内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

« véracité » について(上)

2021-10-10 23:59:59 | 哲学

 新渡戸の『武士道』の第七章を読んだことがきっかけとなって、少しフランス語の véracité という言葉について調べてみた。というか、気になって仕方がなくなってしまい、調べずにいられなくなった。
 Le Grand Robert の定義は昨日の記事の説明の中に織り込んであるが、TLFi の定義はもう少し詳しい。« Qualité morale de celui/celle qui ne trompe pas ou qui n’en a pas l’intention; en particulier, qualité de celui/celle qui se garde de l’erreur et s’emploie à l’éviter dans ses paroles ou dans ses écrits. » となっている。つまり、単に人を欺くことがないというだけではなく、特に、発言や文章において間違いを犯さないように注意を払い、それを避けるように心がける人の徳性ということである。
 この定義からわかることは、ただ自分が正しいと信じていることをその通り言うのが véracité ではないということである。自分がいつ間違ったことを言ってしまうかわからないし、それと気づかずに人を欺いてしまうこともありえなくはないから、普段からつねに言動に気をつけ、自分が真実だと思っていることのみを言うように心がける徳性が véracité である。しかし、間違ったことを言わないために発言を回避する消極的態度は véracité ではない。自分が言っていることを頑なに信じて疑わない態度も véracité とは無縁だ。
 自分には左右できない真実あるいは真理があり、それがそうであるかぎり、そのとおり言われなくてはならない。だから、私はそう言うのだ。しかし、それは私の言うことが無謬であるということではない。間違うことはあるにしても、今の私には真実だと確信されていることはそのとおり言わなくてはならない。こう考えるのが véracité だ。