家族の職業や勤務先は従業員本人にとってはセンシティブな情報であって、それを会社に報告させるのは、少なくとも罰則をもって強制するのは難しい。
会社が家族関係の情報を入手する目的としては「課税処理や年末調整のため」「社会保険の加入手続きのため」「家族手当や慶弔見舞金等の支給可否判断のため」「緊急時の連絡のため」等が考えられるところ、「家族の職業や勤務先」はこれらに関係ないからだ。
これを踏まえたうえでの論になるが、従業員から任意的に報告させたり、インフォーマルに情報を入手したりして、従業員の家族が同業他社に勤務していることが判明した場合、「同業他社に機密が漏洩するおそれあり」として当該従業員を解雇することは可能なのだろうか。
結論を言うと、それを理由に解雇するのは、さすがに無理だ。
従業員と家族とは別人格であり、現に機密を漏洩したのならともかく、その“おそれ”では、解雇の理由にはなりえない。 夫が同業他社に勤めているという理由で妻を試用期間中に解雇した事案において「仮に秘密が漏洩するおそれがあるのであれば、秘密保持のための適宜の措置を取ればいいのであって、解雇の合理的理由とは認められない」とした裁判例(大阪地判H16.3.11)もある。
では、会社からの一方的な解雇ではなく、退職を勧奨するのであればどうか。
退職勧奨自体に違法性はないので、詐欺や強迫が無い限り問題ないと考えられる。 しかし、退職勧奨はあくまで“勧奨”であるので、本人が応じなければ意味が無いし、本人に納得してもらうための“パッケージ”を用意する必要があるかも知れない。
一方、これが採用前であったら少し様相は異なる。
面接等で家族について質問することは「不適切な採用選考」として行政指導の対象となりうるが、“雑談”の中で応募者が自ら家族が同業他社に勤務している旨を話したのなら、それをもって不採用とすることは問題ない。 その応募者を従業員として採用するもしないも「営業活動の自由」に属するからだ。
さて、ここまでは組織から排除する方法について述べてきたが、当該従業員について組織の中での配置を変えるのは、どうだろうか。
配置転換は、人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使として、ある程度の裁量が認められる。例えば「機密を取り扱う部署から他部署へ異動させる」といったケースであれば、その配置転換に合理的な理由があると言えよう。 ただし、合理的な理由があっても、経営上の必要性と比較衡量して従業員の受ける不利益が過大である場合は“権利の濫用”として無効となることもある(参考判例:最二判S.61.7.14)ので、特に転居を伴う配転命令は要注意だ。
詰まるところ当該従業員の人材としての有用性次第という話にもなりそうだが、いずれにしても、感情を先行させず、冷静に、会社にとっての真の損得を考えて判断したい。
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