田中貴子著『猫の古典文学誌 鈴の音が聞こえる』(講談社学術文庫、2014年。初版は淡交社より2001年刊)は、猫たちが登場する古典文学作品の読み解きとしてとても面白い。どの章から読み出してもよい。
第五章「猫を愛した禅僧たち」は、中世の禅僧たちが猫を詠んだ膨大な数の漢詩の中からいくつかの詩句を取り上げ、解釈を試みている。猫を詠んだ詩句が多いということは、単に禅僧たちには猫好きが多かったということではないし、実際に飼っていた猫を詠んだとも限らない。「猫を詠んだ詩句は猫のたたずまいを禅の教義と関連づけて解釈すべき場合が多い」と著者は言う。ただ、すべてがそうだというわけではない。「書物を友として一人思索にふけるという生活の身近に実際の猫がいたからこそ、これほどの詩句が生まれたかもしれない」と著者は推測する。
それに、猫は、単に愛玩動物として飼われていたのではない。書物を齧るねずみたちから書物を守ってくれる番猫でもあった。その猫たちを詠んだ詩句をこれだけ禅僧たちが遺したのは、猫たちを「学問の友」として扱っていたからではないかと著者は想像する。この想像は愉しい。