「ノルマ」とは、もともとロシア語で「個人や集団に割り当てられる標準作業量」を意味するが、日本では、特に営業職における「必達目標」といった意味合いで用いられている。
会社が経営計画達成のため売上高目標を設定するのは当然のことであって、それを各人のノルマという形で落とし込むことに問題は無い。 しかし、その運用方法によってはトラブルに発展しかねないので、会社(経営者や上司)は気を付けておきたい。
極端な例を挙げれば、「ノルマを達成できなければ解雇する」というのは、違法とされる可能性が高い。 従業員を解雇するには「客観的に合理的かつ社会通念上相当」な理由が必要とされる(労働契約法第16条)ところ、「会社の求める成果が上げられなかった」というだけでは、この要件を満たさないからだ。
会社は、ノルマ未達成の従業員に対し、まずは、その能力を高めるために教育・指導することを考えなければならない。
ただ、この教育や指導にあたっても、トラブルとなる事例がしばしば見られる。 例えば、同僚の面前で叱責したり、懲罰的に雑用ばかりさせたり、といったものはパワーハラスメントにあたるし、未達成額を給与から勝手に差し引いたり、自腹で在庫を買い取る(俗に「自爆営業」とも呼ばれる)よう強要したりするのは、労働基準法違反にもなりうるので、これらの行為は厳に慎みたい。
そして、適切な教育・指導のうえでなお能力が目標に追い付かなければ、“降格”や“配置転換”を考えることになるだろう。
なお、そのような降格や配置転換であったとしても賃金を減額するのは労働条件の不利益変更に他ならないので、これらも正しい手続きを踏まなければならない。
加えて言えば、この段階では、“退職勧奨”も視野に入れておいてもよいだろう。
さて、その一方で、ノルマを達成できなかった従業員の賞与を減額するのは、“会社利益への貢献度”という観点から考えれば、賞与支給に関する特約の無い限り、差し支えない。 また、ノルマ達成度を昇格や昇進の査定に影響させるのは、むしろ公平・公正と言えよう。
ちなみに、営業成績を歩合給に反映させるのは、そういう労働契約を交わしているならば問題ないと思えそうだが、労働基準法第27条が「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めていることには注意を要する。 つまり、完全出来高払いの契約は認められず、少なくとも「最低賃金額×労働時間」の賃金は保障しなければならないのだ。
結論として、「ノルマを設定すること自体は有効だが、その未達成に対し過度に重いペナルティーを科すのは無効」と理解しておくべきだろう。
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