ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

宅直(オンコール当番)に対して賃金を支払わなくて良いのか

2017-06-23 19:39:02 | 労務情報
 医療機関や介護施設等において、「宅直」(「自宅における当直」を略した造語)もしくは「オンコール当番」などと称する制度を採りいれている例が見受けられる。これは、医師や職員が当番制で、緊急時に対応するため電話を受けられる状態で待機するものだが、この待機している時間は、労働時間(すなわち賃金支払いの対象)と見るべきなのだろうか。
 結論を先に言うと、これは一概に「労働時間である」とも「労働時間でない」とも決めきれず、ケースバイケースで判断するしかない。何とも歯切れの悪い言い回しではあるが、要は、「使用者の指揮命令下にある」と見るべきか否かによって扱いが異なるのだ。

 宅直制度に関して訴訟に発展した事案では、裁判所は、会社側に有利な判断を示している例が目立つ。しかし、それは会社にとっての安心材料にはならないだろう。
 実際、裁判所が「使用者の指揮命令下になかった」と判示した代表事例(大阪高判H22・11・16)は、「宅直制度は医師たちがプロフェッション意識に基づいて自主的に取り決めたもの」、「待機場所を定めておらず(自宅でなくても良い)、場所的に拘束されていない」、「緊急事態にはまず宿直医師が対応し、応援が必要な事態にのみ宅直医師に連絡することとしている」、「宅直制度が無ければ、医師全員が応援要請を受ける可能性があり、精神的負担はむしろ大きい」などの事情を勘案したうえでの判決であった。逆に言えば、こういった事情が認められなければ、「使用者の指揮命令下にある」と断じられる可能性が高いわけだ。加えて、この大阪高裁判決は、同じ訴訟のもう一つの争点であった「医師の宿直」については原告(労働者側)の言い分通りに「断続的労働には該当しない」と判じていることも、併せて読み込まなければならないだろう。

 また、宅直中に電話で呼び出されて通常業務に従事した場合は、当然、その実働時間数に対して本来の賃金(深夜割増および法定労働時間を超過する場合には時間外割増を加算)を支払わなければならない。
 さらには、その頻度が高く、精神的緊張を持続しなければならないのであるなら、電話を待っている時間すべてが「労働時間」となりうる。

 そう考えてみれば、宅直を賃金支払いの対象からまったく除外するのは「きわめて黒に近いグレー」と言えそうだ。せめて「宿直手当」と同等の「宅直手当」を支給することとしておくのが、少なくとも民事的なトラブルを予防する観点からは賢明ではなかろうか。


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正社員が10人未満であっても就業規則を届け出る義務?

2017-06-13 10:59:29 | 労務情報

 労働基準法第89条は、「常時10人以上の労働者を使用する事業場」に、就業規則の作成と届け出の義務を課している。
 これを「“常用労働者”が10人以上の事業場は就業規則を作成しなければならない」と誤解している向きもあるが、それはちょっと違う。「常時使用する労働者」と「常用労働者」とは意味が異なるのだ。

 「常用労働者」とは、「期間を定めずに、もしくは1か月を超える期間を定めて雇われている者」または「前2か月にそれぞれ18日以上雇われた者」と定義される。すなわち、「パートタイマー(長期雇用)」はこれに該当するが、「短期アルバイト」は該当しないというイメージだ。
 一方、「常時使用」は、事業場の規模を考えるうえで「常態として何人雇っているか」を見るものであるので、こちらには「短時間労働者」も「短期雇用の労働者」も要件に合致すれば含めることになる。

 具体的な数字を挙げて説明してみよう。
 例えば「正社員3人+短期アルバイト7人」の事業場があったとする。もし、この短期アルバイト7人全員が1か月以内の期間を定めて雇用されているなら、「常用労働者」は「正社員の3人だけ」ということになる。
 しかし、仮に、顔ぶれは毎月変わるとしても、常に7人の短期アルバイトを雇っている状態であるなら、「常時使用する労働者」は「10人」と数える。そうなると、この事業場は、就業規則を作成して所轄労働基準監督署へ届け出る義務があることになる。

 もっとも、労働基準法上の義務をあれこれ考えるよりも、就業規則は、労働条件や服務規律を明文化しておくこと(流行りの言葉で言えば「ルールの見える化」)が最大の目的なのだから、常時使用する労働者の人数に関わりなく、作成しておくべきだろう。


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未払い残業代請求における「付加金」とは

2017-06-03 21:49:09 | 労務情報

 労働者から、残業代が支払われていなかったとしてその支払いを請求された際に、未払い残業代の金額と遅延損害金のほか、「付加金」の支払いも含まれていることがある。
 この「付加金」とは、労働基準法第114条の定めにより、解雇予告手当、休業手当、法定時間外・法定休日・深夜業に係る割増賃金、および年次有給休暇中の賃金を支払わなかった使用者に対して、裁判所はそれら未払い額と同一額の支払いを命じることができるとされているものだ。そして、これには「労働者の請求」が要件であることから、未払い残業代請求においては付加金も含めておくのが、今や、労働者側の常套戦術となっている。

 請求された会社側にしてみれば未払い(とされた)残業代の倍額を請求されるので一瞬驚くかも知れないが、落ち着いて、付加金支払いを命じるのは裁判所であることを思い出してほしい。加えて言えば、裁判所が命じることのできる場面は、「判決」しかない。

 そう考えると、訴訟が提起される前の、ADR機関(都道府県労働局等)における「あっせん」や「労働審判」の申し立て段階の話であれば、それらに応じた方が付加金支払い命令を受けることが無いため、会社にとっては得策であるケースもありえよう。ちなみに、一部には「労働審判も裁判所が介在するので付加金請求が可能」と主張する向きもあるが、労働審判で決定を下すのは正確に言うと裁判所ではなく労働審判委員会であるので、(請求するのは自由だが)労働審判では付加金支払いは命じられないとするのが多数説だ。
 そして、それらが不調に終わり訴訟に発展してしまった場合も、特に会社側の“負け筋”のケースでは、判決が出る前に解決するように努めるべきだろう。係争中に未払い残業代を清算した事件において、最高裁は「口頭弁論終結時までに義務違反の状況が消滅したときには裁判所は付加金の支払いを命じることができない」(最二判S51.7.9、最一判H26.3.6等)と判断している。

 もっとも、そもそも未払い残業代が無いのであれば徹底的に争うべきであるし、それ以前に、残業代の不払いなど、あってはならないのだが。


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