栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

奇跡! 中国で忘れ物が出てきた。

2005-08-01 23:17:12 | 視点
 パソコンやデジカメ、それに妻の遺骨まで入れたリュックを、あろうことか上海のリニアモーターカーの中に忘れる大失態を演じた私は、もう閉まっているから明朝まで待たないとダメだと言われたが明日まで待つ気になれず、とにかくリニアカーの終点駅に行ってみることにした。
 もう一度地下鉄に乗り龍陽路駅まで戻り、リニアカーの乗り場に上ろうとすると、中国人が何か声を掛けてきた。同行の中国語が話せる友人によると、エスカレーターはもう止まっていると言っているとのことだった。
 では、上に上る階段はどこにあるのか? 色々やり取りをした結果、リニア駅はもう閉まっているとのことだった。そんなバカなと思ったが、どうも本当らしい。リニアカーの中に荷物を忘れ、それを探している、と言うと、向こうに行くと守衛室があると親切に教えてくれた。

 教えられた方に行くが守衛室らしきところは見つからない。こういう時は冷静さを欠いているから仮に日本語で教えられても分からなかっただろう。いわんや中国語である。通訳代わりの同行者も状況は同じだった。
 建物の端まで行った時、警察官らしき制服の人を見つけたので、その人にリニアカーの中に忘れ物をしたので探していると伝えて、やっと守衛室に連れて行ってもらうことができた。

 「どこから乗ったのか」
「空港から、浦東空港からだ」
「何時頃だ」
「4時半ぐらい」
「荷物はどんな形をしているか」
「背中に背負うリュックサック。デイバック」
 と、背中に背負う格好をする。 
 その内、奥から日本語を話せる中国人が一人出てきて、日本語で応対してくれだした。これで随分助かったが、彼はJTBの社員だった。
 その間にも守衛と思しき人達はどこかにしきりに電話してくれた。
「残念ながら落とし物は90%以上出てこないと思って下さい。ただ、まだ列車が車庫に入っていないので、最終的な答えはもう少し後の時間になります」
 丁寧な日本語で、JTB社員の沈さんは私達を落胆させないように気を配りながら、かといって期待もしないようにと現実を教えながら、
 「明日、私は休みですが、明日は富島さんという日本人の社員がいますから、伝えておきますので、明日連絡して下さい」
 と言って、会社の電話番号と自分と富島さんの携帯の電話番号まで教えてくれた。

 「実は昨日は言わなかったのですが、リュックの中には妻の遺骨が入っているのです」
 翌朝、教えられたJTBの電話番号にかけ、出てきた富島さんにそう打ち明けた。
その瞬間、電話口の向こうで相手の女性が緊張したのが分かった。
「それはお困りでしょう。もう一度交渉してみますから、もう少し時間を下さい」
 その後、彼女とは3度電話でやり取りをしたが、最後の2度は主にリュックの色とか中身の確認だった。

 リュックが保管されていることが分かったのだ。まさに奇跡としか言いようがなかった。
 私達はJTBを利用した客でもないのに、親身になって交渉してくれたJTBの中国人社員、沈さんと、日本人社員の富島さんのお陰だった。本当にありがたかった。

 後で考えると、この奇跡はいくつかの条件が重なった結果起こったように思われる。
 1つはリニアカーの50元という高い運賃。
これだけの金を払って乗れるのは外国人か裕福な中国人であり、もし、これが一般列車だったらまず出てこなかったに違いない。
 2つ目は乗った時間帯が4時半頃だったこと。リニアの運転時間が5時半までなので、網棚にリュックが置かれたままの時間が短かかったことも幸いしたに違いない。
 3つ目はJTBの親切な社員に巡り会えたこと。
 そして私達が翌朝まで待たずに素早く行動し、現場まで行き諦めずに訴えたこと。最後に、なによりも妻が守ってくれたからだと思う。
 初日から散々なトラブルに見舞われながら、私の上海旅行は幕を開けたのである。さて、この後何が起こることやら。