私傷病による欠勤が長期間にわたるような場合にその従業員を休職させる制度を設けている会社は多いが、その休職中に海外旅行に出掛けるという“不届き”な者もいると聞く。
本来、私傷病により労務の提供ができないのなら会社はその者を解雇しても良いところ、治療のために一定の期間を設けて、言わば「解雇を猶予」するのが、「休職制度」の意義である。それを、治療とは関係ない(湯治や転地療養とは異なる)個人的な旅行に使われてしまうのは、会社としては面白くないし、従業員間の不満やモラールダウンの要因ともなりかねない。
では、そういうことを防ぐために、就業規則に「休職期間中に旅行に出掛ける場合は会社の許可を得ること」といった規定を盛り込んでおけば良いかと言うと、そんな簡単な話でもないのだ。
休職期間は、前述のとおり「治療のための解雇猶予期間」なのだから、病状を悪化させもしくは治癒を遅らせる行為は許されない。しかしこれは、逆に言えば、病状を悪化させもしくは治癒を遅らせる行為でない限り(もちろん反社会的な行為や会社に損害を与える行為を除き)、会社は従業員の私的行為を規制することはできないということでもある。
会社としては、「長期間自宅を留守にする場合は連絡先を届け出ておくこと」と定めておくのが精々だろう。
また、昨今は「新型うつ」への配慮も求められている。その典型症状は「出社拒否」であるが、休日は元気なのに、会社に行くと(または行こうとすると)体調が悪くなるという人にとっては、会社が私生活に口出しすること自体が治療面においてマイナス効果となる可能性すらある。
さらに手続き面においては、休職中の私生活について従来の就業規則に無かった制約を新たに設けるのであれば、“就業規則の不利益変更”である。となれば、労働契約法第10条を踏まえた変更手順が必要となるわけで、その場合、「変更の必要性」・「内容の相当性」を説明する材料を会社は用意できるだろうか。
そもそも、この話は「面白くない」とか「不満やモラールダウン」といった“感情面”の問題なのだから、制度の変更ではなく、当事者との話し合いで解決を図るのが最善ではなかろうか。
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