従業員が仕事上ミスをし、それによって会社が損害を被った場合、会社はその従業員に対して損害賠償請求できるのだろうか。
これについては、民法第415条が「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」と定めていることから、基本的には「損害賠償請求が可能」と解釈されうる。しかし、その請求額については、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」(最一判S51.7.8「茨城石炭商事事件」)とされており、損害の全額を請求できるとは限らない。
では、その負担割合は、どのような基準で考えるべきだろうか。
まず、「労働者の過失の程度」による。
軽過失の場合、求償権を行使できないとする裁判例(名古屋地判S62.7.27など)が多い一方で、その逆に労働者の故意によって生じた損害については、損害額すべての賠償を認めるケース(大阪地判S61.2.26など)が殆どだ。
また、「会社の管理体制」も、負担割合決定の要素となる。
「事前教育が不充分であった(京都地判H12.11.21)」、「日常的なチェックを怠っていた(浦和地判S57.6.30)」、「任意保険を掛けておかなかった(東京地判H6.9.7)」、「過重労働の実態があった(名古屋地判S59.2.24)」といったケースでは、損害額の相当部分について賠償請求が認められていない。
さらには、「会社が科した制裁や人事措置」も考慮されうる。
「本来懲戒処分等で企業秩序の維持を図り、損害賠償の請求はこれにより秩序維持ができない例外的な場合にのみなすべき(大阪地判H3.10.15)」との判示もある。
まさにケースバイケースとしか言えないが、だからと言って、損害賠償額を予定しておくのは、労働基準法第16条違反であるので、避けなければならない。
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