ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労働条件の不利益変更に係る個別合意が無効とされないためには

2024-06-24 08:52:26 | 労務情報

 労働条件を労働者にとって不利益に変更するには、該当する従業員全員と個別に合意を交わす方法(労働契約法第8条)と就業規則を変更する方法(同第9条・第10条)とがある。
 これらのうち後者は会社が一方的に決めることができるためトラブルになりやすいのは想像に難くないが、前者であってもその合意の効力が争われることがある。

 裁判所は、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである」(最二判S.48.1.19、最二判H.2.11.26、最二判S.28.2.19等)との立場に立つ。
 具体的には、次のような観点をもって、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたもの」と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを判断される。
  (1) その労働条件変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
  (2) 労働者により同意がされるに至った経緯及びその態様
  (3) 同意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等

 これを踏まえて考えれば、
  (1)に関して…
   他の条件を引き上げて不利益を軽減する、激変緩和措置を設ける、実施までの猶予を置く、期間限定とする
  (2)に関して…
   会社が倒産の危機に瀕している、役員報酬を減額している、同業他社やグループ企業の相場や慣習に合わせている
  (3)に関して…
   複数回にわたり丁寧に説明した、裏付け資料を用いて説明した
といったケース(例示)であれば、個別合意に基づく不利益変更の合理性が高まると言えそうだ。
 逆に、安直に「同意書」を提出させただけでは、その合意が否認される可能性が高いと認識しておくべきだろう。

 一般に、労働条件の不利益変更に際して個別合意を交わしておくとトラブルになりにくいとは言われるが、それでもトラブルにならないわけではない。
 経営者は、労働者に誠意をもって説明し、形式ではなく、本当に納得して合意してもらえるように努めなければならない。


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退職代行への会社としての対処

2024-06-13 08:59:54 | 労務情報

 自社の従業員が退職代行業者(本人に代わって退職の意思表示や退職手続きをしてくれる業者;労働組合や弁護士であるケースも含む)を利用して退職しようとした際、会社はどう対処したらよいだろうか。

 まず、経営者としては、この段階まで来たら、その退職を引き留めることはできないと認識しなければなるまい。
 そもそも退職すること自体が本人の自由であるのだし、加えて、退職代行業者を利用するのは、「会社が退職させてくれない」「職場でハラスメントを受けている」等の事情があるからであって、つまるところ「会社が信用できない」との意思表示とも言えるからだ。
 ただし、当該従業員に関して懲戒解雇に該当する事由が生じている場合は、自己都合での退職を認めるべきではないので、それだけは気を付けたい。

 そして、本人に連絡が取れるなら直接、本人が会社からの接触を拒否しているなら当該退職代行業者を介して、本人自筆の退職届(「退職“願”」はこのケースではそぐわない)を提出させる。 同僚や家族が本人になりすまして退職代行業者に依頼していることも考えられないではないので、必ず本人の意思を確認し、書面で残しておくべきだ。

 退職届が提出されたなら、後は、通常の退職手続きを淡々と進めるだけだ。
 有給休暇の消化を要求されたなら退職日までの間で取らせ、健康保険証や会社からの貸与物等を返還させ、失業給付を受ける予定の者には離職票交付を手配する。 最後の給与や退職金の支払い等も通常の退職者と同様に取り扱う。
 ちなみに、退職代行業者を利用したことは、こうした手続き面で不利益に取り扱うべき理由にはなりえない。 業務引継ぎに支障があった(実際そうなるケースが大多数と思われる)等により会社が現実に損害を被った場合はその賠償を請求することが可能だが、その場合でも、損害額を給与や退職金から勝手に控除することは許されない。

 その一方で、当該従業員が退職する意思を固めた理由や、それを会社に直接示さなかった(示せなかった)ことについて、社内でしっかり検証するべきだ。
 事情によっては、退職者から訴訟を提起されることも想定しておかなければならないだろう。また、上司の評価や処遇を見直したり、職場全体の悪習を洗い出したりする必要があるかもしれない。

 会社としては退職代行業者を利用されたことへの不快感はあろうが、どちらかと言えば非は会社にある(ことが多い)のだから、むしろ猛省を促したいところだ。


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パートタイマーにも慶弔休暇を

2024-06-03 12:59:55 | 労務情報

 従業員に祝い事や不幸があったときにその日を休んでよいこととする「慶弔休暇」の制度を設けている会社は多いが、それを無給とするか有給とするかは、会社によって分かれているようだ。

 そもそも慶弔休暇は法令で義務づけられたものではない。
 労働基準法に定める年次有給休暇(第39条)、産前産後休業(第65条)、生理休暇(第68条)、公民権行使の時間(第7条)、育児介護休業法に定める育児休業(第5条)、介護休業(第11条)、子の看護休暇(第16条の2)、介護休暇(第16条の5)といった「法定休暇」とは異なり、慶弔休暇を設けなければならないわけではなく、また、その不就労の日数について「ノーワークノーペイの原則」に則り賃金を支払わないこととするのも、法令上まったく問題ないのだ。

 これに関しては、厚生労働省が示している「モデル就業規則」にも、
   第43条(抄) 慶弔休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこと とする。
と書いてあり、会社が任意で設定できる形になっている。

 ところで、まれに「無給とするなら“欠勤”と変わらないのではないか」との疑問を抱く向きもあるが、その日は就労を免除するのだから、就労するべき日に就労しない欠勤とは性格が違う。 慶弔休暇を利用したことをもって評価してはならないし、年次有給休暇付与の際に用いる出勤率の算定においても分母(労働日)に含めない。

 しかし、これらを踏まえても、一般的には、慶弔休暇は有給とするのが望ましいと言われる。
 というのも、賃金を支払わないこととしては、会社が慶弔休暇の制度を設けた趣旨(おそらく会社からの祝福・弔慰等の意が込められていたであろう)に反してしまうからだ。

 ただ、慶弔休暇を有給とした場合、それは、いわゆる正社員だけでなく、パートタイマーや短期雇用社員も適用対象となることには注意したい。
 『同一労働同一賃金ガイドライン』(厚生労働省告示第430号)には、「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。」と明記されている。
 だからと言って、そのこと(だけ)を理由に「正社員の慶弔休暇を廃止する」というのは、本末転倒であるし、明らかな不利益変更でもあるので、そのような短絡的な考えは慎みたい。


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