栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

これでスマホ利用料は下がるのか~有識者会議提言の疑問(2)

2016-01-18 10:08:36 | 視点
 もう1点、新規顧客優遇策を販売店が止められない理由がある。それはケータイ分野に限ることではないが、販売店は常に新商品を数多く売りたいと考えている。新商品の方が売上高が上がるし、売上高が上がればそれに応じて販売奨励金(バックマージン)が増えるのはどの業界でも同じ。だから買い替え、買い増しを狙って様々な販売策を打ち出すのはやむを得ない。
 また常に一定割合で新規顧客を増やさなければ企業は停滞あるいは衰退する。
故に、新規顧客優遇策がなくなることはないのだ。

 このように新規顧客優遇策がなくなることはないのだから、仮に「実質ゼロ円」
みたいなことは止めろと規制したとしても必ずほかの方法が現れる。その度に規制をかけていくのか。発泡酒、第3のビールの酒税アップの様に。それでは消費者利益を守るという当初の目的から外れ、逆の結果になるだろう。

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3.ハードとソフトの徹底分離を

 スマホ利用料で最も不満が高いのは30秒20円という通話料の高さだろう。フィーチャホン(従来型の携帯電話、いわゆるガラケー)の場合は平均的なところで30秒14円(ドコモのタイプMバリュープラン)。最も割高なタイプSSバリュープランで30秒20円だが、無料通話分1,000円が付くから、やはりスマホに替えた瞬間、通信料が跳ね上がったという印象は拭えない。

 ところで、本稿で通話料を比較するためフィーチャホン、スマホの通話料を調べたが、いろんなプラン、いろんな割引制度があり、まるで迷路のようで非常に分かりにくい。各種制度に詳しくない人では販売店の勧められるままになってしまう。もっと分かりやすい、シンプルなプランに変えることこそ必要ではないか(公平感を保つためにも)と思ってしまう。

 その点、SIMフリーを扱うMVNO(仮想移動体通信事業者)の料金体系はシンプルで、各社とも通信料は30秒20円。後は使える容量によって(月1Gまでとか3G、5Gというように)料金が違うだけだから非常に分かりやすい。
 無料通話分などのサービスは一切ないが、楽天電話、FREETEL電話、Biglobe電話などの電話アプリを使えば通話料が半額(30秒10円)で使える。

 今春以降、SIMロック解除が義務付けられたおかげでMVNO市場は2015年9月末時点で3,642万回線と前年比88.9%増と急速に拡大し、今年度末には4,000万回線突破が確実視されている。
 SIMフリー市場が拡大しているのはキャリアの利用料が高いからに他ならないが、この先も市場が拡大し続けるかと言えば多少疑問符が付く。
 それはパソコンのDOSV黎明期と似ているからだ。日本国内でPCといえばNECの98シリーズを指すほどNEC製PCが幅を利かせ、その頃の販売方法はハードとソフトのセット販売だった。OSはNEC用にカスタマイズされたMS-DOSを使うしかなく、ハードとソフトを別々に調達して使うなどというのは一部の先進的マニアの利用方法でしかなかった。いま振り返れば嘘のような話だが。

 いまスマホも同じ過程を辿りつつある。にもかかわらずスマホの利用料が下がらないのはユーザーが自由にハード(端末)とソフト(SIM)を組み合わせられないからだ。
 SIMロックは解除されたものの、相変わらずキャリアはスマホとSIMのセット売りをしており、単品売りに応じていない。要はハードとソフトの完全分離がまだ不十分なのだ。両者の完全分離を義務付ければほぼ間違いなく価格は下がる。





4.2年縛りの撤廃を

 携帯電話(スマホ、フィーチャホン)の自由な乗り換えを妨げている最大の要因はキャリアによる「2年縛り」と高い解約料だろう。例えばMVNOへの変更を考えたとしても2年契約で縛られているため、期間途中の解約は違約金を科せられる。この金額がバカにならないのだ。
 仮に契約満期前に他社への転出を考えるとどうなるか。
 解約料:9,500円
 転出手数料:3,000円が請求される。
 さらに他社へ移動する場合は転入時の手数料(3,000円)を契約先に支払わなければならない。
 そのため2年途中での解約、他社への転入時に必要な金額は
 9,500円+3,000円+3,000円=15,500円(税別)

