ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労使協定は定期的にアップデートしていますか

2025-02-23 11:36:59 | 労務情報

 育児介護休業法が改正され、今年(令和7年)4月1日からと10月1日からと、段階的に施行されることになっている。
 これに伴って、今、就業規則や育児休業・介護休業に関する社内規程の改定作業を進めている会社も多いことだろう。

 今般の法改正ポイントはいくつかあるが、子の看護休暇(今般の法改正で「学級閉鎖対応」や「入学式参加」も休暇取得事由となったので「子の看護等休暇」に変わった)および介護休暇の対象者が拡大されることには注意したい。
 これまで、子の看護休暇や介護休暇は、継続雇用期間6か月未満の者を労使協定で除外することができたが、4月以降、それが廃止される。 つまり、「入社6か月未満の者を除く」などと定めている労使協定は改定しなければならないのだ。
 ついでに、協定文中の「子の看護休暇」という用語は「子の看護等休暇」に改めておくとよいだろう。

 ところで、育児や介護に関するものに限らず、行政当局への届け出を要しない労使協定(例えば「賃金の一部控除に関する協定」など)は、総じて、法改正に追いついていないものが多々見受けられる。
 特に“自動更新”規定を設けてある労使協定は、一度締結したら労使どちらからも異議が出ない限りそのまま永遠に有効なので、要注意だ。
 協定の有効期限について自動更新によることとするのは事務の効率化を考えれば肯定できるが、それに甘んじて内容の見直しもおろそかにするのは戴けない。 定期的にアップデートする仕組みを作っておきたいものだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

従業員が役員を兼務する場合の雇用保険手続き

2025-02-13 08:59:49 | 労務情報

 会社の役員(取締役、執行役、監査役、会計参与等)は経営者であって、本来、従業員の立場とは一線を画する。
 しかし、役員でありながら、従業員としての身分(部長・支店長・工場長等が該当するが必ずしも役職に就いていることを要しない)を有し、従業員としての賃金を受けている者も、珍しくない。 これを「使用人兼務役員」と呼ぶ。

 この使用人兼務役員は経営者であると同時に労働者でもあるので、その部分において労働基準法や労災保険法の適用を受ける。
 例えば、工場長として工場で作業中に負傷した場合は、労災保険から補償給付を受けられる。 ただし、株主総会出席中(取締役としての業務中)に負傷したようなケースは労災事故として扱われない。

 一方、雇用保険に関しては、雇用関係があると認められ、使用人としての賃金額が役員報酬額を上回る場合には被保険者になる(被保険者であり続ける)が、その旨、ハローワークで確認を受けなければならない。
 なお、代表権・業務執行権を有する役員(代表取締役、専務・常務等のいわゆる役付き役員等)は基本的には労働者性を有しないものとして取り扱われる。
 つまり、使用人兼務役員は、部分的に労働者であるには違いないが、雇用保険の被保険者になるとは限らないのだ。

 ちなみに、ハローワークで兼務役員の確認を受けるにあたって必要な書類は以下のとおり。
  (1)『兼務役員雇用実態証明書』
  (2) 登記事項証明書(会社の登記簿謄本)
  (3) 会社の定款
  (4) 株主総会・取締役会等の議事録(役員報酬額を確認できるもの)
  (5) 人事組織図
  (6) 役員報酬規程
  (7) 就業規則・賃金規程
  (8) 該当者の労働者名簿
  (9) 該当者の労働条件通知書(または雇用契約書)
  (10) 該当者の出勤簿等(原則として役員就任前後3か月分)
  (11) 該当者の賃金台帳または給与明細書(原則として役員就任前後3か月分)
  (12) (上記書類が存在しない場合や補足説明が必要な場合)『申立書』
  (13) その他、ハローワークが求める書類(ハローワークごとに扱いが異なる)

 この手続きは役員就任後すみやかに行うべきこととされているが、(10)(11)を揃えるには必然的に3か月経過後になる。
 もっとも、その他の書類(13)を求められることがあるので、該当する見込みが生じた段階で、予めハローワークで相談しておくのがよいだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

