国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

経営学系小論文

2023-03-10 15:02:00 | 国語

とある国公立大学の後期試験の問題である。学科は経営系で大学の研究所には持続可能性総合研究所があると思ってほしい。ちなみに経営系とは言うものの人文系、社会科学系、要は文系にとってもおいしい問題かと。

なお、課題文の「中略」の部分は国語屋稼業による。

 以下、前置き。飛ばしてね。

 この問題を教師同士で検討する時にラブホテルの記述に顔をしかめたというより抗議した先生がいらした。わざわざ書かなくともよいとする立場だ。

 国語と言う科目は難儀な科目で学校の教科書には出ない単語や内容は入試に出うる。「スピロヘータのように」と本文にあり、注に「ここでは梅毒のこと」と書いてあった。女子生徒に「梅毒」って何ですかと大手予備校時代に講師室で質問され少し困った記憶がある。他にも平安時代の男女の「性」を題材にした古文の問題が高2模試(あれを出題するセンスは模試の主催者側にも問題があると思った)に載っており、その復習としてそれを教諭時代に教えたこともある(軽く流したけど敏感な生徒は気づいた)し、江戸時代に書かれた幼女誘拐の古文問題(大学入試に出ていた問題な)を派遣先の女子高で大手予備校講師時代に教えたこともある(これはちょっとした騒ぎになった、と言っても俺のせいじゃない)。

 まあ、大学の先生にとって、現実は現実として受け止めろというわけで、「ラブホテル」も含めて出題ということか。高校生の単なるおりこうさんをそんなに望んでいないのやもしれぬなあ、大学は。

 前置きはここまで以下が問題である。

<問題>

以下の文章は、現代の日本におけるショッピング・センター(SC)やショッピング・モール(SM)について論じたものの一部である。文章を読んで、以下の問いに答えなさい。

・・・・・・・・・・・・・・・課題文引用開始・・・・・・・・・・・・・・・

レッドロブスターも牛角も、ディスカバリー・センターのなかにある。ディスカバリー・センターというのは、典型的郊外型巨大ショッピングセンターで、あたしが九歳、コウが七歳の春にオープンした。

 ダンチから学校に向かうバス通りを左折し、車で数分走ると、件(くだん)のラブホテルに囲まれた高速インターがあり、それを過ぎてさらにすすむと、ディスカバリー・センターがある。スーパーマーケットと、ファッションビルと、レストラン数軒、ディスカウント系日用雑貨品店、美容院と本屋、カラオケボックスが入っている。

(角田光代『空中庭園』より)

 これは東京郊外のニュータウンの団地を主要な舞台とした角田光代の小説、『空中庭園』の中の文章である。各地にチェーン展開するレストランや量販店を主要なテナントにしたこのディスカバリー・センターは、作品中の架空の存在だ。だが、角田が登場人物の語りを借りて「典型的郊外型巨大ショッピングセンター」と述べるように、それは現代日本の各地の郊外に立地するSC・SMの平均像のようにも読めるのでそうしたSCやSMのある町に住む読者は容易にこのSCを頭の中でイメージすることができる。

 興味深いことに、実際にはレッドロブスターも牛角も大規模SCにはさほど出店していない。だから多くの読者は、レッドロブスターと牛角のあるSCを必ずしも知らないはずだ。にもかかわらずこの記述がごく自然に読めてしまうのは、レッドロブスターや牛角のような全国展開するチェーンの店舗が入っている場所としてSCを理解しているからである。(中略)こうした読み方が可能になるのは、現代日本のSCがリッツァの言う「均一な多様性」―――どこにでもあるようないろいろな店があること―――を示しているからである。

 だが、小説の語り手であるこのダンチの町に住む女子高生によれば「ディスカバリー・センター」という大仰な名のこのSCは、その町に暮らす人びとにとってただの商業施設なのではない。

 ディスカバリー・センターは、この町のトウキョウであり、この町のディズニーランドであり、この町の飛行場であり外国であり、更正(ママ)施設であり、職業安定所である。

(角田光代『空中庭園』より)

 それが「更正(ママ)施設であり、職業安定所である」のは、近隣の高校を卒業した「将来の見通しのない子どもたち」のアルバイトや主婦たちのパートの雇用を創出する場所であるからだ。流通と消費の空間であるSCは当然のことながら、そこで働く人びとの労働の空間であり、とりわけ郊外や地方都市では重要な雇用創出機関である。

 では、それがトウキョウやディズニーランドや飛行場や外国であるというのはどういう意味なのだろうか。

(若林幹夫『モール化する都市と社会 巨大商業施設論』より抜粋、一部改変。また、国語屋稼業による中略あり))

・・・・・・・・・・・・・・課題文引用終了・・・・・・・・・・・・・・・・

問1 SCやSMが「この町のトウキョウ」であるとはどのようなことか200字以内で述べなさい。

問2 「均一な多様性」が現代社会にどのような影響を及ぼしているか400字以内で論じなさい。

問3 「この町のトウキョウであり、この町のディズニーランドであり、この町の飛行場であり、外国」であるようなSCは各地に存在する。SCに対して地元の小売業者はどのように対抗したらよいであろうか。最も有効と思われる方策について400字以内で論じなさい。

