ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

兼業の実態と会社の対応について

2025-01-23 10:08:52 | 労務情報

 従業員が他社に雇用される兼業や副業(以下、本稿ではその主副を問わず「兼業」と呼ぶこととする)を認める人事制度を有する会社は約52%(リクルート2023年1月調べ)、しかも、そのうち71%がその人事制度を導入したのが「3年以内」と回答しており、今や兼業を禁じる会社は大きく減少しつつある。

【参考】リクルート『兼業・副業に関する動向調査データ集2022』

 会社が従業員の兼業を禁じる理由として挙げるのは、概ね次の5点に集約される。
  (1) 自社の業務に専念できなくなる
  (2) 企業ロイヤリティが低下する
  (3) 営業秘密や個人情報等が漏洩するリスクがある
  (4) 過重労働になりがちになる
  (5) 時間外労働の割増賃金支払い等の事務処理が煩雑になる
 これらのうち(5)以外は、必ずしもそうなるとは限らないし、兼業ではなく趣味やサークル活動に勤しんでいても同じリスクはあるのだから、ことさら兼業を禁じる理由としては弱い。
 ただし、(3)との関連からも、同業他社に雇用されるのを禁じるのはそれなりに合理性があるので、会社への届出義務を課して(釘を刺して)おくことは考えてよいだろう。

 そして、(5)に関しては、厚生労働省が先ごろ公表した『労働基準関係法制研究会報告書』では、兼業の場合には時間外労働に係る割増賃金支払いの対象としない案を提示している。
 というのは、割増賃金制度には使用者に対する時間外労働の抑制としての意味があるところ、兼業の場合にはその効果がないからだ。 また、兼業に係る使用者双方が他方での就労を含めて労働時間を管理しなければならない事務負担が大きすぎることも問題視されている。
 これが法令改正につながれば、(5)も兼業を禁じる理由から外れる。 もっとも、そうなったとしても、(4)の懸念から、使用者に対して労働者の健康管理に関する何らかの義務づけは残るだろう。

 ちなみに、(2)に関しては、先に挙げたリクルートの調査で、兼業を経験した者(個人)のうち29%が「本業の労働環境の魅力を改めて感じた」、23%が「本業の仕事の魅力を改めて感じた」、14%が「現在の仕事に前向きに取り組むようになった」(複数回答)と回答している。 これは非常に興味深い。

 総じて考えるに、会社としては、ある程度の制限は設けるとしても兼業を認める(推奨するまたは容認する)のが今日的な経営者の態度と言えそうだ。


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「労働からの解放」に関する新しい概念2つ ~ 法制研究会報告書

2025-01-13 12:59:56 | 労務情報

 厚生労働省に設置された労働基準関係法制研究会は、令和6年1月23日から17回にわたって、その名の通り「労働基準」に関する法令等について議論してきたが、年明け1月8日に「報告書」をまとめて公表した。

 労働基準の問題は、ざっくり「労働者たる身分」と「労働時間」と「賃金」の三分野に大別されるところ、この報告書は、そのうちの「労働時間」をさらに「実労働時間」と「労働からの解放」とに分割して言及している。
 しかも、「労働からの解放」に関しては、「休憩」・「休日」・「年次有給休暇」といった従来からの概念に加え、「勤務間インターバル」・「つながらない権利」といった新しい概念も打ち出している。

 「勤務間インターバル」とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定の休息時間を設ける制度で、労働時間等設定改善法第2条第1項で「労働者の健康及び福祉を確保するために講じるように努めなければならない」として事業主の努力義務とされているものだ。
 研究会では「勤務間インターバル制度が必要」との共通認識は得られたものの、具体的なインターバル時間については、議論の中で示された「11時間」という数字の妥当性やそれを事業主に罰則付きで義務づけるべきか否かといった問題が残り、結論には到らなかった。

 「つながらない権利」とは、勤務時間外に業務と“つながらない”権利のことで、より強い語調で「アクセス遮断権」と呼ぶ向きもある。
 本来、労働時間ではない時間に使用者が労働者の生活に介入する権利はないが、現実には、突発的な状況への対応や顧客からの要望等によって勤務時間外に対応を求められることがある。 中には本当に緊急対応しなければならない事態も発生することもあろうが、それが“なし崩し”的に日常化してしまうと、仕事が私生活に介入してしまうことになる。
 報告書では、「つながらない権利」という概念を明記したうえで、勤務時間外に労働者に連絡を取る場合に「どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか」といった社内ルールを労使で検討すべきとしている。
 そして、政府には、このような話し合いを促進するためのガイドライン策定等を求めている。