 これだけが余分な出費になる。なかでも大きいのが解約料だ。仮に100歩譲って解約料を認めるにしても1年以内に限りとか、残月数により解約料が減少していくようにすべきだろう。そうすれば契約者の移動は楽になり、携帯電話利用料はぐんと下がることになる。
 なにもキャリアに「通信量が少ない人向けのプラン」を導入しろなどと言う必要はないのだ。すでに1G、3GなどのプランはMVNOが導入しているのだから。
 要はMVNOを利用しやすい環境を作りさえすれば済む話だ。それをせず、キャリアに「通信量が少ない人向けのプラン」導入を迫る今回の提言は方向がおかしい。

5.「かけ放題プラン」がMVNOに登場するか

 以上見てきたように、ハードとソフトのセット販売、2年契約と高い解約手数料でユーザーは縛られ、自由にキャリア間、あるいはキャリアからMVNOへの移動がしにくい。これは裏を返せば一度ユーザーを取り込めば最低でも2年間は固定化できるわけで、そのためなら割引拡大をしてでもユーザーを取り込みたい(取り込んだ方がいい)と考えるのは道理だろう。かくして競争が「割引サービス」に矮小化されてしまう。
 つまり競争原理を働かせるためには上記2点(特に高い解約手数料と「2年縛り」)をなくす、あるいは下げることだ。そうすれば、ユーザーは自由にキャリア間を、あるいはキャリアからMVNOへの移動がしやすくなる。
 そうなればキャリアはユーザーを繋ぎ止めるためのサービス(価格、プラン内容)を多様化せざるを得なくなり、競争原理が働いてくる。





 最後に、今回の「提言」で取り残された部分の問題。ライトユーザーへの対策のみが取り上げられ、長期利用者やヘビーユーザーへの対策が全くといっていい程触れられていない点をどうするのか。
 月間通信量1G、せいぜい使っても3G以下というライトユーザーへの対策はキャリアが新しいプランをわざわざ作るまでもなく、すでにMVNOが実施しているから、MVNOへ任せればいい。後は移動しやすくするだけでいい。
 何度も繰り返すが、障壁になっているのは「2年縛り」と高い解約手数料だ。これさえなくなればユーザーは各社の料金やプランを検討し、いつでも自由に移動できる。

 それより問題は長期利用者や通信料が多いヘビーユーザーの負担をどう下げるのかだ。例えば利用年数に応じて通信料が下がっていくプランを導入するのはどうだろう。
 これは比較的簡単に導入できるように思える。すでに固定電話等では似たようなシステムが導入されているではないか。
 もう一つはMVNOが「かけ放題プラン」を導入できるかどうかだ。キャリアと違いMVNOは知恵を絞り様々なプランをすでに導入しているし今後も導入していくに違いない。「かけ放題」にしても完全定額制ではないものの一部似たようなプランを実施している業者もいる。キャリアとの接続料が下がれば、今後より本格的な「かけ放題プラン」を導入するところが、早ければ来年度中にでも出現するのではないかと私は読んでいる。
 もし、そういう魅力的なプランが現れても、2年契約で縛られていると変更できないので、縛りがないSIMフリーを使いながら待っているのが今の私の現状である。







これでスマホ利用料は下がるのか~有識者会議提言の疑問(1)

2016-01-18 09:49:03 | 視点
 「携帯電話の料金」が高いから下げろと言う。「携帯電話」とは言っているが槍玉に挙がっているのはスマートフォン(以下スマホ)の利用料金のことだ。これがエンゲル係数ならぬスマホ係数(?)が高くなっているので是正しなければならない。だから料金を下げろと。
 何につけ下がるのはいいことだ。下がってよくないのは収入と家族の絆ぐらいだから、下げろと言うのは大歓迎。だが、ちょっと気に食わない。何が気に食わないかといって、官邸のお達しで下げろと命令されるのが気に食わない。と言っても、下げろと言われている相手はドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話キャリアだから、こちらが憤る筋合いではないが、上から命令するのが気に食わない。

 たかがスマホの利用料程度のことに国がとやかく言わなければならないのか。
そんな小っちゃなことで有識者会議を開いて云々する前に、もっと他にすることがあるだろう。それとも来年の参議院選に向けて庶民受けを狙ってのことなのかとつい勘ぐってしまう。
 ついでに言えば、こんなことに引っ張り出される「有識者」とやらも大迷惑だろう。だからか「提言」もいい加減なもので、本当にそれで「携帯電話の料金」が下がるのかと訝ってしまう。
 だが、それはこちらの勝手な思い込み、勘違いで、会議の名目は「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」ということらしい。早い話が料金値下げではなく「料金その他の提供条件」なのだ。まあ、携帯電話の利用料金に困っていない連中が議論することだから、「キャリアは儲け過ぎだ」「通信料をもっと安くするべきだ」などと言うはずはなく、せいぜい今より「安いプランを作れ」程度のことしか言えないのだろう。

