ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「執行役員」にも労働法の適用あり

2014-04-23 10:15:49 | 労務情報

 「執行役員」という役職を置いている会社がある。これは、会社法第418条に定める「執行役」と似た名称ではあるがまったくの別物であり、会社が独自に定めることができるものだ。法令上は会社法第362条にいう「重要な使用人」に該当し、会社とは「雇用関係」(「執行役」と会社とは「委任関係」)にあるものとされる。
 したがって、執行役員は、当然「労働者」であり、労働関係諸法令の適用を受けることになる。

 具体的には、執行役員であっても、労働基準法による労働者保護規定の対象となり、労災保険・雇用保険に加入することにもなっている。また、労働組合法や労働契約法も適用される。
 ただ、通常は、労働基準法第41条にいう「管理監督職」に該当するため、労働時間に関しては労働基準法の適用除外とされる場合が多い。

 平成19年に最高裁が「業績不振の会社が『執行役員退職慰労金規程』を不利益に変更したこと」を是認する判決(最二判H19.11.16)を出しているが、これをもって「執行役員が労働者扱いされない場合がある」と理解するのは早計だろう。この事件は、従業員として退職(この時に従業員としての退職金を受給)した後に執行役員に就任したという経緯や、執行役員就任中の報酬額等も勘案しての“事情判決”であったと言え、「規程の不利益変更」(労働契約法第9条に抵触)の部分だけ切り取って解釈するとおかしな話になってしまう。

 このように考えてみれば、「執行役員」というのは、法令上の扱いは一般の従業員と何ら変わることがなく、言わば「名誉職」的な意味合いの役職と認識しておいて間違いではないだろう。
 しかし、それは必ずしも悪い意味ではなく、例えば、同族経営の会社において経営者と血縁関係の無い従業員が「取締役」に代えて目標にできる最高職位としてモチベーション維持の材料とするなどの活用も可能と考えられる。


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出向元も出向先も「偽装出向」に要注意

2014-04-13 23:19:14 | 労務情報

 出向(ここでは「在籍出向」のことを単に「出向」と呼ぶ)とは、自社の従業員を他社の業務に従事させるという、近代以前から慣行的に行われてきた雇用形態である。しかし、これは、一つ間違えると、労働者派遣法に抵触し、いわゆる「偽装出向」(=「違法派遣」)となってしまうことがあるので、気を付けたい。

 出向とは、本来、経営・技術指導、職業能力開発、人事交流等を目的として、多くの場合は同一の企業グループ内で行われるものだ。もちろんグループ外企業へ出向させること自体が違法というわけではないが、その場合は、出向元にどのようなメリットがあるのかが問われてこよう。
 もし、その目的が「利ざや稼ぎ」にあると判断されれば、それは「出向」ではなく「労働者派遣」ということになり、すなわち「特定労働者派遣事業」として厚生労働大臣への届け出が無ければ行ってはならないものとされる(※)。
 これは、グループ内での出向であっても同じことが言え、特に、出向元での賃金額を上回る費用を出向先に負担させている場合は、その負担額について明確かつ合理的な積算根拠が必要だ。
 ※ 第186回通常国会に提出されている労働者派遣法改正案には、「特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制とする」旨が盛り込まれている。

 一方で、出向制度は、人材を受け入れる側としても使いやすい。労働者派遣法の適用を受けないため、人選も自由であるし、受け入れ期間の制限(原則として最長3年)も無い。加えて、自社の就業規則により指揮命令でき、他部門への配転(別の会社への二次出向も含むものとされる)も自社の判断で可能となる。
 しかし、便利な反面、出向には、上述のような落とし穴もあることは認識しておくべきだ。特に、こういう話を人材会社が持ち掛けてきたときは、違法派遣の片棒を担ぐことになる可能性が高いので、要注意だ。

 意図的に偽装出向の当事者となるのは論外としても、図らずも違法行為に関わってしまわないよう、出向者を出す側も受け入れる側も、正しい知識と見識を持っていたい。


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その配転命令は合理的根拠に基づくものか

2014-04-03 19:30:29 | 労務情報

 会社が従業員に職務を与えるのは、当然の権利であり、また義務でもある。したがって、従業員の配属を決めることも、その派生として配置転換を命じることも、基本的には(当事者間に職種限定の特約がある場合を除き)、会社の裁量に任されるべきものだ。
 これは「人事権」と呼ばれ、会社が有する「経営権」に属する権限の一つとして、就業規則等に記載されていなくても(明文化しておくのが望ましいには違いないが)、一般的に認められている。しかし、会社は、人事権を有すると同時に、それが権利の濫用にあたる場合には無効となってしまう(民法第1条第3項)ことは、肝に銘じておかなければならない。

 配転命令が権利の濫用とされる典型は、「経営上の必要性と比較衡量して従業員の受ける不利益が過大である場合」(最二判S.61.7.14)だ。つまり、会社は「従業員の受ける不利益」を考慮に加えたうえで配転命令を下さなければならず、また、配転拒否された場合に業務命令違反として懲戒処分を科すに際してもこれを斟酌しなければならないことになる。
 また、その配転命令に不当な動機・目的が有る場合も、権利の濫用とみなされる。先ごろ、大手複合機メーカーにおける退職勧奨対象者に対する出向命令が、「自主退職を期待して行われた。人選の合理性も認められない。」として無効と判じられた(東京地判H25.11.12;会社側は即日控訴)のは記憶に新しいところだろう。なお、この事件で問題とされたのは「子会社への出向」であったが、実質的に「自社内の物流部門への配転」と同一視されることから、他の退職勧奨絡みの配転事案にも影響を与えそうだ。

 いずれにしても、配属命令・配転命令は、適材適所もしくは適正なジョブローテーションの観点から合理的であるべきであり、加えて、訴訟対策としては、その根拠が明確に示せるような資料を用意しておくべきと言えるだろう。


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