 もちろん従来からの概念である「休憩」・「休日」・「年次有給休暇」に関しても議論されてきたが、それらを含めた「労働からの解放=働かない時間」にスポットを当てて、「実労働時間=働く時間」と並列で取り扱ったのが、この報告書(案)の一つの特徴と言えそうだ。

【参考】厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」


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ひとり親家庭の親を応援する企業を募集中

2025-01-03 09:59:55 | 労務情報

 こども家庭庁では、現在、「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」の候補を募集している。
 これは、母子家庭の母や父子家庭の父(以下、「ひとり親家庭の親」という)の就業を促進する社会的機運を高めるための取り組みの一環として、ひとり親家庭の親を多数雇用している企業等や、母子・父子福祉団体等に事業を相当額発注している企業等を表彰するもので、平成18年度から(当初は厚生労働省にて)実施されてきたものだ。

 具体的には、ひとり親家庭の親を5人以上(従業員数100人以上の企業では6%以上)雇用している、ひとり親家庭の親の平均勤続年数が5年以上(または3年以上かつ該当者全員を正社員として雇用している)等の要件を満たす、または、ひとり親家庭の親もしくは母子・父子福祉団体に対して一定程度以上の発注を行っているなど、「ひとり親家庭の親の雇用または就業機会の確保」に対し、積極的に取り組んでいると認められる企業等を選定する。
 もちろん、重大悪質な法令違反がなく、ひとり親家庭の親の就業促進について理解があって、表彰されるにふさわしい企業等に限られる。

 この表彰を受けると、こども家庭庁サイトその他で社名が公表されるので、選ばれた会社にとっては「働きやすい職場」であることがPRでき、また、社内ロイヤリティの醸成や採用活動の面でもメリットが有りそうだ。

 表彰されるのは地方公共団体から推薦された企業等が多い印象だが、自薦による立候補も受け付けているので、条件に合致する会社は応募してみてはどうだろうか。
 応募締め切りは、1月31日とのことだ。

【参考】こども家庭庁 > 令和6年度「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」について


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ノルマを達成できなかった従業員へのペナルティー

2024-12-23 09:59:08 | 労務情報

 「ノルマ」とは、もともとロシア語で「個人や集団に割り当てられる標準作業量」を意味するが、日本では、特に営業職における「必達目標」といった意味合いで用いられている。

 会社が経営計画達成のため売上高目標を設定するのは当然のことであって、それを各人のノルマという形で落とし込むことに問題は無い。 しかし、その運用方法によってはトラブルに発展しかねないので、会社(経営者や上司)は気を付けておきたい。
 極端な例を挙げれば、「ノルマを達成できなければ解雇する」というのは、違法とされる可能性が高い。 従業員を解雇するには「客観的に合理的かつ社会通念上相当」な理由が必要とされる(労働契約法第16条)ところ、「会社の求める成果が上げられなかった」というだけでは、この要件を満たさないからだ。

 会社は、ノルマ未達成の従業員に対し、まずは、その能力を高めるために教育・指導することを考えなければならない。
 ただ、この教育や指導にあたっても、トラブルとなる事例がしばしば見られる。 例えば、同僚の面前で叱責したり、懲罰的に雑用ばかりさせたり、といったものはパワーハラスメントにあたるし、未達成額を給与から勝手に差し引いたり、自腹で在庫を買い取る(俗に「自爆営業」とも呼ばれる)よう強要したりするのは、労働基準法違反にもなりうるので、これらの行為は厳に慎みたい。

 そして、適切な教育・指導のうえでなお能力が目標に追い付かなければ、“降格”や“配置転換”を考えることになるだろう。
 なお、そのような降格や配置転換であったとしても賃金を減額するのは労働条件の不利益変更に他ならないので、これらも正しい手続きを踏まなければならない。
 加えて言えば、この段階では、“退職勧奨”も視野に入れておいてもよいだろう。

 さて、その一方で、ノルマを達成できなかった従業員の賞与を減額するのは、“会社利益への貢献度”という観点から考えれば、賞与支給に関する特約の無い限り、差し支えない。 また、ノルマ達成度を昇格や昇進の査定に影響させるのは、むしろ公平・公正と言えよう。

