内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

旧故自遠方来 ― 夏休み日記(36)

2017-08-21 23:41:02 | 雑感

 今朝も五時起床。すぐにいくつか大学関係の仕事のメールを処理する。七時からプール。千二百メートル泳いだところで混んできたので三十分足らずで上がる。ちょっと物足りないが、このくらい軽く短く泳ぐくらいの方が毎日続けやすい。
 昨年末に東京で二十年ぶりに再会した友人が今日から四日間ストラスブールにやってくる。日本からバンコク経由でフランクフルト空港に着き、そこから直行バスで午前中にストラスブール入りする予定だった。ところが、バスが予約で一杯で電車に切り替えざるを得ず、到着は午後になるとの電話がマンハイムから入る。ストラスブール中央駅のホームで迎える。
 ホテルに荷物を置いてから旧市街を少し散歩。カテドラル近くのカフェで休憩。ショッピングセンターまで同道して買い物に便利な場所を教えた後、友人は一旦ホテルに戻って一休み。私は、友人が手土産に沢山持ってきてくれた私の大好物のあんこを置きに一旦自宅に戻る。
 レストランで夕食を一緒するためにカテドラル脇の観光案内所前で待ち合わせ。レストランは予約せずにカテドラル周辺の店を覗いてみて行き当たりばったりで決める。











言葉と物の陰に潜む存在の声なき〈聲〉を聴く耳が再び賦活されることを願って ― 夏休み日記(35)

2017-08-20 14:31:27 | 雑感

 今朝は六時起床。曇天下、九時からプール。その時点で外気温十七度。三十分ほど泳ぎ、コースが混んできたところで上がる。日中はときどき晴れ間が広がる。最高気温は、しかし、二十二度止まり。
 今回日本から持ち帰った本の中の一冊に詩人吉増剛造の詩集『オシリス、石ノ神』の仏訳 Osiris, dieu de pierre, Circé, 1999 がある。この本の開きには吉増剛造氏直筆の献辞が記されている。この仏訳刊行時に、ストラスブール大学日本学科と浅からぬ縁がある同氏がクレベール広場に面した書店で朗読を行ったときにいただいたものだ。私の名前が頁中央に大書してあり、その右脇に左から右へと縦書きで「どうぞこれからも、わたしたちの学びのためにがんばって下さいませ。ありがとうございました。’99 6.18」と細いが強く靭やかな字体で記されている。一字一字丁寧にゆっくりと書いてくださった筆使いが今も目に浮かぶ。
 当時私は日本学科の語学講師の一年目を終えようとしているところだった。哲学科博士論文課程二年目で、メルロ=ポンティの言語論について博論を書こうとしていたが、まだ問題意識が漠然としたままでとても書き始められる状態ではなかった。その翌年には、フランス現象学を使って西田哲学を読み解くというテーマに変更することになる。
 献辞をいただいたときからもう十八年が経過している。その間、私は何をどう頑張ってきたというのだろうか。哲学を学ぶ者として何一つ仕事らしい仕事をしてない自分が恥ずかしい。言葉に対する感覚がどんどん鈍くなってきている。言葉の陰に潜む〈聲〉を聴き取る聴覚が弱まっている。
 詩人の言葉が私の耳を再び賦活し、言葉と物の陰に潜む存在の声なき〈聲〉がいささかでも聴き取れますように。












近づく夏の終わり、午後の陽射しが涼風に揺曳する中のメランコリックな遊歩 ― 夏休み日記(34)

2017-08-19 17:36:37 | 雑感

 昨夕は、一時帰国中、自宅の風入れと郵便物の受取りをお願いした方に北海道と東京で買ったお土産を手渡しに行く。最初は、カフェでちょっと話して帰るつもりが、話が弾んで、夕食にも誘う。窓際の席に座れば川越しにカテドラルが見えるレストラン Aux Trois Chevaliers に行く。予約無しだったが幸い二人テーブルが一つ空いていた。十一時半まで歓談。
 今朝も五時起床。九時からプールで四十分くらい泳ぐ。十時過ぎ、市の中心部にある FNAC まで昨日注文した本 Lucien Vinciquerra, Archéologie de la perspective sur la Piero della Francesca, Vinci et Dürer, PUF, 2007 を自転車で取りに行く。
 多数の観光客がそぞろ歩きする街中にはまだヴァカンス気分が濃厚に漂う。帰路につこうとして、にわか雨に見舞われる。ギャラリー・ラファイエットの軒先で十分ほど、上掲の本を読みながら雨宿り。雨が上がり、晴れ間が広がると、また人々が動き出す。その人たちの間を縫うようにしてクレベール広場を走り抜ける。
 午後、夏の陽光に誘い出され、写真を撮りに自転車でふらりと出かける。近づく夏の終わりの光景に密やかに瀰漫する哀しみと背中に感じる陽射しの暖かさが景情の中で混ざり合う。見るものすべてが愛おしい。
 そんなちょっとメランコリックな散歩の途中に立ち寄ったコンタッド公園で写真を撮っていると、植え込みから小さな栗鼠が走り出してきた。今日の記事の右上の写真はその栗鼠くんの滑走をとらえた一枚。


