昨日の記事で言及した Charles Homer Haskins には、The Renaissance of the Twelfth Century(Harvard University Press, 1927. 邦訳は、別宮貞徳・朝倉文市訳『十二世紀のルネッサンス ヨーロッパの目覚め』 講談社学術文庫 2017年。この邦訳の原本『十二世紀ルネッサンス』は1989年みすず書房刊。その四年前に野口洋二の先行訳が同書名で創文社から刊行されている)という一般向けの歴史叙述があり、「十二世紀ルネッサンス」という歴史概念を中世史の中に定着させた古典的名著としてよく知られている。
ハスキンズが独創的な中世史の学者であり、かつ一般向けの歴史叙述家としても卓越しており、さらには偉大な教育者でもあったことについては、朝倉文市氏による解説に詳しい。その解説によると、本書は、「かつての中世理解を大きく転換させたばかりでなく、十二世紀のラテン文化の中心に、この時代の文化を総合的に捉え、叙述した最初の古典的名著」である。
本書の最終章第十二章「大学の起源」から何箇所か抜粋しておこう。
十二世紀は最初の大学をつくり出しただけではなく、後世のために大学組織のありようも定めた。これは決して古代の模範を復活したのではない。そもそもギリシア・ローマ世界には近代的な意味での大学などありはしない。[中略]大学は、文明に対して中世がなしとげた大きな貢献、はっきり言えば十二世紀の貢献である。
この認識は、今日すでに広く一般化しており、例えば、やはり昨日言及した Jacques Verger, Les universités au Moyen Age にもほぼ同じ文言が見られる。
もともと大学(universitas)という言葉は、広く組合、あるいはギルドを意味するもので、中世はこういう共同体がたくさんあった。それが次第に限定されて、やがて、「教師と学生の学問的な共同体ないしは組合」(universitas societas magistrorum discipulorumque)だけを指すようになった。これは大学の定義としていちばん最初にあらわれた、しかも最善の定義と言うことができる。
この定義から現代の大学のあり方をいきなり批判的に見たところで、それこそ時代錯誤的で、なんの益もないが、ただ、大学の起源は何だったのか、どのような歴史を経て大学という制度が確立されていくのかを知っておくことは、現代そこで教える者にとっても、そこで学ぶ者にとってもけっして無駄ではないだろうと私は思う。
その入門書として、親しみやすく生彩に富んだ文体で書かれたハスキンズの本はいまでもその価値を失っていない。