 ちなみに、営業成績を歩合給に反映させるのは、そういう労働契約を交わしているならば問題ないと思えそうだが、労働基準法第27条が「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めていることには注意を要する。 つまり、完全出来高払いの契約は認められず、少なくとも「最低賃金額×労働時間」の賃金は保障しなければならないのだ。

 結論として、「ノルマを設定すること自体は有効だが、その未達成に対し過度に重いペナルティーを科すのは無効」と理解しておくべきだろう。


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カスタマーハラスメントへの対処は会社の義務

2024-12-13 10:00:52 | 労務情報

 今年10月4日、東京都では、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」が制定され、令和7年4月1日から施行されることとなった。
【参考】東京都産業労働局「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」

 その内容は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為(※)であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明記したことが特徴的だ。
 そして、事業者に対しては、都が発するガイドラインに基づいて、「必要な体制の整備」、「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」、「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。
 ※暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為

 そもそも、会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならない(労働契約法第5条)。
 したがって、この条例に拠らずとも、また、東京都以外の会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにし、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対処を講じるべき義務を負っているのだ。
 また、令和5年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」(労災認定の指標)には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントとそれへの会社の対応により労災事故と認定される可能性がある。 この通達自体は労災保険に関するものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなりうる。

 もし会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者の矛先が会社に向きかねない。
 「訪問した児童宅で飼い犬に噛まれて負傷した教諭がその損害賠償に関し児童の家族から土下座での謝罪を求められ、同席していた校長がそれを強要した」として被告の山梨県に損害賠償を命じた裁判例(甲府地判H30.11.13)は、発端はカスタマーハラスメントであったものの上司が対応を誤ったためにパワーハラスメントの話と化した事例と言える。

 なお、誤解してはならないが、顧客等からの正当なクレームは、自社の商品・サービスの品質改善にもつながるもので、これには真摯に向き合うべきだ。
 しかし、それが「要求内容に妥当性の無いもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」、そして「それによって労働者の就業環境が害されるもの」は、紛うかたなくカスタマーハラスメントであるので、経営者として毅然と対処しなければならない。
【参考】厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
    明るい職場応援団「職場におけるハラスメント対策研修動画」


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インフルエンザ流行への会社としての対策

2024-12-03 08:59:19 | 労務情報

 季節性インフルエンザが流行入りした。
 今年(令和6年)は夏が長引いたせいか昨シーズンの同時期より感染者が少ない印象だが、それでも11月24日時点で「定点あたり2.36人」と新型コロナのそれ(定点あたり1.81人)を上回っている。

 会社として行うべきインフルエンザ対策は、大きく「従業員に向けての対策」と「事業運営に関わる対策」との2面がある。

 従業員に向けての対策としては、「ワクチン接種の奨励」や「手洗い・うがい・咳エチケットの徹底」といった、インフルエンザの予防や感染防止に関する呼び掛けを中心とした活動が必要だろう。

 一方、事業運営に関わる対策としては、「従業員本人や家族が感染した場合の出勤見合わせ等の手続きルール」や「従業員が多数感染した場合やパンデミックで交通機関が遮断された場合等における事業活動の維持継続案」といった、いざと言うときに備えたプラン(BCPやBCM)を予め検討しておきたい。 これらをパンデミックになってから“泥縄”で考えたのでは対応が後手に回りがちであるし、実際にかかる事態下において対策を検討するのに充分な人的資源が会社に残されているかも心配だ。
 また、これらを「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」を受けて整備した会社も多いが、喉元過ぎて熱さを忘れてしまったか(あるいは“仏造って魂入れず”だったか)、今は有耶無耶になっているという会社も散見される。 それは実に勿体ない話だ。

 もちろん、相手が病気の話なので流行するもしないもこちらで予想した通りになるものではないが、それは、臨機応変に対策を変更できる柔軟性を持たせておけば良いことだ。 いざ緊急時に、事業活動が(縮小するのはやむを得ないとしても)完全に麻痺してしまうことだけは避けたい。
 油断禁物。 お気をつけあれ。


