内的自己対話-川の畔のささめごと

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カイロスとクロノス(5)― ヒポクラテスにおけるカイロスの定義について③「医術、それはカイロスの業」

2018-09-19 08:58:46 | 哲学

 『ヒポクラテス全集』 Corpus Hippocraticum におけるカイロスは、ある処置のためにその患者にとって適切な時機という意味のほかに、そのような良いタイミングで施された処置・療法という意味で使われることもある(『古い医術について』)。
 そして、それら両方を同時に意味する場合、つまり、「時宜にかなった適切な処置・療法」を意味することもある(『古い医術について』)。
 適切な時機としてのカイロスは、単にある病気の進行との関係だけで規定されるうるものではない。それは、季節・風土・自然環境・天体の運行、さらには民俗的与件との関係において規定されなくてはならない(『空気、水、場所について』)。
 医術とは、つまり、カイロスを予見し、捉え、その時そこで患者に対して病気治療のために適切な処置をほどこすことである。この意味で、医術とは、まさにカイロスの業であると言うことができる。