反復更新している有期労働契約に関する注意点

2025-02-03 08:59:37 | 労務情報

 有期労働契約(雇用期間の定めのある契約)が通算5年を超えることになった場合は、労働者の申し出により無期契約に転換する(労働契約法第18条)。 これは労働者が申し出るだけで無期契約化するのであって、相手方当事者(会社)の同意は不要だ。 また、例えば3年契約なら1回更新すれば5年を超えるので4年目には無期化を申し出ることができる。
 この「無期契約化」に関しては、平成24年の法改正で新設された概念であり、当時は経営を揺るがしかねない大問題として取り上げられたのを記憶されている向きも多いだろう。 しかし、同時に法文化された「雇い止め法理」(同法第19条)に関しては、既に確立していた判例(最一判S49.7.22、最一判S61.12.4)がそのまま制定法化された(周知期間も設けられず公布と同時に施行された)ためか、さほど話題にならなかった感がある。
 今回は、そちらの「雇い止め法理」について考えてみたい。

 「雇い止め」とは、有期労働契約を更新せずに終了させることを言い、「雇い止め法理」とは、労働契約法第19条が、「有期契約が反復更新により無期契約と実質的に異ならない状態になっている場合(第1号)、または労働者が期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合(第2号)には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない雇い止めは認めない」と定める根底にある考え方だ。
 そして、実務上は、無期契約化よりもよほど神経を遣わなければならない。

 特に会社側が注意しなければならないのは第2号だ。 有期契約の更新を繰り返しているケースで、労働者が次の契約更新を“期待”したなら(期待することに合理性があるなら)、5年を経過しなくても実質的に無期契約化したのと同義になるからだ。

 では、何回更新したら労働者が契約更新を期待することに合理性が認められるのか。
 これについて裁判所の判断は事案によってまちまちだが、一般的には「2回更新したら3回目以降の更新を期待する」と考えるのが自然だ。 また、もしも雇い入れの際に面接した者(経営者であれ人事担当者であれ)が例えば「ずっと働いてもらいたいが形式上1年契約にしておく」などと言ったとしたら、その時点で(一度も更新していなくても)「期待させた」ことになりうる。

 もっとも、反復更新している契約であっても、それなりの合理性・相当性があれば雇い止めは可能であるのだし、期中・期末を問わず退職を勧奨することは禁じられていない。 また、最後の契約締結時に「この契約を最終とし次期契約は締結しない」といった“不更新条項”を記載しておくことも有効な一策と言える。
 ただ、これらはいずれも、訴訟において会社の言い分が認められるとは限らないことは覚悟しておく必要がある。 その意味でも、雇い止めに際しては、本人にその理由を丁寧に説明して納得してもらうように努めるべきと言えよう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

兼業の実態と会社の対応について

2025-01-23 10:08:52 | 労務情報

 従業員が他社に雇用される兼業や副業(以下、本稿ではその主副を問わず「兼業」と呼ぶこととする)を認める人事制度を有する会社は約52%(リクルート2023年1月調べ)、しかも、そのうち71%がその人事制度を導入したのが「3年以内」と回答しており、今や兼業を禁じる会社は大きく減少しつつある。

【参考】リクルート『兼業・副業に関する動向調査データ集2022』

 会社が従業員の兼業を禁じる理由として挙げるのは、概ね次の5点に集約される。
  (1) 自社の業務に専念できなくなる
  (2) 企業ロイヤリティが低下する
  (3) 営業秘密や個人情報等が漏洩するリスクがある
  (4) 過重労働になりがちになる
  (5) 時間外労働の割増賃金支払い等の事務処理が煩雑になる
 これらのうち(5)以外は、必ずしもそうなるとは限らないし、兼業ではなく趣味やサークル活動に勤しんでいても同じリスクはあるのだから、ことさら兼業を禁じる理由としては弱い。
 ただし、(3)との関連からも、同業他社に雇用されるのを禁じるのはそれなりに合理性があるので、会社への届出義務を課して(釘を刺して)おくことは考えてよいだろう。

