この秋、某有名司会者の二男が勤務していた在京テレビ局を諭旨解雇(ゆしかいこ)されたという話題が世間をにぎわせたが、この「諭旨解雇」について正しく理解できていない人も少なからずいるように感じたので、ここで簡単に解説してみたい。
「諭旨解雇」は、「退職願の提出を勧告する(応じない場合は懲戒解雇に付する)」という、会社が従業員に科す制裁の一つだ。本人の意思で退職させる形を採るので「懲戒解雇」よりは軽いとは言え、「懲戒」には違いない。
したがって、予め諭旨解雇に該当する事由を就業規則等に明記しておく必要があるし、実際に制裁を下すに際しては、行為と処分との関係において妥当なものでなければならない。
さらには、会社が“懲戒権”を有するのは職場秩序を維持するためであり、従業員の私生活における行為についてまで会社が当然に懲戒できるわけではないことも、理解しておく必要があるだろう。これに関しては「業務外における飲酒運転を理由とする懲戒解雇」を無効とする判決(福井地判H22.12.20など)が相次いでいることも参考にしたい。
もっとも、今般話題になった事件は、勤務先の名前が公になり会社に損害を与えたことや他の従業員に与える影響等も考慮すれば、諭旨解雇が相当だったと言えるが。
ところで、単なる「退職勧奨」と、懲戒処分としての「諭旨解雇」とは、何が違うのだろうか。
まず、退職金の計算が異なる。退職勧奨の場合は通常の退職金が(むしろ加算金が付く場合も)支払われるのに対し、諭旨解雇の場合は退職金を減額することとしている会社が多い。ただ、これも、「永年の勤続の功労を抹消してしまうほどの信義に反する行為があった場合」(大阪高判S59.11.29など)にのみ減額できると考えなければならない。
それから、一部に誤解している向きもあるようだが、雇用保険手続きにおける離職事由が異なる。退職勧奨に応じての離職は「事業主都合」となるが、諭旨解雇は「重責解雇」なので「自己都合」と同じ扱いとなるのだ。
まれに、制裁メニューに「諭旨解雇」の無い会社で、「懲戒解雇では重すぎる」という事案に対して「退職勧奨」が行われる例が見受けられる。確かに、一方的に懲戒解雇するよりも「合意退職」の形にしておいた方が無難であるため「退職勧奨」を用いるケースもあるが、「諭旨解雇」とは趣旨も手続きも異なることは承知しておくべきだ。
そもそも「諭旨解雇」は、その従業員を職場から排除するという点で「懲戒解雇」と変わらないほどの重い処分と認識しなければならないのだ。
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