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就業規則を制定するのは“義務”ではなくて“権利”です

2024-11-23 07:54:24 | 労務情報

 会社は複数の人が集まって仕事をする場なのだから、当然、組織内でのルールを定めておく必要がある。そのルール作り、すなわち「就業規則」を定めることは、経営権の一環である。
 加えて、「就業規則」は、経営者が一方的に作成したものであるにもかかわらず、法令や労働協約に反せず、合理的な労働条件が定められており、かつ、労働者に周知されている場合には、その就業規則で定める労働条件が“労働契約”の内容となりうる(労働契約法第7条・第13条)ことも、覚えておきたい。

 労働基準法第89条は、常時10人以上の従業員がいる職場に、就業規則の作成および行政官庁への届け出を義務付けている。
 しかし、就業規則を制定する目的は、「労働条件を明確化し、職場秩序と服務規律を保持するため。そしてトラブルを予防し、ひいては安心感とロイヤリティを醸成するため。」であるはずだ。それを考えれば、届け出についてはともかく、就業規則の作成は、義務付けられるものではなく、むしろ経営者の“権利”と認識するべきだ…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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ストレスチェックの正しい理解と活用を

2024-11-13 09:59:11 | 労務情報

 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、毎年1回以上、「ストレスチェック」(労働安全衛生法第66条の10にいう「心理的な負担の程度を把握するための検査」)を行い、結果を労働基準監督署に報告しなければならない(労働安全衛生規則第52条の21)。

 ところで、ストレスチェックは何のために行うのか、その目的は正しく理解されているだろうか。

 まず、労働者にとっては、自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、医師から助言を受けたり、場合によっては会社側に業務量の軽減などを求めたり、メンタル不調を未然に防ぐことが第一の目的だ。
 一方、会社にとっては、従業員のストレスの状況を知り、職場環境や業務量などがその原因と考えられる場合は、それへの対策を講じることで生産性向上や事故防止に、ひいては従業員の定着に寄与することが、ストレスチェックの目的と言える。

 ところが、ストレスチェックに関しては、「メンタル不調あるいはメンタル不調者を見つけ出すもの」と誤解される向きが多い。 そのため、「自分は健康だから受ける必要はない」「会社に知れたら昇進に影響しかねない」としてストレスチェックに非協力的な従業員も、雇う側の立場で「誰がメンタル不調者か教えてほしい」と要望する管理職も、少なくない。
 また、高ストレス者が多い集団の管理者の評価が低くなる傾向や、さらには、気に入らない上司を貶めるように部下(受検者)が回答するケースすら見聞きされる。 これでは、無意味どころか、逆効果にすらなりうる。

 経営者や労務担当者は、従業員(管理職を含む)に対して「ストレスチェックはストレスの度合いを測るものであって、結果が人事に直接影響するものでない」と明言したうえで、協力を求めるべきだ。
 そして、ストレスチェックの結果は、集団分析等の手法を用いて職場環境の改善に活かしたい。 ただし、個別に業務量の軽減などを求める従業員がいたら、それには丁寧に対応するべきであることは言うまでもない。
 もし自社内で対応するのが難しければ、EAP(従業員支援プログラム)機関等、外部に委託することを検討してもよいだろう。 無論それにはコストを要するが、ストレスチェックを実効性あるものにするための必要経費ととらえるべきではないだろうか。

 ストレスチェックは、もちろん法律上の義務であるので実施しなければならないのだが、義務感だけで実施しているのでは、もったいない。
 せっかくコストと時間を掛けて実施する以上は、意味あるものにするべきだろう。


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給与のデジタル払いを会社は積極的に採用するべきか

2024-11-03 15:49:18 | 労務情報

 給与は、原則として通貨で支払わなければならない(労働基準法第24条)が、労働者の同意を得た場合には「銀行・証券会社等の本人口座への振り込み」・「退職手当に限り小切手等での支払い」が認められてきた(同法施行規則第7条の2)。
 これをデジタル通貨(「〇〇ペイ」等と称する“日本円”の電子マネーを指す;“外国通貨”や“仮想通貨”は対象外)での支払いも可能とすることについて、ここ4年ほど議論されてきたが、今年8月に「資金移動業者の口座への賃金支払いに関する厚生労働大臣の指定」第1号が出され、ようやく実現する運びとなった。
 ただ、現時点では、その指定業者のグループ会社10社に限る、言ってみれば“テスト運用”といった扱いだ。 その指定業者の発表によれば「年内にすべてのユーザー向けにサービスの提供を開始予定」としている。
※グループ外の会社向け(まだ限定的だが)へもサービス提供を開始した旨、指定業者が発表(11月5日)

