ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

従業員のミスによって被った損害は賠償請求できるか

2014-01-23 12:31:43 | 労務情報

 

 従業員が仕事上ミスをし、それによって会社が損害を被った場合、会社はその従業員に対して損害賠償請求できるのだろうか。
 これについては、民法第415条が「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」と定めていることから、基本的には「損害賠償請求が可能」と解釈されうる。しかし、その請求額については、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」(最一判S51.7.8「茨城石炭商事事件」)とされており、損害の全額を請求できるとは限らない。

 では、その負担割合は、どのような基準で考えるべきだろうか。

 まず、「労働者の過失の程度」による。
 軽過失の場合、求償権を行使できないとする裁判例(名古屋地判S62.7.27など)が多い一方で、その逆に労働者の故意によって生じた損害については、損害額すべての賠償を認めるケース(大阪地判S61.2.26など)が殆どだ。

 また、「会社の管理体制」も、負担割合決定の要素となる。
 「事前教育が不充分であった(京都地判H12.11.21)」、「日常的なチェックを怠っていた(浦和地判S57.6.30)」、「任意保険を掛けておかなかった(東京地判H6.9.7)」、「過重労働の実態があった(名古屋地判S59.2.24)」といったケースでは、損害額の相当部分について賠償請求が認められていない。

 さらには、「会社が科した制裁や人事措置」も考慮されうる。
 「本来懲戒処分等で企業秩序の維持を図り、損害賠償の請求はこれにより秩序維持ができない例外的な場合にのみなすべき(大阪地判H3.10.15)」との判示もある。

 まさにケースバイケースとしか言えないが、だからと言って、損害賠償額を予定しておくのは、労働基準法第16条違反であるので、避けなければならない。

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残業単価を正しく算出していますか

2014-01-13 15:55:56 | 労務情報

 従業員に時間外労働をさせた場合は、割増賃金を支払わなければならない。
 そして、その単価は、月給制の場合、「月の所定賃金額÷月あたり所定労働時間数」で算出するものとされている。すなわち、諸手当も含めて計算するのが原則だ。まれに「月額基本給÷月あたり所定労働時間数」をもって残業単価としている会社を見掛けるが、それは完全に間違いだ。

 ところで、労働基準法と同法施行規則はこの計算基礎に含めない手当を列挙しているが、そのうち特に「住宅手当」については、“住宅に要する費用の一定割合(または住宅に要する費用によって段階的に区分した額)を補助するもの”に限っているので、要注意だ。
 つまり、「住宅手当」でも、次のようなものは、残業単価の計算基礎に含めなければならない。
 (1) 従業員一律に定額で支給するもの(「第2基本給」的な意味合い)
 (2) 住宅の形態ごとに一律の定額で支給するもの
  例:「賃貸住宅に住んでいる者には3万円、持ち家に住んでいる者には2万円」
 (3) 住宅以外の要素に応じて支給するもの
  例:「世帯主である者には2万円、世帯主でない者には無支給」

 こんな例もある。
 寮完備をメリットと謳っていた会社が、その寮を廃止するのに伴い、入寮していた従業員に対し一定額の「住宅手当」を一定期間支給する制度を設けた。このこと自体は支払う会社にしても受け取る従業員にしても双方納得できる合理的なものであったが、その「住宅手当」を残業単価の計算基礎に含めるべきことを失念しており、労働基準監督署の調査で指摘され、2年間さかのぼって残業代を計算し直すこととなった。

 月ごとに見ればさほど大きな額ではないとしても、2年分まとめて支払うとなると、会社の存亡に関わるほどの大問題にもなりかねない。正しい理解と適切な運用が求められよう。


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ブログ更新期日の変更と掲載記事の一部削除について(再掲)

2014-01-09 17:28:46 | 労務情報

当ブログは、「3の付く日」と「9の付く日」に更新してきましたが、
諸事情により、平成26年1月以降は、
原則、「3の付く日」のみの更新とさせていただきます。

また、過去に掲載した記事につきまして、
これまた諸事情により、一部を削除させていただく予定でおります。
削除作業は1月中旬から順次(順不同)進めていきますので、
もし必要な記事がありましたら、
お早めに保存しておかれることをお勧めいたします。

ご愛読者諸兄にはご迷惑をお掛けいたしますが、
よろしくご了解のほど、お願い申し上げます。




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労基署の臨検監督を受けることになったら

2014-01-03 17:09:33 | 労務情報

 労働基準監督署から臨検監督(企業に立ち入っての調査)の通知が届くと、身構えてしまう企業が少なくない。違法であることを承知しながら放置していた場合は論外としても、そうでなくても「叩けば埃が出る」のが通例だからだ。
 そこで、今回は、“正しい臨検監督の受け方”について述べてみたい。

 まず、臨検監督が入る前に、社内でセルフチェックを行っておくべきだ。労働法令に詳しい社員がいないなら、弁護士・社会保険労務士等の専門家を活用しても良いだろう。
 そして、法令に抵触する状態が発覚したら、すぐに是正してしまうのが望ましい。臨検監督の時点で適法状態であるなら、それ以上の是正を命じられる余地は無いからだ。
 ただし、是正する前の(違法状態であった)期間中に、例えば未払い賃金等があったなら最大2年間さかのぼって支払うべきことを“指導”される可能性はある。しかし、それも、労使間できちんと話し合って一定の合意を得ているなら、そこでの結論が尊重されるケースも実は多い。

 このように、是正に前向きに取り組む企業には労基署も理解を示すが、逆に、違法なのに適法であるように取り繕うのは、“ご法度”だ。某鉄道会社が臨検監督にあたり出勤簿を偽装して提出したところ、PCのログオフ時刻などから勤務実態と異なることが発覚し、「悪質」と断じられ、総額約1億4千万円の未払い残業代の支払いを命じられたという事例もある。ついでに言うと、この鉄道会社は、担当役員が労基署に出頭して労基署長から直々に命令を受けたらしい(かなり異例)。

 さて閑話休題、その臨検監督が従業員からの通報に基づく「申告臨検」であったなら、話は別だ。
 申告臨検の場合は、通報の内容が事実であったなら、労働者を救済しなければならないので、例えば是正するまでの未払い賃金等があれば最大の2年分を支払うように命じられ、さかのぼり期間の短縮はあり得ない。もちろん、調査自体も厳しくなろう。
 そう考えると、法令違反が有ってはならないのは言うまでもないが、それ以上に、労使の信頼関係を保つことが何より重要とも言えそうだ。


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