会社の経営状況を鑑みて、あるいは、特定の者の働きぶりを見て、「従業員の賃金を下げたい」と考えることがあるかも知れない。 しかし、労働条件を労働者にとって不利益に変更するのは、容易ではない。
労働条件は、労働契約によって定まる。 この「労働契約」には、個々の従業員と締結した「雇用契約」(狭義の労働契約)のほか、適法に制定された「就業規則」や労働組合と交わした「労働協約」も含まれる。 したがって、労働条件を変更するということは、雇用契約・就業規則・労働協約のいずれか(1つもしくは複数)の内容を変更することを意味する。(得意の三段論法)
さて、これらのうち、雇用契約と労働協約については、内容を変更するには労使双方の合意が必要なため一定の歯止めが効くが、就業規則は、会社が一方的に制定するものであるため、恣意的に内容を変えてしまうことも可能だ。
そこで、労働契約法は、就業規則を変更することによる不利益変更を原則として禁じた(第9条)うえで、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が(中略)就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」に限り、就業規則の変更による不利益変更を例外的に認めている(第10条)。 条文中の「就業規則の変更に係る事情」は、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他、とされていて、これらが安易な不利益変更を阻むハードルとなっている。
もっとも、両当事者が合意していれば契約内容を変更できるのだから、会社は、不利益変更に当たっては、まずは、当該従業員(または労働組合)を説得することを第一に考えるべきだろう。
ただ、説得の過程で詐欺や強迫があってはならず、あくまで本人の自由な意思に基づく同意を得られるよう努めるべきなのは言うまでもない。「十分な熟慮期間も与えずに退職か本件賃金減額かの二者択一を迫った」として年俸額の期中減額に関する合意を無効とした裁判例(東京地判H30.2.28)も参考にしたい。
雇われている側にしてみれば、安易に労働条件を下げられては、たまったものではない。 経営陣はこのことを親身になって理解し、やむを得ず不利益変更に踏み切る場合は、真摯な姿勢で当事者に向き合うべきだろう。
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