ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

通勤中の自動車事故と雇い主(会社)の民事責任

2018-02-23 20:39:26 | 労務情報

 自動車通勤を認めている会社では、その途上で従業員が交通事故を起こすこと、特に従業員が加害者になってしまうことは想定しておく必要がある。
 では、従業員が加害者になってしまった場合、会社が被害者に対する損害賠償責任を負うことがあるのだろうか。

 まず、社有車で通勤させているケースでは、会社の責任は免れえないだろう。ドライバー自身の過失による事故であったとしてもそれは社内で解決すべき問題であって、被害者に対しては会社が損害を賠償しなければならないことになる。
 社有車でなくマイカーでの通勤途上であっても、その車を業務にも使用させていた場合は、使用者責任(民法第715条第1項)および運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条)を問われる可能性が高い。

 一方、マイカーを専ら通勤のためだけに使っているケースにおいては、会社にまで損害賠償責任が生じる可能性は低いと言える。
 しかし、当該従業員が任意保険に加入していなかった等の理由で充分な補償ができなかった場合には、被害者やその遺族が資力のある会社に対して損害賠償を求めることは考えられるし、その訴えを認めた判決も少数ながら存在する。

 こういったことを踏まえれば、会社としては、できれば自動車通勤は避けるようにさせたい。まして、社有車の駐車場代や通勤手当程度の金額を惜しんで自動車通勤を奨励しているような会社は、もっと大きな損失が発生するリスクを含有していることを認識しておくべきだ。
 また、やむを得ず自動車通勤を認める場合には、免許や保険の有無を会社が確認できるようにしておくのが望ましいだろう。


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妊娠した従業員の処遇変更に関する注意点

2018-02-13 20:29:16 | 労務情報

 さすがに今時、「妊娠したら退職」などという会社は無いだろうが、妊娠した当人の望まない処遇変更によりトラブルに発展する例は後を絶たない。

 まず基本的な法令事項から整理しておこう。
 労働基準法は、妊産婦は重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務等(女性労働基準規則2条に列挙される24業務)に就かせてはならない(労働基準法第64条の3)としている。そのため、これらの業務に就いている女性従業員が妊娠した場合には、担当業務を変更する必要が、法律上生じることになる。
 それ以外にも、妊産婦が軽易な業務への転換(同法第65条第3項)、変形労働時間制の適用除外(同法第66条第1項)、法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働の免除(同条第2項・第3項)を請求した場合には、会社はそれを認めなければならない。また、3歳未満の子を養育する者による所定外労働の免除(育児介護休業法第16条の8)、就学前の子を養育する者による法定時間外労働の制限および深夜労働の免除(同法第17条・第19条)についても、「事業の正常な運営を妨げる場合を除く」等の例外規定に合致しない限り、会社がこれを拒むことはできない。したがって、こうしたことにより支障が出るなら担当業務を変更せざるを得ないことになろう。

 さて、ここまでは法令を知っておけば済む話と言えるが、よりトラブルになりやすいのが、会社が本人の請求に基づいて担当業務を変更した後、本人が通常通り働けるようになった際の処遇だ。
 妊娠・出産・育児等により働き方に制限があるのであれば、それに見合った処遇(職責と賃金)を設定するべきなのは異論がないところだが、その事情がやんだ後に、元の処遇に戻すべきかどうかが問題となる。会社としては「本人がそれを承知のうえで請求したのだから、元の処遇に戻す義務は無い」と考えたいかも知れないが、そう主張するなら、本人の同意書もしくは新たな労働条件での雇用契約書等が必要だ。
 少し前に「広島マタハラ訴訟」として話題となった「管理職を解かれた病院勤務女性による損害賠償請求」(最一判H26.10.23)の問題点も、ここに帰結する。この事件で裁判所は、「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき(中略)は、同項(雇用機会均等法第9条第3項)の禁止する取扱いに当たらない」と判示している。逆に言うと、本人が同意していないにもかかわらず会社が(恒常的に)処遇を変えるのは、「不利益取扱い」(これもマタハラの一種)に該当することになる。
 ちなみに、この判決を受け、厚生労働省は、上記のような考え方をまとめた通達「平成27年1月23日雇児発0123第1号」を出している。

 経営者や人事担当者は、従業員の妊娠等に伴い「会社がしなければならないこと」(義務)と「本人ができること」(権利)を、今一度正しく理解し直しておきたい。その線引きがはっきりしていれば、マタハラも、あるいは昨今言われる「逆マタハラ」も、発生しにくい職場になるに違いない。


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退職直前にまとめて有休消化されないようにするために

2018-02-03 23:49:02 | 労務情報

 従業員が退職の申し出と同時に、使い残した年次有給休暇(以下、「有休」と略す)の取得を要求してくることがある。
 確かに、有休は労働者の権利であり、それをこれまで取らせて来なかった会社にも非のある話ではあるが、退職予定者が長期間出勤しないことによって業務引継ぎに支障が出るのであれば、会社としては対策を講じなければならないだろう。
 と言って、「有休を取らせない」という選択肢は無い。有休は、労働者が指定した時季に与えなければならず、会社側には、事業の正常な運営を妨げる場合に限り他の時季に与えることが許されている(労働基準法第39条第4項)だけなので、この時季変更権を在職中に行使できない以上、本人の求める通りに有休を取得させなければならないのだ。

 会社もしくは経営者によっては、「退職願」を受理せずに「解雇してしまおう」と考えるかも知れない。
 しかし、解雇するには合理的な理由があり社会通念上相当でなければならない(労働契約法第16条)ところ、「有休取得を申し出たこと」は解雇の合理的な理由たりえず、仮に業務引継ぎが不完全であったとしてもそれだけをもって解雇するのは相当性の点で無理がありそうだ。
 また、解雇に際しては、30日前の解雇予告またはそれに代わる解雇予告手当が必要(労働基準法第20条)であるので、会社が本人に支払う金額は有休を消化した場合と大差なく、解雇の効力を争われるリスクを冒してまでこの方法を採るメリットは無いに等しい。

 それよりも、会社としては後任者への業務引継ぎを確実に行ってほしいわけで、そのために有休を消化できない場合は、退職日を繰り延べしてもらう(=退職願を書き直してもらう)か、消化しきれなかった有休を買い上げる(有休の買い上げは通常は禁じられているが退職時に残った有休は買い上げても良い)ことを前提に、本人と交渉するのが最善策と言えよう。
 ただ、これは、あくまで退職者本人に納得してもらわなければならず、会社が強制できるものではないことは承知しておかなければならない。会社の都合による退職延期を肯定した裁判例(東京高判H21.10.21)もあるにはあるが、他の争点も絡んでいるので、この部分だけを切り取って判断するのは危険だろう。

 もちろん、引継ぎも業務であるから、会社がそれを命じるのは当然であるし、退職予定者もその命令に従う義務を負う。そして、これに従わなかった場合には、(無論「解雇」以外の)制裁を科したり、賞与や退職金の金額に差異を設けたりすることは、規程に定める範囲内で可能ではあるので、それによってある程度の実効性は担保できよう。
 もっとも、こういった場面で慌てないように、計画的付与制度を活用するなどして日ごろから有休取得を促進しておくべきであるし、そもそも“働きやすい会社”として自己都合退職自体を減らしていくことを経営者は目指すべきなのではなかろうか。


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