機内で観た四本の邦画『この世界の片隅に』『湯を沸かすほどの熱い愛』『淵に立つ』『ハルチカ』極私的寸評、そして友情が知らぬ間に始まるとき ― 夏休み日記(33)

2017-08-18 16:39:32 | 雑感

 昨日搭乗したエール・フランス便機内で最近の日本映画を四つ観る。
 それぞれ二時間前後の映画だったから、機内では一時間ほどしか寝ていない。見た順に、『この世界の片隅に』『湯を沸かすほどの熱い愛』『淵に立つ』『ハルチカ』。それぞれの作品についての感想と主演あるいは助演の女優さんについての印象は、以下の通り。
 『この世界の片隅に』の評判はネットで知っていたけれど、本当にいい作品だった(『君の名は。』よりずっといいと私は思うけど)。声優としてののんの素晴らしさは特筆に値する。正直に言いますが、後半からラストまで、涙が止まらなかった。
 『湯を沸かすほどの熱い愛』、宮沢りえは立派な女優さんになったものだ。でも、この作品では、杉咲花の演技を私は特に賞賛する。
 『淵に立つ』、日仏合作らしい、光の明るさよりも陰の深さが印象に残る作品。筒井真理子の演技は見事、本当に素敵な女優。
 『ハルチカ』、橋本環奈は確かに可愛い。けれど、青春映画としては、残念ながら、『ちはやふる』にも『チアダン』にも遠く及ばない(といっても、私は別に広瀬すずのファンじゃありませんよ。私が今最も期待している十代の女優さんは、浜辺美波。2012年放映の『浪花少年探偵団』でのクラスのヒロイン役のときから注目している)。
 搭乗したエール・フランス便は定刻通りにシャルル・ド・ゴール空港着。スーツケース二つも問題なく回収。ただ、TGVが三十分遅れの出発。ストラスブール駅到着は定刻より二十分遅れ。駅からはタクシー。零時十五分前にストラスブールの自宅に帰着。
 それほど長旅の疲れを感じない。スーツケース二つの荷物はすぐにすべて出し、それぞれ所定の位置に戻すなり、片付けたり。昨日の記事で話題にした出発直前のハプニングのせいで黄色い染みができたり臭いが付いたりしたシャツはすべて洗濯機に放り込む。さすがに深夜に洗濯機を回すわけにはいかない。染みがひどい白の半袖ワイシャツだけすぐに手洗い。それでも完全に黄ばみが落ちない。漂白剤にしばらく漬けておく。きれいに落ちた。
 今朝は五時起床。自然と眼が覚めた。六時半頃から洗濯開始。八時からはいつものプールで40分ほど泳ぐ。帰宅後、昨日午前中届いて隣人が受け取ってくれていた、五十冊ばかりの仏語の本がぎっしり詰った小包を開梱し、整理する。
 以下の引用は、その中の一冊、わずか四十頁足らずの小著、Maurice Blanchot, Pour l’amitié, fourbis, 1996 の冒頭の段落。

La pensée de l’amitié : je crois qu’on sait quand l’amitié prend fin (même si elle dure encore), par un désaccord qu’un phénonoménologue nommerait existentiel, un drame, un acte malheureux. Mais sait-on quand elle commence ? Il n’y a pas de coup de foudre de l’amitié, plutôt un peu à peu, un lent travail du temps. On était amis et on ne le savait pas (p. 9).

