残業は、基本的には会社が命じるものだ。しかし、会社(上司)からの明示的な命令が無くても、実態として残業していることを会社が認知していたなら、黙示の命令があったものとして扱われ、残業代の支払い義務が生じる(大阪地判H17.10.6、東京地判H22.9.7等)。
この点に関しては、会社としては、「従業員が“勝手に”残業したのに残業代を支払う」ということに納得できないかも知れない。
では、これの解決策として、従業員自らの判断で残業する場合には事前に上司の許可を受けるという制度(以下、「事前許可制」と呼ぶ)を導入するのは、有効だろうか。
事前許可制を導入すると、確かに、「会社の関知しない残業」は無くなる理屈だ。また、「できるだけ所定労働時間内で業務を終わらせよう」という意識が芽生え、結果的に残業そのものの削減が期待できることも、メリットとして挙げられよう。
しかし、その反面、残業を自宅に持ち帰って行う、いわゆる「風呂敷残業」が多発することが懸念される。
風呂敷残業は、会社が業務負担を把握できず(得てして過重労働になりがちである)、営業機密や個人情報の管理面でも問題があるため、望ましいものではない。また、現実に所定労働時間内には終わらない分量の仕事を与えていたとしたら、残業命令があったものと推認される(札幌地判H6.2.28、東京地判H22.1.18等)ので、要注意だ。
さらには、「事前許可が無かった」という理由をもって、実際に残業があったのに残業代を支払わないのは許されない。“勝手に”残業している従業員を見掛けたら、許可を受けるよう指示するか、でなければ、速やかに退社するよう命じるべきだ。
事前許可制は、残業時間や残業代を会社が適切に管理するために有効な方策の一つではあるが、こういった側面もあることを踏まえたうえで、上手な導入・活用を考えたい。
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