ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

ハラスメント = 受け手が不快に思う言動

2022-01-23 20:59:09 | 労務情報

 労働施策総合推進法(正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」;俗に「パワハラ防止法」とも呼ばれる)の改正により、令和2年6月から(中小企業は令和4年4月)から、事業主はパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置(相談体制の整備等)を講じなければならないこととされている。
 しかし、パワーハラスメント以前に、そもそも「ハラスメント」とは何か、その定義づけから悩んでいる経営者も多いのではないだろうか。

 「ハラスメント」は、一般的に「嫌がらせ」と訳されるが、日本語で「嫌がらせ」と言った場合、嫌がらせに当たるかどうかについて客観的な評価が入るのに対し、「ハラスメント」はどちらかと言うと被害者の主観的な概念である。
 すなわち、ハラスメントに該当するかどうかは、「その言動の受け手がどう感じたか」に左右される。

 このことは、セクシャルハラスメントに関しては、「労働者の内心の不快感」を判断要素にした裁判例(最一判H27.2.26、最三判H30.11.6等)が複数出されており、ほぼ確立されている。
 セクハラ以外のハラスメントに関しては、受け手の不快感よりも、現に生じた損害(例:身体的な暴力を振るわれた、メンタルヘルスを害した、退職を余儀なくされた等)の重大さを判断要素にした裁判例(ハラスメントを認めたもの大阪高判H31.1.31等、認めなかったもの東京地判R1.10.29等)が多く見られるが、訴訟にまで発展してしまった発端は、やはり受け手の不快感によるものであることに違いなかろう。

 逆に言うと、その言動の受け手が不快に感じていなければ、ハラスメントには当たらない。
 仮にその容姿や年齢を揶揄するような言動があったとしても、言われた本人が損害(有形・無形とも)を被っていない以上、第三者が民事訴訟を起こすことは(わが国では)できないし、名誉毀損罪(刑法第230条)も侮辱罪(同第231条)も親告罪(同第232条)なので刑事訴訟にもならない。

 とは言うものの、受け手が不快を表明していないことをもって「不快に感じていない」と断定することはできまい。
 例えばその言動を発した側が優越的な立場にある者であったなら、受け手が「声を出しにくい」という状況に置かれていることも、想像に難くないからだ。
 また、見るに堪えない(あるいは、聞くに堪えない)言動により職場環境が乱れているようであったら、受け手自身がどう感じていようと、経営者として、それを是正する責務があると言えよう。


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作成した就業規則は必ず周知を

2022-01-13 08:59:19 | 労務情報

 就業規則は、作成したら従業員に周知しなければ意味が無い。労働基準法第106条においても「就業規則等の周知」が義務付けられているが、そのような法令の規定を俟つまでも無かろう。
 特に、従業員に制裁を課さなければならない場面において、予め就業規則が周知されていないと、トラブル発生の要因ともなる。周知されていない就業規則による制裁には、裁判所も否定的だ(最二小H15.10.10判「フジ興産事件」他)…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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定年後再雇用の労働条件は簡単に引き下げられない

2022-01-03 19:58:54 | 労務情報

 定年後再雇用に際して、そもそも、労働条件を引き下げることは許されるのだろうか。
 この問いに対しては、「定年後再雇用とは、一定の年齢に到達したことをもって雇用関係を一旦終了させて、改めて雇い直すことなのだから、どんな労働条件にしようと問題ない」と考える向きもあるだろう。 しかし、そんな単純なものではないのだ。

 まず、新たな労働条件に本人が同意しているかどうかが最大の問題となる。
 労働契約法第8条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容を変更することができる」と定めており、本人の同意があれば、労働者にとって不利益な労働条件とすることが可能だ。 しかし、その決定過程に詐欺や強迫があってはならず、あくまで本人の自由な意思に基づく同意を得られるよう努めるべきなのは言うまでもない。
 本人が同意しない場合においても、就業規則の変更により労働条件を変更することが可能ではある(同法第10条)が、同条に列挙されている要件を満たすのはハードルが高く、また、定年後再雇用にこれを適用するのは無理のあるケースも多いだろう。

 また、定年後の労働条件が従前(定年前)よりも大幅に低下する場合には、2つの観点から違法とされる可能性がある。
 1つ目は、高年齢者雇用安定法の観点だ。 同法第9条は企業に65歳(以上)までの継続雇用を義務づけているところ、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、法の趣旨に反し、不法行為となりうる(福岡高判H29.9.7)。
 2つ目は、パートタイム有期雇用労働法の観点だ。 定年後に再雇用された者は有期雇用労働者となるケースが大多数と推測されるが、その待遇については正規労働者との間に不合理な相違を設けてはならないことになっている(均衡待遇;同法第8条)。 さらには、正規労働者と同視すべき者であれば、差別的取り扱いをすること自体が禁止されている(均等待遇;同法第9条)。

 では、どの程度なら“大幅に低下”に該当するのかというと、それを明言するのは難しい。
 長澤運輸事件(最二判H30.6.1)で最高裁は、定年前と比べて約20~24%下がったことを是認したが、これがすべての事案にあてはまるわけではない。
 もっとも、その後も定年後の労働条件に関する裁判例はいくつか出されていて(福岡高判H30.11.29、名古屋地判R2.10.28等)、それらはいずれも共通して、「労使交渉」や「労使自治」という用語を強調していることは特筆に値する。
 それらを踏まえれば、定年後再雇用にあたっては、まず本人(または労働組合)と真摯に話し合って、両者が納得のうえで定年後の労働条件を決めることが肝要と言えよう。


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