 人は、友情が終わるときを知っている、しかし、友情がいつ始まるか知っているだろうか。それは突然にではなく、徐々に始まる。時の作用によって。だから、人は、もう友だちなのに、そうであることを知らないときがある。知らぬ間に友情の萌芽を枯れさせてしまうことのないように気をつけたい。











出発間際のまさかのハプニング、犯人は誰だ! ― 夏休み日記(32)

2017-08-17 12:12:14 | 雑感

 今、出発ゲート脇のリクライニングシートに横になり、搭乗便を待ちながら、この記事を書いています。
 今回の一時帰国は二十日間と短いものでしたが、北海道旅行や人と会う約束などほぼ毎日何らかの予定があり、外出しなかった日は一日もありませんでした。それぞれに愉しい毎日でしたが、時間が取れず会えなかった人も何人かあったことはちょっと心残りです。年末年始に予定している一時帰国の際にそれらの人たちとも会えればと願っています。神保町の古書店街を一日ぶらつく時間もなかったので、それもまたのお楽しみ。
 今朝、荷造りもほぼ完了し、あとは最後に小物を詰めるだけの段階で、ちょっとしたハプニング、というか、ドタバタ喜劇のような「アクシデント」がありました。
 さて、そろそろスーツケースを閉じようと思って、中仕切りに手を触れると、やけに湿っているのです。ここのところの雨続きで多量の湿気を吸ってしまったのかと最初は思いましたが、それにしては湿り方が尋常ではなかったのです。そこでハッと気づいて鼻を近づけてみると、臭うのです。そうです、おっしこ臭いのです。もちろん人間のじゃありませんよ。犯人は、妹夫婦の飼い猫の一匹に間違いありません(今日の記事の写真が犯人の顔写真です。写真をクリックすると拡大されます)。
 スーツケースの中仕切りを外して、ズボンを包んだ風呂敷を開いてみると、ズボン二本の上に大きな「日本地図」が広がっているではありませんか! 荷物を全部出してみると、スーツケースの底まで濡れています。臭い! もうめっちゃ臭いのです!
 さあ、どうしましょう。迎えのタクシーが来るまであと一時間ほどしかありません。タオルや吸い取り紙を妹の旦那さんが持って来てくれましたが、それでは吸い取りきれないし、乾かないし、臭いが取れません。もうスーツケースを取り替えるしかありません。幸い妹夫婦は大型スーツケースを持っており、それに被害を免れた荷物を移し、濡れてしまったズボンは妹が直ぐに洗濯、後日郵送してもらうことにしました。
 三人で大慌てのてんやわんや。私はもうすっかり汗びっしょりでした。幸いなことに、荷物を詰め替え、準備万端となったところで、タクシーを予約した時刻までまだいくらか余裕があったので、シャワーを浴びてさっぱりしました。
 ちなみに、当の犯人にはぜ~んぜん反省の色が見えませんでした(今度やったら猫鍋だぜ!)。
 玄関外まで見送ってくれた妹夫婦に滞在中の世話を謝し、予約時間よりかなり早くから待機していたタクシーに乗り込み、首都高で一路羽田国際線ターミナルへ。なんと25分で着いてしまいました。
 滞在の最後に思いもよらぬハプニングに見舞われましたが、今はそれを思い出しながら、一人でクスクス笑っています(人が見たら、ちょっとあぶないおじさんに見えるかも)。
 思いもよらぬ出来事に振り回されそうになっても、慌てるな、たいていのことはなんとかなるものさ、滞在最終日のアクシデントから引き出すべきそんな教訓を胸にフランスへと私は帰ります。












帰国前日、雨中の墓参、高輪東禅寺へ、特別でないことの特別さ ― 夏休み日記(31)

2017-08-16 22:11:44 | 雑感

 明日午後二時羽田発パリ行のエール・フランス279便でフランスに戻ります。午前十時に定額タクシーに迎えに来てもらうことになっています。だから、今日が今夏の一時帰国の最後の一日でした。
 昨日同様、今日も朝からずっと雨。朝食後、妹がふと、高輪の東禅寺にある父方の祖父母までの四代が眠る墓に参ろうという言うので、一緒に行くことにしました。妹は春にも墓参に来ていたので、それほど墓回りは汚れておらず、落ち葉を掃き出すだけの簡単な掃除を済ませ、墓前で手を合わせ、私はここ二年の出来事を報告しました。
 正午に帰宅し、昼食。二時間ほど、一昨晩録画された日本の職人たちの海外での活躍を追った番組を見てから、従姉弟家族が住む隣家に帰国前の挨拶に行きました。二時間ほど、妹夫婦も一緒に歓談。年末年始に予定している帰国の際の再会を約し、隣家を辞しました。
 夕食は妹夫婦と家で。他愛もないテレビ番組に笑い興じました。そんな特別でないことが特別なことに感じられた今夕でした。












そぼ降る雨の中、今日も神楽坂で ― 夏休み日記(30)