<解答例>

問1

ここで言うトウキョウは単なる東京ではなく、日本の消費文化の先端的で、かつ正統的な象徴のことである。つまりここで購入できるものは東京をキー局とするTV番組や東京に編集部を置く雑誌で紹介されているもの、あるいは、似ているものであり、ここでものを買い、使用することは時代遅れでも変でもないという基準であることである。そういうわけで、様々な財やサービスを扱いつつ、全国展開するような大手のお店が中にあるのだ。

問2

 均一な多様性により、現代社会は、どこにいてもトウキョウのようなお店がある地域だらけになってしまった。以前もマスメディアによる均一性はあったと思われるが、それ以上に多大な影響を与えている。なぜなら、それは身体レベルで私たちを縛り、創造する力や個人や地域の個性を否定することが多いからだ。均一な多様性の「多様性」とは、多くの種類の財やサービスがあるということを表しているだけであり、その中に入っているお店の名前を思い浮かべれば、値段だけでなく、味や雰囲気などの身体で感じることは、ほぼ全員によって均一に思い浮かべられる。ディズニーランドもそれに近いものがある。そこには地域らしさ、店員の個性や創意工夫がいらない。その結果、人や地域は個性を発揮したり、創意工夫したりして、オリジナルを提供することへの努力が減ってしまい、本社などにいる、一部の特権的な人間以外の創造性は封印されてしまうのである。

問3 解答例1

 私は地産池消によって、外国でもトウキョウでもないお店として、対抗すべきと考える。

 まず、地域に根付いていることで地域に貢献することが重要だ。地産地消は食の安全以外にも多くの視点を与えている。たとえば、地元の小学校の授業に対応した文房具セットなどを販売する。あるいは顔を知った地元住人に、家族構成などを考慮し、買い物のアドバイスするのだ。そして地域のコミュニティに必要なお店になるのだ。

 次に、環境に優しい存在になり、持続可能性に貢献する企業になるべきだ。現在、原材料や製品の輸送などで多くのトラックが走り、炭素を大量に排出している。地産地消はその対策としても有効なものだ。地元の小さいお店は、3Dプリンタを代表とする技術革新を活用した多品種少量生産によって、オリジナリティのある商品を、ときに学校などと共同で開発、販売し、地産することでSCやSMのあり方と対抗すべきなのである。

問3 解答例2

私は多様な可能性を持つ施設として、SCやSMを地元の小売業者店が活用すべきだと考える。いわゆるトウキョウやディズニーランドに地域向けの消費、サービス、イベントなどを付け加えるのだ。客の顔を覚え、地元のイベントや学校などに詳しい小売が、集客能力のあるSCやSMに面して存在することで、地域の人も多様な消費の機会を手にいれられ、その満足度は高まるだろう。さらにSCやSMでは切り捨てられた消費者のためにもなる。たとえば、高齢者などはトウキョウのファッションをしたい人だけではないはずだ。また、消費のサイクルをあげるためにトウキョウ的な商品は回転が早いが、定番を末永く扱うようなお店やメンテナンスを重視したお店も必要だろう。このようなSCやSMを利用しつつ、その隙間を埋める小売やサービスで地元の小売業者は対抗すべきであり、その結果、SCやSMは地元に雇用を含めて、より多様な人生を作り出す場になるだろう。

<解説>

問1 東京ではなく、トウキョウという表記が特殊化、つまり、通常の東京とは違うということに注目する。その上で本文に矛盾しない解答にする。

問2 小論文とは「小さい論文」であり、「小さい」とは字数の問題だけではなく、自分の手持ちの情報だけであるということを意識する。現代文に頻出の「身体論」を活用して解答例を作り出した。小論文のためにも国語以外の色々な科目を活かし、手持ちの情報を増やそう。というか、授業で手持ちの情報を増やしていく癖はあとあと重要な術(すべ)になる。

問3 はっきり言って悪問。大人でも解決できていないことを400字で書けと言うのは無理難題というやつである。しかし、以下の解説のように相手が望む解答を予想する手がある。それが解答例1だが、持続可能性について身近なことがらで言えば地産地消という発想である。ちなみに地産地消には欠点がある。市場経済と対立するから(※)だ。解答例2は全面否定を避けて大人らしい(玉虫色的な)解答で逃げる作戦を取っている。ただし、「大人らしい(玉虫色的な)解答」には平凡な解答に陥る可能性があるので注意。

※このあたりを軽く説明しておくと、A県では手間ひまを惜しまずに作った美味しいトマトがあり、B県では普通のトマトがあるとしよう。価格は同じで、生産地の距離もさほど差がないとする。地産地消を方針にした場合、B県ではB県産の普通のトマトを買うことになってしまう。良いものが売れずによくないものが売れるということは市場経済と対立するわけだ。

解答例1

大学を調べることの重要性を理解する。持続可能な社会を実現するための研究を進める持続可能性総合研究所というものが大学にあることを手掛かりに発想した。研究所にどんなものがあるのかを知るには大学のHPを見ればすぐにわかる。パンフレットにもきっとある。それを確認するくらいは小論文試験やAO・推薦入試を受験する生徒はやっておくのが常識だろう(むろん、過去問のチェックは忘れずに)。さらにSC、SMを否定するために、対比的なこととして「地産地消」を中心に考えた。

解答例2

 現実にSC、SM全盛である今日、大人たちにできなかったことを考えることの困難さをまず理解する。そのうえで全面否定ではなく、修正、付加、条件つき賛成などの部分的に賛成する思考法を紹介する意味で別解を載せた。


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