ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

社内での政治活動を禁じることに問題は無いか

2018-11-23 15:29:05 | 労務情報

 多くの企業では、就業規則で、社内での政治活動を禁じている。
 就業時間内は従業員には職務専念義務が課されているので当然としても、休憩時間は自由に利用させなければならない(労働基準法第34条第3項)ことから考えれば、この規定は違法ではないのだろうかとの疑問が湧くかも知れない。

 結論を先に言えば、社内での政治活動を禁じるのは違法ではない。

 その根拠は、「施設管理権」・「社内秩序維持」・「他の従業員の休憩」の3側面から説明できる。(参考判例:最三判S52.12.13)
 第1に、会社は、会社施設を管理する権利を有している。政治的な演説や集会を行うにあたって会社の許可を求めさせ、また、無断での演説や集会を中止させることは、施設管理権の正当な行使と言える。
 第2に、従業員は社内秩序を維持しなければならない。この義務は、就業時間外であっても免れるものではない。一般に、政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあるため、社内秩序維持の観点から自ずと一定の制約を有すると言える。
 第3に、他の従業員も休憩時間を自由利用できるところ、それを妨げ、ひいては休憩後の作業効率を低下させるおそれがある場合には、会社はそのような行為を禁じることが可能だ。

 しかし、この3側面を逆にとらえると、会社施設管理に支障が無く、社内秩序を乱すものでもなく、他の従業員の休憩の妨げにもならない行為(例えば、「机の上にビラを置く」程度のもの)であれば、会社がそれを禁じる根拠が揺らいでしまう。それを、就業規則の文言のみに拠って懲戒処分を科すというのは、少し無理がありそうだ。
 また、その行為が「労働組合活動」であった場合には(「政治活動」と類似してはいるものの)、それを禁じたり、その禁止命令に反したことを理由として懲戒したりすると、不当労働行為となってしまうケースもありうる。

 以上を整理すれば、就業規則に社内での政治活動を禁じる規定を設けること自体は合法であるとしても、それを適用して従業員を懲戒するにあたっては、慎重に考えるべきと言える。

 なお、ここでは「政治活動」として考察したが、「宗教活動」や「趣味のサークル等の活動」も、これと同様に考えることができる。


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人事考課の効果はフィードバックしてこそ

2018-11-13 17:39:04 | 労務情報

 冬季賞与の支給が近づき、人事考課を実施している会社もあることだろう。
 ところで、その結果は、適切にフィードバックされているだろうか。

 確かに、賞与査定として用いることも人事考課を付ける目的の一つには違いない。しかし、それだけで終わらせてしまっては、人事考課の効果は半減してしまう。例えるなら、学校でテストを実施した折に、その点数だけを通知表の評価に使って、答案のどこに間違いが有ったのかを教師が説明しないようなものだ。

 人事考課をフィードバックしないと、特に評価の低かった社員は、自分の査定に納得できていないかも知れないし、会社がどのような働き方を求めているのかすら解っていない可能性もある。
 評価が高かった社員にしても、高評価であった理由が説明されなければ、勝手な理由を付けて独り合点しているおそれすらある。
 評価の高低に関らず本人の反省を促し、モチベーションアップの材料とするためには、フィードバックが必須と言える。

 また、「本人の得手不得手を分析し、それを能力開発や配置転換の資料として使うこと」も人事考課の目的の一つであり、そのためにも、フィードバックは必要だ。

 さらには、上司(考課者)と部下(被考課者)との定期的な面談を実施することで、部門内のコミュニケーションを円滑にし、加えて、考課者自身の管理職としてのスキルアップにも寄与するという、付随的な効果も期待できよう。

 せっかく時間と労力と神経を使って(遣って)付けた人事考課なのだから、その効果を充分に引き出すように活用したいものだ。
 さらに言えば、「考課表」を作成する時点で、こういった観点も考慮に入れておくべきだろう。


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インフルエンザ予防のため従業員にワクチン接種させるべきか

2018-11-03 15:29:03 | 労務情報

 今年もインフルエンザ流行の季節が近づいて来ている。
 さて、企業のインフルエンザ対策としては、従業員やその家族が感染した場合にその感染を拡大させないための措置・ルールや、多数の従業員が休業した場合やパンデミックで交通機関が遮断された場合等に事業活動を維持継続させるための仕組みといった、いわば「事後策」も必要だが、そもそも従業員がインフルエンザに感染しないようにするための「予防策」を講じることは、それ以上に重要だ。
 具体的には、従業員に向けての「ワクチン接種の奨励」や「手洗い・うがい・咳エチケットの徹底」といった呼び掛けが考えられる。

 ところで、そのワクチン接種について、会社が“奨励”ではなく“業務命令”として従業員各人に強制することは可能なのだろうか。

 結論として、それは「不可」である。
 これが業務遂行や施設管理に関わる事であるなら会社が業務命令を発するのは可能、というより、そうするべきものだ。しかし、従業員の健康は、本質的に個人の自由と責任において管理するべき私的分野に属するものであるので、労働安全衛生法等で義務づけられるケースを除いて、会社はこれに干渉する権利を有さない。
 また、医学的見地からワクチンの副作用リスクも否定しきれず、事故が起きた場合に会社が責任を負いきれるかという観点からも、ワクチン接種を強制することは避けた方が無難だろう。
 ちなみに、平成25年に改正された予防接種法が「政令で定める者を除き任意接種」としていることを理由に「会社は強制できない」と解説する識者も見受けられるが、その法改正は、国が義務接種から任意接種へ方針転換したのであって、会社による強制の可否を定めたものではない。その点、本稿をお読みになっている諸氏におかれては、誤解の無いようにされたい。

 とは言っても、特にインフルエンザに感染する可能性の高い業態においては、職場全体でのワクチン接種には(“当たり外れ”はあるものの)一定の予防効果が期待できるので、極力、従業員全員に協力してもらえるよう努めたい。

 なお、現にインフルエンザに感染した従業員の就業を禁じるのは会社として当然の措置と言え、それを示唆したうえでワクチン接種を奨励するのは従業員の行動決定に良い影響を与えそうだ。
 そして、もちろん、ワクチン接種に要した費用は会社負担とするべきだろう。


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