踊る小児科医のblog

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「高校生以下のセックス容認せず」さらに逆行する性教育の流れ

2005年07月15日 | こども・小児科
東京都の(いわゆる)「中学生以下セックス禁止条例」について一言書こうと思って資料は集めておいたのですが(一番下にリストアップしておきます)、今度は中教審で「高校生以下の子どもの性行為を容認するべきではないとする立場で指導することで一致した」という報道です。こちらはさすがに法律や条令で禁止するということではないようですが、様々な問題をはらんでいるように思われます。今のところ報道の範囲でしか情報がないのですが、私たちも八戸市で「いのちをはぐくむ教育アドバイザー」として中学生に講演している関係もあり、無視できない問題です。

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高校生以下セックス認めず 「実態合わない」と批判も 中教審、性教育の基本に
 性教育の在り方を審議している中教審の専門部会が、高校生以下の子どもの性行為を容認するべきではないとする立場で指導することで一致したことが14日、分かった。中教審が子どもの性行為を許容しない基本方針を打ち出すのは初めて。同日の専門部会で、審議経過の概要案を示した。
 文部科学省の学校健康教育課は「性行為を一切禁止するものではないが、性教育をする前提として、性行為を容認しないことを基本スタンスにしたい」としている。
 性教育の専門家らからは「現実の高校生の状況から言えば、性感染症や望まない妊娠を防ぐために、性に関する情報を適切に与えた方が良い」との批判も出ている。
 専門部会は、高校卒業時点で身に付けるべき性に関する知識や考え方を検討。性行為について「子どもたちは社会的責任が取れない存在で、性感染症を防ぐ観点からも容認すべきではない」とした。
 親や恋人との人間関係の理解やコミュニケーションの能力を重視することや、安易に具体的な避妊方法の指導をするべきではないことでも一致した。
 14日の専門部会では「容認すべきではない」との文言に「表現が強すぎる」との意見も出たため、表現をさらに検討する。
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さてと、少し考えてみましょう。ポイントは上記記事の中にも出てきています。

まずはこの「性行動」という問題は、人が生活の中で最もプライベートな領域であり、かつ個人差が非常に大きく、さらに時代、環境、家庭、個人の価値観などによって大きく変わってくる問題であり、法律や条令で規制したり、教科書や指導要領に「何歳まではダメ(裏返せば何歳からはしても良い)」などと線引きしたりすることには馴染まない。
ここを基本としておかないと議論がはじまりません。

その中で、ここ10年間で急激に低年齢化、短期間化、多数化し、避妊なしで、一部に売買春の関与もみられている十代の性行動と、それに伴う望まない妊娠・中絶の増加、性感染症とくにクラミジアやエイズが急増し、ティーンエイジャーの性が特に性風俗産業や出会い系サイトなどにおいて食い物にされているという現実もある。これらの深刻な問題に対して適切かつ緊急の対処が求められている。
ここまでの認識については中教審や東京都とも一致しているはずです。

思春期から大人になっていく過程で、性の問題に限らず自分で考え、判断し、行動していくことが求められるし、それが心身ともに成長するということの本質であるべきです。そのために教育があり、家庭があり、地域社会もある。その中で、心身ともに未熟な中高生に対して保護者や学校、地域社会が指導的、保護的な立場から規制を加えることは当然あって然るべき。特に、中学生のセックスはあらゆる面で望ましくない。

ここで批判的な立場から東京都の委員会報告に目を通してみましたが、何だかここまで書いたことと殆ど一致してしまっているので、しばし考え込む。(長くない資料なのでご一読いただければと思う)

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大人社会は、青少年に対して「自分を大切にしよう、安易な性行動はやめよう」と、大人に対しては「青少年と正面から向き合おう、性行動の低年齢化を食い止めよう」という明確なメッセージを伝えるべきである。
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この結論には全く異議はありません。

しかし、そこで必要になってくるのは正しい知識と判断のための材料を与え、親や教師と子どもとの信頼感を醸成しながら、大人になっていくための手助けをすることであって、「条例による禁止」など絵に描いた餅であり効果がないばかりか弊害も予想されます。(報告書にも両論併記でそのように触れられてはいます)
高校生以下に対して国の機関である中教審が「性行為を容認しない」と断定することもその延長線上にあると言えるでしょう。

ここで絶対的に必要になってくるのは、間違った性知識や性に対する考え方などの情報に接する前に、年齢に応じた適切かつ明確なメッセージを持った性教育を教育現場で行っていくことのはずですが、現状は正反対の方向へ向かい、性教育は大きく後退しようとしています。その最先鋒が東京都の教育委員会であることも承知の事実。小宮山洋子議員のメルマガにも次のような警鐘が鳴らされています。
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また、男女共同参画については、最近、自民党内で、男女共同参画を故意にねじ曲げ、性別をすべて否定しているなどとして、"過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の安倍晋三座長、山谷えり子事務局長たちが、それこそ過激な活動をしています。
家族を解体し愛国心を否定するものだという、とんでもない言い方で、男女共同参画社会基本法の見直しなども視野に入れているともいわれ看過できない動きになっています。
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要するに、中高生が(遅かれ早かれ)セックスをすることを前提とした性教育(避妊や性感染症)ではなく、性行為をしないことを前提とした上での性教育にしろということでしょう。それは「安易に具体的な避妊方法の指導をするべきではない」などといった部分に露骨にあらわれています。

こういう精神論重視の復古傾向で対応しようとしても、何にもなりません。性感染症の実態や避妊法も含めて全ての事実をきちんと知らせることが第一で、子どもは馬鹿ではありませんから、ちゃんと反応して考えてくれます。基本的に、安倍・山谷復古軍団や都・中教審の委員自身が子どもを理解し育てようとする姿勢や子どもに対する信頼感に欠けており、エイリアンのように恐れているとしか思えません。
先日のエイズ国際会議でも日本の性教育のあり方が厳しく批判されていました。

青森県では、ここ数年の熱心な性教育が奏効して、十代の妊娠中絶が昨年はじめて低下傾向に転じました。この流れを逆行させないことが大切です。

「中学生以下セックス禁止条例」関連:
「青少年の性行動について考える委員会 意見のまとめ」について 平成16年11月15日(東京都)
座談会「中学生以下セックス禁止条例」とは(上記委員会委員からの批判的意見)
中学生はセックス禁止?(ufp ニュース潜望鏡 渋井哲也)
行政の白痴ぶり極まれり! 中学生セックス禁止令ほか 性規制のあきれた現状(岩田智也 サイゾー2004年12月号)
中学生以下のセックス禁止条例、議論は白熱(テクストによる恋愛放談)