 これではいくら総務大臣が「速やかに対応する」とキャリアへ強く迫っても、キャリアの方はその程度のことなら即対応するに違いない。そう思っていたら、18日、ソフトバンクは通信量が少ない利用者向けに、月額5,000円以下のスマホ向けプランを開始する方針を固めたと発表した。彼らにしてみれば、もっと強く通信料の値下げを迫られるものと多少覚悟していたのがちょっと拍子抜けというか、その程度のことならと胸をなで下ろしたことだろう。

 さて、鳴り物入りで始まった(なんといっても総理大臣の鶴の一声で始まったのだから)スマホ利用料の見直しだが、来年度から思惑通りに料金は下がるのか。
 結論から言えば下がらないだろう。ただ安いプランが出る(だろう)から通信料が少なめの利用者(私もその一人だが)は助かりそうだが。

 では、スマホの利用料を下げるためにはどうすればいいのか。

SIMフリースマホ入門:SIMフリースマホをさらにおトクに買う方法

1.競争原理が働いてない

 一番の問題は競争原理が働いてないことだ。日本企業は昔から横並びが好き。
出る杭は打たれると思っているのか(そんなことは考えてないと思うが)、他社と違うことはしたくない傾向がある。裏を返せば、AdventureもVentureも避け、無難なところで他社並みの利益確保をしたいだけだ。そしてできることなら先頭ではなく2番手で行きたい。ライバルの出方を見ながら、それに追随していくのが楽だからだ。
 皆がこういう考えだから当然のごとく競争原理など働くはずがない。競争原理が働かないところに価格破壊は起こらない。かくしてスマホの利用料も似たり寄ったり、目糞鼻糞の違いでしかない。
 では、どうすれば競争原理が働くのかについては後述するとし、新規顧客への過剰割引について見てみよう。

2.新規顧客への過剰割引が槍玉

 今回の「会議」で槍玉に挙がったのが新規顧客(他社からの転入客を含む)への過剰割引。早い話が端末代金を「実質ゼロ円」にするのは止めろというわけだ。
 理由は新規顧客ばかり優遇し、長期契約者が不利益を被っている。長期に渡り利益貢献しているのは長期契約者なのに、短期でキャリアを渡り歩く転入者の方が長期契約者より優遇されるのはおかしい、不公平だ。そもそも利益に貢献しているのは長期契約者が払っている通信料ではないか、と。
 たしかにその通り。異論はないどころか諸手を挙げて賛成。だが、その先の論理展開がちょっとおかしい。

<長期契約者が優遇されてない→長期契約者への優遇策の導入、増加>
 これなら分かるが

<長期契約者が優遇されてない→新規顧客への過剰な割引の廃止>
 と来るところが理解に苦しむ。論理の飛躍である。

<長期契約者が優遇されてない→長期契約者への優遇策の導入、増加→新規顧客への過剰な割引の廃止>

 と進むべきだろう。少なくとも「長期契約者への優遇策の導入、増加」が先に行われなければならない。
 なぜ、この部分の導入に言及しないのか。長期契約者への優遇策の導入、増加はキャリアにとって不利益だからだ。つまりキャリアの経営に配慮したキャリア寄りの提言で、なんら利用者のことは考えられていないのだ。
 にもかかわらず、「鳴り物入り」で「会議」を行った意味は何か。やはり消費者受けを狙った政権与党の自画自賛と来年の参議院選を狙った点数稼ぎ以外にない。

 なんだ、これではキャリアを変えるメリットはなくなるのか、と落ち込まなくてもいい。暑さ寒さも○○まで、いや違った喉元過ぎればなんとかやらで、半年も待てばまた「実質ゼロ円」か、それに近い形の割引制度が復活するだろう。ケータイ電話の時も「端末タダ」は行き過ぎと批判され、一時期自粛したが結局元の木阿弥。それどころか、さらに輪をかけた値引き商戦になったのはまだ記憶に新しいはず。だから今回も同じことになるだろう。





 ケータイ、スマホを乗り換えるならイマ!
 1月中旬から各社割引率の縮小に動き始めたので、今後は割高に。
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