 そして、(5)に関しては、厚生労働省が先ごろ公表した『労働基準関係法制研究会報告書』では、兼業の場合には時間外労働に係る割増賃金支払いの対象としない案を提示している。
 というのは、割増賃金制度には使用者に対する時間外労働の抑制としての意味があるところ、兼業の場合にはその効果がないからだ。 また、兼業に係る使用者双方が他方での就労を含めて労働時間を管理しなければならない事務負担が大きすぎることも問題視されている。
 これが法令改正につながれば、(5)も兼業を禁じる理由から外れる。 もっとも、そうなったとしても、(4)の懸念から、使用者に対して労働者の健康管理に関する何らかの義務づけは残るだろう。

 ちなみに、(2)に関しては、先に挙げたリクルートの調査で、兼業を経験した者(個人)のうち29%が「本業の労働環境の魅力を改めて感じた」、23%が「本業の仕事の魅力を改めて感じた」、14%が「現在の仕事に前向きに取り組むようになった」(複数回答)と回答している。 これは非常に興味深い。

 総じて考えるに、会社としては、ある程度の制限は設けるとしても兼業を認める(推奨するまたは容認する)のが今日的な経営者の態度と言えそうだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「労働からの解放」に関する新しい概念2つ ~ 法制研究会報告書

2025-01-13 12:59:56 | 労務情報

 厚生労働省に設置された労働基準関係法制研究会は、令和6年1月23日から17回にわたって、その名の通り「労働基準」に関する法令等について議論してきたが、年明け1月8日に「報告書」をまとめて公表した。

 労働基準の問題は、ざっくり「労働者たる身分」と「労働時間」と「賃金」の三分野に大別されるところ、この報告書は、そのうちの「労働時間」をさらに「実労働時間」と「労働からの解放」とに分割して言及している。
 しかも、「労働からの解放」に関しては、「休憩」・「休日」・「年次有給休暇」といった従来からの概念に加え、「勤務間インターバル」・「つながらない権利」といった新しい概念も打ち出している。

 「勤務間インターバル」とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定の休息時間を設ける制度で、労働時間等設定改善法第2条第1項で「労働者の健康及び福祉を確保するために講じるように努めなければならない」として事業主の努力義務とされているものだ。
 研究会では「勤務間インターバル制度が必要」との共通認識は得られたものの、具体的なインターバル時間については、議論の中で示された「11時間」という数字の妥当性やそれを事業主に罰則付きで義務づけるべきか否かといった問題が残り、結論には到らなかった。

 「つながらない権利」とは、勤務時間外に業務と“つながらない”権利のことで、より強い語調で「アクセス遮断権」と呼ぶ向きもある。
 本来、労働時間ではない時間に使用者が労働者の生活に介入する権利はないが、現実には、突発的な状況への対応や顧客からの要望等によって勤務時間外に対応を求められることがある。 中には本当に緊急対応しなければならない事態も発生することもあろうが、それが“なし崩し”的に日常化してしまうと、仕事が私生活に介入してしまうことになる。
 報告書では、「つながらない権利」という概念を明記したうえで、勤務時間外に労働者に連絡を取る場合に「どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか」といった社内ルールを労使で検討すべきとしている。
 そして、政府には、このような話し合いを促進するためのガイドライン策定等を求めている。

 もちろん従来からの概念である「休憩」・「休日」・「年次有給休暇」に関しても議論されてきたが、それらを含めた「労働からの解放=働かない時間」にスポットを当てて、「実労働時間=働く時間」と並列で取り扱ったのが、この報告書(案)の一つの特徴と言えそうだ。

【参考】厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ひとり親家庭の親を応援する企業を募集中

2025-01-03 09:59:55 | 労務情報

 こども家庭庁では、現在、「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」の候補を募集している。
 これは、母子家庭の母や父子家庭の父(以下、「ひとり親家庭の親」という)の就業を促進する社会的機運を高めるための取り組みの一環として、ひとり親家庭の親を多数雇用している企業等や、母子・父子福祉団体等に事業を相当額発注している企業等を表彰するもので、平成18年度から(当初は厚生労働省にて)実施されてきたものだ。

