボーッと待っているのもバカバカしいと、成田エクスプレス+新幹線に切り替える。JALの職員もその方が安いし、現地に早くつけるからと勧めてくれる。
というわけで、成田空港第二ターミナルのJRみどりの窓口で名古屋までの切符を買ったという次第。JAL便に払った額より若干安い。つまり、JAL便の約半額分をシャルル・ド・ゴール空港管制官たちのせいで損したわけである。あっ、それだけじゃない、名古屋駅から常滑駅までの運賃もまだ払わないといけないんだ(なんでこういうことになるの? 私、何かあなたたちに悪いことした? 今度シャルル・ド・ゴール空港に行ったら、管制塔に乗り込んで、やつらを必ずぶん殴ってやると、心なかで息巻く)。
でも、まあいいです、もう(何? もう弱気なの? 諦めるの早すぎ)。これも教訓ですから。みなさん、あまりジャストな乗り継ぎは予約しないようにしましょう。
それはそうと、新幹線に乗るの、いったい何年ぶりだろう。一五、六年振りだと思う。TGVより車内は広くて清潔、座席の前後もゆったりしていて、とても静か(TGVには、ときどき、いや結構しばしば、男女を問わず、主に中年以上だが、乗ってから降りるまで延々とおしゃべりを続けるフランス人阿呆連がいて、ときどき走行中に車外に背負投で放り出したくなることがある)。以上の点では、新幹線の方がより快適である。しかし、今この記事を書きながら実感しているところだが、結構揺れる。私の感じでは、場所にもよるけれど、新幹線の方が振動を強く感じ、その点は快適とは言えない。速さもTGVに負けている(頑張れニッポン!)。
などとくだらないことを書いているうちに、後二十分くらいで名古屋駅に着く。四十数年振りの名古屋である。
注記:この記事の投稿自体は、宿泊先のホテルの部屋から行った。