 では、この仕組みが本格稼働したら、会社はそれを積極的に採用するべきなのだろうか。

 会社にとって給与をデジタル払いにすることの最大のメリットは、指定業者の法人口座を保有していれば(現時点では)振込手数料が掛からないことだろう。
 しかし、個人の1口座保有残高は(現時点では)20万円までとされているため、それを超える金額が振り込めないのはもちろん、それ以下であっても受け入れる余地が不足する(その場合は予め指定した「代替口座」に支払われる)可能性が生じる。 だとすると、給与の全額を資金移動業者の1口座のみに振り込むのは現実的でなく、給与を分割して支払うことになり、振込手数料が無料であることのメリットは薄れてしまう。
 現に複数口座での給与受け取りを認めている会社であれば、その選択肢を増やして従業員の利便性を高めることもメリットになりうるが、これから新たに給与の分割払いを始めるのは、担当者の労力やミス・トラブルのリスクまで考えると、慎重にならざるを得まい。

 また、給与のデジタル払いを導入するには、以下の手順を踏まなければならない。
  1.指定資金移動業者の確認、サービス内容の検討
  2.過半数労働組合または過半数代表者との労使協定の締結、就業規則等の改定
  3.従業員への説明と個別同意
 これらは、通常の銀行口座への給与振り込みにあたっても必要な手続きである(平成10年9月10日基発第530号;令和4年11月28日基発1128第4号)のでデジタル払い特有のものではないが、新たに採用するとなるとハードルが高いと感じる経営者も多いだろう。

 給与の支払い・受け取りに関する事項なのでその確実性・安全性を考慮すると仕方ないのかも知れないが、当初期待されていた「デジタル社会の到来」には(現時点では)程遠い印象だ。


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研究開発職の労働時間管理は不要なのか?

2024-10-23 17:59:15 | 労務情報

 研究開発業務に従事する者(以下、本稿では「研究開発職」と呼ぶ)については「労働時間を管理しなくてよい」と思い込んでいる経営者も多いが、そう言い切ってしまうのはリスクを伴う。

 たしかに、研究開発職は「専門業務型裁量労働制」の代表格(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙される業務のうち第1号)であって、これの適用を受ければ、労使で合意した一定の時間数(みなし労働時間)を労働したものとみなすことになる。 しかし、専門業務型裁量労働制を適用するには、労使協定を締結し管轄労働基準監督署へ届け出たうえで、本人の同意を得る(同条第3項;今年4月1日より施行)等の手続きを踏んでいなければならないし、そもそも担当業務の特性等により労働時間を本人の裁量にゆだねることができないものだと裁量労働制は適用されないことには注意を要する。
 また、研究開発職に従事する労働者に係る三六協定(サブロク協定;労働基準法第36条に基づくのでこのように呼ばれる)には、その時間外労働時間の上限が無い。 これも誤解されがちだが、決して「研究開発職は上限なしで残業させられる」という意味ではなくて、時間外労働の限度時間を「行政からの指導による」のでなく「労使で決める」ということなのだ。

 そして本稿の本題、「裁量労働制が適用される研究開発職は労働時間をまったく管理しなくてよいか」と問われると、「労働時間の“管理”は不要だが、労働時間の“把握”は必要」と答えるのが正しい。
 というのも、労働安全衛生法第66条の8の3には「事業者は‥労働時間の状況を把握しなければならない」と定められ、その対象には研究開発職(高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者を除く)も含まれるからだ。
 さらには、労働時間を把握した結果、時間外労働・休日労働が月80時間を超え、疲労蓄積があり面接を申し出た者は医師の面談指導を受けさせなければならない(同法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の2)。 ここまでは研究開発職以外の職種に就く者と同じだが、研究開発職の場合には上述のとおり時間外労働の上限規制がないため、時間外労働・休日労働が月100時間を超えた者についても医師の面談指導が必須となっている(同規則第52条の7の2)。

 つまり、研究開発職の“健康”を管理することこそが重要なのであって、「労働時間の把握」はその手段に過ぎない。 「管理」だの「把握」だの言葉尻をとらえるのは、あまり意味が無いのだ。


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