 具体的には、ひとり親家庭の親を5人以上(従業員数100人以上の企業では6%以上)雇用している、ひとり親家庭の親の平均勤続年数が5年以上(または3年以上かつ該当者全員を正社員として雇用している)等の要件を満たす、または、ひとり親家庭の親もしくは母子・父子福祉団体に対して一定程度以上の発注を行っているなど、「ひとり親家庭の親の雇用または就業機会の確保」に対し、積極的に取り組んでいると認められる企業等を選定する。
 もちろん、重大悪質な法令違反がなく、ひとり親家庭の親の就業促進について理解があって、表彰されるにふさわしい企業等に限られる。

 この表彰を受けると、こども家庭庁サイトその他で社名が公表されるので、選ばれた会社にとっては「働きやすい職場」であることがPRでき、また、社内ロイヤリティの醸成や採用活動の面でもメリットが有りそうだ。

 表彰されるのは地方公共団体から推薦された企業等が多い印象だが、自薦による立候補も受け付けているので、条件に合致する会社は応募してみてはどうだろうか。
 応募締め切りは、1月31日とのことだ。

【参考】こども家庭庁 > 令和6年度「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」について


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノルマを達成できなかった従業員へのペナルティー

2024-12-23 09:59:08 | 労務情報

 「ノルマ」とは、もともとロシア語で「個人や集団に割り当てられる標準作業量」を意味するが、日本では、特に営業職における「必達目標」といった意味合いで用いられている。

 会社が経営計画達成のため売上高目標を設定するのは当然のことであって、それを各人のノルマという形で落とし込むことに問題は無い。 しかし、その運用方法によってはトラブルに発展しかねないので、会社(経営者や上司)は気を付けておきたい。
 極端な例を挙げれば、「ノルマを達成できなければ解雇する」というのは、違法とされる可能性が高い。 従業員を解雇するには「客観的に合理的かつ社会通念上相当」な理由が必要とされる(労働契約法第16条)ところ、「会社の求める成果が上げられなかった」というだけでは、この要件を満たさないからだ。

 会社は、ノルマ未達成の従業員に対し、まずは、その能力を高めるために教育・指導することを考えなければならない。
 ただ、この教育や指導にあたっても、トラブルとなる事例がしばしば見られる。 例えば、同僚の面前で叱責したり、懲罰的に雑用ばかりさせたり、といったものはパワーハラスメントにあたるし、未達成額を給与から勝手に差し引いたり、自腹で在庫を買い取る(俗に「自爆営業」とも呼ばれる)よう強要したりするのは、労働基準法違反にもなりうるので、これらの行為は厳に慎みたい。

 そして、適切な教育・指導のうえでなお能力が目標に追い付かなければ、“降格”や“配置転換”を考えることになるだろう。
 なお、そのような降格や配置転換であったとしても賃金を減額するのは労働条件の不利益変更に他ならないので、これらも正しい手続きを踏まなければならない。
 加えて言えば、この段階では、“退職勧奨”も視野に入れておいてもよいだろう。

 さて、その一方で、ノルマを達成できなかった従業員の賞与を減額するのは、“会社利益への貢献度”という観点から考えれば、賞与支給に関する特約の無い限り、差し支えない。 また、ノルマ達成度を昇格や昇進の査定に影響させるのは、むしろ公平・公正と言えよう。

 ちなみに、営業成績を歩合給に反映させるのは、そういう労働契約を交わしているならば問題ないと思えそうだが、労働基準法第27条が「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めていることには注意を要する。 つまり、完全出来高払いの契約は認められず、少なくとも「最低賃金額×労働時間」の賃金は保障しなければならないのだ。

 結論として、「ノルマを設定すること自体は有効だが、その未達成に対し過度に重いペナルティーを科すのは無効」と理解しておくべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カスタマーハラスメントへの対処は会社の義務

2024-12-13 10:00:52 | 労務情報

 今年10月4日、東京都では、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」が制定され、令和7年4月1日から施行されることとなった。
【参考】東京都産業労働局「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」

 その内容は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為(※)であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明記したことが特徴的だ。
 そして、事業者に対しては、都が発するガイドラインに基づいて、「必要な体制の整備」、「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」、「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。
 ※暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為

