「賞与」は、一般的に、①賃金の後払い、②功労への褒賞、③成果の配分、④将来への期待、の4つの性格を併せ持つと言われる。
この論に従えば、これらのうち「将来への期待」以外の意味では、支給日前に退職した者にも受け取る権利があるとも解釈されうるが、現実には、支給日に在籍しない者には賞与を支給しないこととしている会社が多い。
この運用は違法ではないのだろうか。
結論から言えば、そのような明文規定または労使慣行があれば、問題ない。
そもそも、賞与は、月例給与とは性格が異なり、基本的には、支給対象者や支給額を会社が決定することができるものだ。 したがって、「賞与は支給日に在籍している者に支払う」と就業規則や個別の雇用契約書に定めを置くことは許され(最一小判S60.3.12など)、そのような労使慣行が存在すればそれに従うこととなる(民法第92条、最一小判S57.10.7)。
しかし、そのような明文規定も労使慣行も存在しない場合や、逆に積極的に「支給日に在籍しなくても賞与を支払う」旨が労働契約や労働協約に定められているなら、退職者にも賞与を支給しなければならないこととなる。
ちなみに、労働協約は、少数組合(昨今では企業外の合同労組等も目立つ)と交わしたものも該当するので、見落とさないようにしたい。
また、年俸制の者や会社都合で退職した者に関しては注意を要する。
年俸制の契約では、年額を便宜上「12か月+夏冬各2か月分」のように取り決めているケースが見られるが、その場合は、在籍期間に応じた金額を支払う義務がある。
インターネット等で入手したモデル契約書をそのまま用いている場合は再チェックしておきたい。
会社都合(解雇や定年)により退職したケースでは、当該退職者自らの意思で退職日を選んだわけではないので、在籍していることを賞与支給の要件にするのは不合理とも考えられる。
もっとも、懲戒解雇であればその者の責めに帰するものであり、一方、整理解雇は経営側の責めに帰するものであるが賞与を支給できる状況にないだろうから、いずれもトラブルとはなりにくいだろう。
定年退職者に関しては、「退職者に不測の損害を与えるものとはいえない」等の理由で賞与不支給を是認する裁判例(東京地判H8.10.29)があるものの、これが“判例”として確立しているとはまだ言えない状況だ。
以上をまとめると、賞与は、「支給日に在籍しない者にも支給する」のが原則であり、「特約のある場合に限り支給しないことが許される」と認識しておくべきと言える。
加えて言うなら、退職者にも賞与を支給することが必ずしも会社にとってマイナスに働くわけではないので、それをインセンティブ的に活用するのも悪くないだろう。
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