ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

本人の同意にかかわらず健康診断データを提供しなければならないケースも

2021-09-23 09:59:38 | 労務情報

 会社は、従業員に原則として年1回(特定業務(深夜業や暑熱・寒冷・異常気圧・騒音等に晒される業務等)に従事する者には年2回)以上の健康診断を受けさせなければならず、かつ、その結果を記録しておかなければならない(労働安全衛生法第66条・第66条の3、労働安全衛生規則第44条・第45条)。
 そして、この結果を記録しておく義務は、個人情報保護法第23条第1項第1号の「法令に基づく場合」に該当するため、会社は本人の同意を得なくても健康診断を実施した医療機関から健康診断結果の提供を受けることができる。
 とは言うものの、労使トラブル防止の観点からは、事前にその旨を本人に知らせておくのが無難であるし、もし本人が拒んだら無理強いするべきではないだろう。

 ところで、会社の持つ従業員の健康診断結果について、医療保険者(健康保険協会・健康保険組合・市区町村等)から提供を求められることがある。 こういった請求に対して、本人の同意が得られないからと言って提供を拒否する会社もあると聞くが、同意の有無にかかわらず提供義務が課せられるケースもあることには要注意だ。
 それは、40歳以上の従業員に係る特定健康診査・特定保健指導(いわゆるメタボ健診・メタボ指導)のデータを求められた場合だ。 この場合には、会社はこれらのデータを医療保険者に提供しなければならない(高齢者医療確保法第27条第3項)。
 経営者や人事担当者にはなじみの薄い法律に定められているためか、この義務についての認知度は低いが、法律で定められている義務であるので、本人の同意を得る必要は無い。
 もっとも、このケースにおいても、医療保険者にデータを提供する旨を本人に知らせておくのが望ましいには違いない。

 国は今、マイナポータルを活用して、特定健診データを医療機関が閲覧できるようにするシステムを(令和3年3月から順次)稼働させつつある。 このことに関しても周知不足(行政の不作為)の感が否めないが、折を見てこのことを従業員に伝えておくのも会社の役割と言えるのではなかろうか。


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競業避止義務について就業規則に明文化を

2021-09-13 11:59:41 | 労務情報

 “情報”や“独自ノウハウ”は、会社の財産である。
 これらが社外に流出しないよう、「機密保持」についてはもちろんであるが、「競業避止」についても、従業員の義務として就業規則に規定しておきたい。 さらには、誓約書を提出してもらえれば、なお望ましい。

 従業員が在職中に会社の許可を得ず競業に関わることは、それ自体、信義誠実に悖る行為であるので、明文の禁止規定が無くても懲戒の対象とすることができる。
 問題は、“退職後”の競業行為についてだ。 会社としては退職者にも競業避止義務を負わせたいところではある。
 しかし、通常は、退職すれば労使間の権利義務関係は消滅するので…‥


※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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解散する子会社の従業員は親会社で雇用しなければならないか

2021-09-03 19:59:22 | 労務情報

 業績の悪化その他の事情により子会社の解散を検討している経営者もいるかも知れない。
 ところで、仮に子会社が解散した場合、そこに雇用されている従業員は、親会社やグループ会社で引き受けなければならないのだろうか。

 原則論を言えば、親会社(またはグループ会社)と子会社とは別人格なのだから、その雇用に関して責任を負うことはないはずだ。
 しかし、それが問題となるケースもあるので、それらについて、「整理解雇の4要素」と「法人格否認の法理」の2つの観点から考察してみることとする。

 まず、会社解散の場合における解雇も整理解雇である(神戸地判S57.11.16、奈良地判H26.7.17等)ので、「整理解雇の4要素」(a.人員削減の必要性、b.解雇回避努力、c.人選の妥当性、d.労働者側との協議)によってその当否が判じられる。
 子会社解散の場合、これらのうち「a」「c」「d」は問題にならないとしても、「b」については、親会社の責任が皆無とは言えない。 すなわち、解散する子会社の従業員を親会社やグループ会社に転籍させることを、まずは検討しなければならないのだ。
 無論、引き受ける余地の無いこともあろうが、検討すらしないのは、「解雇回避努力を尽くしていない」と見られる可能性がある。

 また、その子会社が、(1)別法人であることが形骸化している場合、または、(2)違法・不当な目的のために法人格を濫用している場合には、その法人格を否認されることもある(参考判例:最一小判S44.2.27)。
 (1)は、背後の実体たる親会社が子会社を現実的・統一的に支配しうる地位にある場合に該当する。 具体的には、実質上親会社の一部門に過ぎないとして子会社の法人格が否認され親会社に雇用契約が承継されるとされた裁判例(徳島地S50.7.23等)がある。
 (2)に関しては、労働組合を嫌忌して子会社Aを解散させ従業員を解雇した親会社に対し、裁判所が「不当労働行為」と断じて親会社が新規に設立した子会社Bでの雇用を命じた事案(大阪高判H19.10.26)がその典型例として挙げられる。

 結論として、親会社が子会社を解散するのはグループ全体を見渡した経営上の判断によるとしても、その従業員まで自動的に解雇できるわけではないことは、承知しておかなければならない。
 仮に、整理解雇・法人格否認のどちらにおいても問題ないとしても、子会社を解散させる以上、その従業員の雇用を維持するべく、他社への転籍同意を取り付けるなり、労働契約承継法を活用するなり、とにかく、最大限の努力を払うのが親会社(経営者)の責務と言えるだろう。


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