2017-08-15 23:44:04 | 雑感

 今日、東京は一日雨でした。そぼ降る雨の中、午前中は、元実家の近所に一昨年新設されたある大学の学部の教授に会いに行ってきました。その教授とは彼が大学院生としてパリに留学していた2006年に知り合いました。その都市の春に、彼の発意で、当時パリ国際大学都市の日本館に暮らしていた何人かの留学生と一緒にメルロ=ポンティ『眼と精神』の原書読書会を始め、最終的には夏にブルターニュの私の友人の家で合宿までしたことを今懐かしく思い出します。
 今や彼は日本思想史の気鋭の研究者として大活躍しています。昨年は元実家まで来てもらって歓談しましたが、今日は彼の研究室を私が訪ね、近所のレストランで昼食をしながら、しばらく歓談し、私にとっては貴重な情報や教示をもらってきました。
 彼と大学前で別れて一旦元実家に戻り、休息してから、夜は今日もまた神楽坂での会食に出かけました。ある出版社の編集者とその編集者を私に紹介してくれた大学教授との二人とおでん屋で歓談。とにかくこの気鋭の女性教授はよくお飲みになり、縱橫に談論風発。私もかなり飲める方ですが、彼女にはちょっとかないません。話が尽きず、おでん屋の隣のワインバーに場所を移して、さらにひとしきりおしゃべり。ただの酔っ払いの御託に終わらずに、何らかの出版の形で今日の話が実を結べばいいなあと思いながら、帰路につきました。












夏の一日、何ということもなく緩やかに流れる穏やかな日常の時間を共有することの掛け替えのない大切さ ― 夏休み日記(28)

2017-08-13 16:04:49 | 雑感

 この夏の一時帰国も今日を含めて五日を残すばかりとなりました。
 今回は滞在日数も短く、人と会う約束も多っかたので、例年通っていた世田谷区立中学校夏期プール開放を利用する時間はないだろうと諦めていましたが、今日から帰国前日までの四日間のうち三日は通えそうだと一昨日わかり、昨日の夜の会食の前に新宿にあるスイミング用品専門店までゴーグルその他必要なものを買い揃えに行き、今日に備えました。
 今朝は、午前十時の受付開始前に着いたのは私だけでしたが、今朝は曇りがちで気温もそれほど高くなかったこともあり、その後続けて何人か入って来ました。それでも一人一コースをほぼ独占できる程度だったので、各自自分のペースで泳ぐことができ、私は軽く一時間余り泳いで心地よい疲れを感じ始めたところで上がりました。
 遅めの昼を妹夫婦と取りながら、その前後の時間も含めてあれこれとおしゃべりをしましたが、こんなにのんびりと時間を気にせずに三人でおしゃべりを愉しむことができたのは、もしかしたら、これが初めてのことかもしれません。
 明日以降は三人のうちのいずれか二人に外出予定が入っており、三人が揃うのは帰国前日だけでになりそうなだけに、特別なことをするわけではないこんな何でもない時間の共有がことのほか掛け替えのない大切なことに思えます。
 今晩は、北海道旅行直前に私が処分した本が予想外にいい値段で引き取ってもらえることがわかったので、その「お祝い」に三人で祐天寺駅近くのお寿司屋さんに行ってきます。












人、人と会う、そこに言葉の花が咲く。そして、その花がまた人と人を繋ぐ種となる ― 夏休み日記(27)

2017-08-12 22:53:52 | 雑感

 昨晩は、午後十一時半少し前に妹夫婦が暮らす元実家に戻りました。北海道滞在中は毎日外出してけっこう歩いたので、さすがに少し疲れを覚え、今朝は普段より遅めの八時少し前に起床しました。
 遅めの朝ご飯から昼ご飯にかけて、妹夫婦と私の三人にとって長年の友人である旭川の夫婦のことをめぐって話に花が咲きました。二人と話しながら、東京で、あるいは旭川で、妹夫婦が彼らと再会できることを心から願わずにはいられませんでした。
 昨年末から今年初めに一時帰国したときもつくづく思ったことですが、誰にとっても残されている時間は限られているから、会いたい人には会えるときに会っておきたい。その思い一つから今回の北海道旅行も計画しました。
 行ってほんとうによかったと思っています。それとともに、これからは自分だけが会いたい人に会いに行くだけではでなく、会いたい人と会いたい人とを繋ぐ機会、さらには、ちょっと欲張りですが、会ったらばそこから何か始まりそうな未知の人同士が出会う場所を作りたいとも思うようになりました。
 来年四月からサヴァティカルでストラスブールに一年間いらっしゃる先生とそのお嬢さんとの今晩の会食もそんな機会を作るための一つのきっかけになるような予感がしています。