先ごろ、某大手企業が在宅勤務制度を導入することを表明して話題となっている。在宅勤務制度自体は特段目新しいものではないが、今回のケースが特徴的なのは、特定の部門や職種に限定するのでなく、全社的に適用させるとしている点だ。
ではまず、在宅勤務制度のメリットとデメリットを整理しておこう。
メリットとしてまず挙げられるのは、当然、通勤に要する時間が不要となることだろう。そして、その時間を、休養に充てるも良し、家族とのふれあいに充てるも良し、地域活動に充てるも良し、もちろん仕事に充てても良い。つまり、文字通り「ワーク・ライフ・バランス」に即した働き方ができるようになることが、在宅勤務の最大のメリットと言えそうだ。
また、会社にとっては、「通勤手当」という労務の提供を受けない部分に対する賃金を支払わずに済むほか、事務所の維持費や水道光熱費等の削減も期待できるという側面もある。
一方、デメリットとしては、フォーマル・インフォーマル両面において社内コミュニケーションが取りにくくなることが第一に挙げられよう。在宅勤務であっても最小限必要な会議等に出席させることは可能だが、それだけでは職場の一体感は自ずと希薄になり、モラールも低下しがちだ。加えて、他部門との連携が難しくなることもあって、会社全体として知識・情報・ノウハウの蓄積が図りにくくなることが大きなデメリットと言えるだろう。
また、在宅勤務制度を導入すると、実は、労働時間管理が煩雑になる。「在宅勤務=事業場外みなし労働時間制」と考えがちだが、そうとは限らない。労働基準法38条の2は「事業場外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間(または通常必要な時間もしくは労使協定で定めた時間)労働したものとみなす」と定めているのであって、例えば、テレビ電話等の機能を用いて随時業務連絡が可能になっているなら、「みなし」は使えず、労働時間を算定しなければならないのだ。
さらには、在宅勤務では、いきおい過重労働になりがちなのも問題だ。深夜労働や法定休日労働には割増賃金の支払い義務が発生することを含め、在宅勤務制度の逆効果が生じないよう、個々の労働時間を綿密にチェックする体制を整える必要がある。
そう考えてみると、在宅勤務制度は、多くの会社が実行しているように特定の部門や職種に限定して導入するのが無難と言え、全社的に導入するのは困難を極めるのではなかろうか。
もっとも、今回のケースは、このように(本稿を含め)各所で話題に上ったお蔭で、企業PR面での効果があり、それだけでも会社としては成功だったと言えるのかも知れないが。
※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
(クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
↓