栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

老人力と厚かましさが増してきた。

2016-12-26 19:29:00 | 視点
 人は歳を取ると変わるものらしい。若い頃には想像もできなかった自分を発見し、ビックリすることがある。
それが時々顔を出す程度ならいいが、常時出っぱなしだと、本来の自分はどちらなのかと考えてしまう。
 まあ誰しも多面性を持っており、その時々に応じて違う面が出るのはよくあることだから、
あまり深く考えなくてもいいのかもしれないが、元来、大勢でワイワイ騒ぐよりは一人静かに過ごす方が好きで、
およそ自分から見ず知らずの相手に話しかけることなど想像もできなかった自分が、歳を取るに従って
段々厚かましくなってきたのには我ながら少し手を焼いている。

厚かましさが増してきた

 先日、京都駅から新大阪に向かう列車内でもそうだった。
座った席がたまたま4人掛けで、向かいには年配の女性が2人座っていた。
その2人の会話が聞くとはなしに耳に入ってくる。
こういう時、人間の耳はよくできていてほとんどの言葉は外国語かBGMのように通り過ぎていくだけだが、
知っている単語だけは耳に留まる。
この時は「からつ」という単語がそうだった。

 おやっ、「からつ」と聞こえたが、「唐津」のことだろうか。
それとも佐賀以外に「からつ」という場所があるのだろうか。
 そう考え出すと今度は多少耳をそばだてるようになる。
すると「九州」という単語が聞こえた。あっ、やっぱり佐賀県の唐津のことなんだ。

 それで済ましておけばいいのだが、ついつい「いま唐津と言われていましたが、佐賀県の唐津のことですか。
私らは福岡から来たんですけど」と話しかけてしまった。

 結局、新大阪に着くまで向かいの女性達とお喋りをしてしまったが、2人は姉妹で妹さんは名古屋、
姉さんはカナダ・トロント在住で里帰りしたついでに姉妹で京都見物に来たらしかった。
唐津はご主人の里で帰国した折に里帰りもしており、明日、唐津へ行くとのこと。

 「ああ、そうですか。私らは今日福岡へ帰りますから1日違いですね」などと世間話に興じてしまった。
 車内で話しかけられたことはあっても、自分から話しかけることなどなかっただけに、
変わり様に我ながらビックリし、歳を取ると人間厚かましくなるのかもと苦笑したりしている。

車で全国を旅している男



 11月中旬から下旬にかけて帰省していたが、その時触れ合ったのが日本全国を車で移動している男性。
 寺の前の駐車スペースに1台の車が駐まっていたので近づいて話しかけた。
車体の至る所にワッペンを貼り付けており、その中に「日本一周」と書かれたワッペンもあったから、
恐らく車中泊しながら日本全国を走っているに違いないと考えた。

 ワゴンタイプの軽自動車で神戸ナンバーだったから神戸から西に向かっている途中か、
これから神戸方面に帰るところだろう。
見ると後部席ドアが開いており、外に運動靴が脱がれていた。
サイズが小さかったので女性かとも思ったが、女性の一人旅はないだろうから夫婦で旅かなどと
想像しながら近づいて話しかけた。

「日本一周と書かれてあるけど全国を旅してるんですか」
「全国行ってないとこはないですよ」
 ちょうど昼時だったこともあり、中で「うどんすき」を食べていた。
中を少し覗くとコンロも備えられ、自炊も出来るようになっていた。

「夏は北海道へ行くんですわ。北へ北へと向かって走ってます」
「そう、冬は沖縄まで行くわけだ」
「フェリー代、いくらかかるか知ってますか? 沖縄までフェリーで行ったら大変ですよ」
「えっ、そんなにかかるの。そりゃ無理だ。じゃあ鹿児島までか」
「えっ、お宅、福岡? 私、この間福岡行ってきましたよ。友達おるから。宗像」

 どうやら一人旅らしい。
「年中、車中泊しながら回ってるわけだ」
「いや、家に帰りますよ。旅してんのは100日ぐらい」
「奥さんは一緒に行かないの?」
「女房はこの車乗んの嫌いですねん。スーパーに買い物行くのもこれ乗らへんから。
皆に話しかけられるゆうて。目立つから」

 そりゃあそうだろう。これだけペタペタワッペンを貼っていれば否が応でも目立つ。
おまけに女性が運転しているとなれば男は興味半分で寄ってくるだろう、などと思いながらウンウンと頷く。

「何年ぐらい旅してるの?」
「そこに書いてますやろ」と言われて、指さされたドアの内側を見ると、
「2007年」という文字とハートマークなどが書かれていた。

 一人旅を続けるタイプには2種類ある。と勝手に考えている。
一つは人嫌いで、もう一つは人との触れ合いを楽しむタイプだ。
彼は後者のタイプ。祭りの日に、それぞれの地に行くと言っていたし、そこで出会った人と、
また来年この日にここで会おうなと再会を約しているそうだ。

 歳は、全国を放浪する時間があるということだから60歳より若いことはないだろうと思っていたが、
「いくつに見えますか」と聞かれたので「私とそう変わらんだろう」と答えたが当たっていた。
「髭を伸ばしていると歳取って見られますけど、僕の方が年下ですよ」。
いずれにしろ団塊の世代だ。

「この車、軽ですよね。軽を車中泊できるように改造したわけ」
「これ、軽トラですねん。軽トラを改造して売っている所が都城(みやこのじょう)にあるんですよ。
そこまで列車で行って買ったんですわ」

 そう言えば車中泊でネット検索した時、宮崎・都城の会社の名前がヒットしていたのを思い出した。
 数か月に一度、片道500km余り走っているから、ひたすら走るだけでなく車中泊でもしながら、
途中途中で寄ってノンビリ走るのもいいかなと思っているんだけど、この車で大体いくらぐらい
かかるのかと尋ねると、オプションで色々付けなければ200万円弱ぐらいだと教えてくれた。

 「買うんだったら70までに1歩踏みださんかったら後は絶対にせんから。
70過ぎたら旅に出るのも億劫になるし、嫁さんも歳取ってくるから反対し出すし」と、
こちらの逡巡している気持ちを見透かしたようなアドバイスをされた。