 そもそも、会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならない(労働契約法第5条)。
 したがって、この条例に拠らずとも、また、東京都以外の会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにし、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対処を講じるべき義務を負っているのだ。
 また、令和5年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」(労災認定の指標)には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントとそれへの会社の対応により労災事故と認定される可能性がある。 この通達自体は労災保険に関するものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなりうる。

 もし会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者の矛先が会社に向きかねない。
 「訪問した児童宅で飼い犬に噛まれて負傷した教諭がその損害賠償に関し児童の家族から土下座での謝罪を求められ、同席していた校長がそれを強要した」として被告の山梨県に損害賠償を命じた裁判例(甲府地判H30.11.13)は、発端はカスタマーハラスメントであったものの上司が対応を誤ったためにパワーハラスメントの話と化した事例と言える。

 なお、誤解してはならないが、顧客等からの正当なクレームは、自社の商品・サービスの品質改善にもつながるもので、これには真摯に向き合うべきだ。
 しかし、それが「要求内容に妥当性の無いもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」、そして「それによって労働者の就業環境が害されるもの」は、紛うかたなくカスタマーハラスメントであるので、経営者として毅然と対処しなければならない。
【参考】厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
    明るい職場応援団「職場におけるハラスメント対策研修動画」


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インフルエンザ流行への会社としての対策

2024-12-03 08:59:19 | 労務情報

 季節性インフルエンザが流行入りした。
 今年(令和6年)は夏が長引いたせいか昨シーズンの同時期より感染者が少ない印象だが、それでも11月24日時点で「定点あたり2.36人」と新型コロナのそれ(定点あたり1.81人)を上回っている。

 会社として行うべきインフルエンザ対策は、大きく「従業員に向けての対策」と「事業運営に関わる対策」との2面がある。

 従業員に向けての対策としては、「ワクチン接種の奨励」や「手洗い・うがい・咳エチケットの徹底」といった、インフルエンザの予防や感染防止に関する呼び掛けを中心とした活動が必要だろう。

 一方、事業運営に関わる対策としては、「従業員本人や家族が感染した場合の出勤見合わせ等の手続きルール」や「従業員が多数感染した場合やパンデミックで交通機関が遮断された場合等における事業活動の維持継続案」といった、いざと言うときに備えたプラン(BCPやBCM)を予め検討しておきたい。 これらをパンデミックになってから“泥縄”で考えたのでは対応が後手に回りがちであるし、実際にかかる事態下において対策を検討するのに充分な人的資源が会社に残されているかも心配だ。
 また、これらを「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」を受けて整備した会社も多いが、喉元過ぎて熱さを忘れてしまったか(あるいは“仏造って魂入れず”だったか)、今は有耶無耶になっているという会社も散見される。 それは実に勿体ない話だ。

 もちろん、相手が病気の話なので流行するもしないもこちらで予想した通りになるものではないが、それは、臨機応変に対策を変更できる柔軟性を持たせておけば良いことだ。 いざ緊急時に、事業活動が(縮小するのはやむを得ないとしても)完全に麻痺してしまうことだけは避けたい。
 油断禁物。 お気をつけあれ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

就業規則を制定するのは“義務”ではなくて“権利”です

2024-11-23 07:54:24 | 労務情報

 会社は複数の人が集まって仕事をする場なのだから、当然、組織内でのルールを定めておく必要がある。そのルール作り、すなわち「就業規則」を定めることは、経営権の一環である。
 加えて、「就業規則」は、経営者が一方的に作成したものであるにもかかわらず、法令や労働協約に反せず、合理的な労働条件が定められており、かつ、労働者に周知されている場合には、その就業規則で定める労働条件が“労働契約”の内容となりうる(労働契約法第7条・第13条)ことも、覚えておきたい。

 労働基準法第89条は、常時10人以上の従業員がいる職場に、就業規則の作成および行政官庁への届け出を義務付けている。
 しかし、就業規則を制定する目的は、「労働条件を明確化し、職場秩序と服務規律を保持するため。そしてトラブルを予防し、ひいては安心感とロイヤリティを醸成するため。」であるはずだ。それを考えれば、届け出についてはともかく、就業規則の作成は、義務付けられるものではなく、むしろ経営者の“権利”と認識するべきだ…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする