ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

ノルマを達成できなかった従業員へのペナルティー

2024-12-23 09:59:08 | 労務情報

 「ノルマ」とは、もともとロシア語で「個人や集団に割り当てられる標準作業量」を意味するが、日本では、特に営業職における「必達目標」といった意味合いで用いられている。

 会社が経営計画達成のため売上高目標を設定するのは当然のことであって、それを各人のノルマという形で落とし込むことに問題は無い。 しかし、その運用方法によってはトラブルに発展しかねないので、会社(経営者や上司)は気を付けておきたい。
 極端な例を挙げれば、「ノルマを達成できなければ解雇する」というのは、違法とされる可能性が高い。 従業員を解雇するには「客観的に合理的かつ社会通念上相当」な理由が必要とされる(労働契約法第16条)ところ、「会社の求める成果が上げられなかった」というだけでは、この要件を満たさないからだ。

 会社は、ノルマ未達成の従業員に対し、まずは、その能力を高めるために教育・指導することを考えなければならない。
 ただ、この教育や指導にあたっても、トラブルとなる事例がしばしば見られる。 例えば、同僚の面前で叱責したり、懲罰的に雑用ばかりさせたり、といったものはパワーハラスメントにあたるし、未達成額を給与から勝手に差し引いたり、自腹で在庫を買い取る(俗に「自爆営業」とも呼ばれる)よう強要したりするのは、労働基準法違反にもなりうるので、これらの行為は厳に慎みたい。

 そして、適切な教育・指導のうえでなお能力が目標に追い付かなければ、“降格”や“配置転換”を考えることになるだろう。
 なお、そのような降格や配置転換であったとしても賃金を減額するのは労働条件の不利益変更に他ならないので、これらも正しい手続きを踏まなければならない。
 加えて言えば、この段階では、“退職勧奨”も視野に入れておいてもよいだろう。

 さて、その一方で、ノルマを達成できなかった従業員の賞与を減額するのは、“会社利益への貢献度”という観点から考えれば、賞与支給に関する特約の無い限り、差し支えない。 また、ノルマ達成度を昇格や昇進の査定に影響させるのは、むしろ公平・公正と言えよう。

 ちなみに、営業成績を歩合給に反映させるのは、そういう労働契約を交わしているならば問題ないと思えそうだが、労働基準法第27条が「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めていることには注意を要する。 つまり、完全出来高払いの契約は認められず、少なくとも「最低賃金額×労働時間」の賃金は保障しなければならないのだ。

 結論として、「ノルマを設定すること自体は有効だが、その未達成に対し過度に重いペナルティーを科すのは無効」と理解しておくべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カスタマーハラスメントへの対処は会社の義務

2024-12-13 10:00:52 | 労務情報

 今年10月4日、東京都では、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」が制定され、令和7年4月1日から施行されることとなった。
【参考】東京都産業労働局「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」

 その内容は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為(※)であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明記したことが特徴的だ。
 そして、事業者に対しては、都が発するガイドラインに基づいて、「必要な体制の整備」、「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」、「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。
 ※暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為

 そもそも、会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならない(労働契約法第5条)。
 したがって、この条例に拠らずとも、また、東京都以外の会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにし、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対処を講じるべき義務を負っているのだ。
 また、令和5年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」(労災認定の指標)には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントとそれへの会社の対応により労災事故と認定される可能性がある。 この通達自体は労災保険に関するものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなりうる。

 もし会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者の矛先が会社に向きかねない。
 「訪問した児童宅で飼い犬に噛まれて負傷した教諭がその損害賠償に関し児童の家族から土下座での謝罪を求められ、同席していた校長がそれを強要した」として被告の山梨県に損害賠償を命じた裁判例(甲府地判H30.11.13)は、発端はカスタマーハラスメントであったものの上司が対応を誤ったためにパワーハラスメントの話と化した事例と言える。

 なお、誤解してはならないが、顧客等からの正当なクレームは、自社の商品・サービスの品質改善にもつながるもので、これには真摯に向き合うべきだ。
 しかし、それが「要求内容に妥当性の無いもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」、そして「それによって労働者の就業環境が害されるもの」は、紛うかたなくカスタマーハラスメントであるので、経営者として毅然と対処しなければならない。
【参考】厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
    明るい職場応援団「職場におけるハラスメント対策研修動画」


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インフルエンザ流行への会社としての対策

2024-12-03 08:59:19 | 労務情報

 季節性インフルエンザが流行入りした。
 今年(令和6年)は夏が長引いたせいか昨シーズンの同時期より感染者が少ない印象だが、それでも11月24日時点で「定点あたり2.36人」と新型コロナのそれ(定点あたり1.81人)を上回っている。

 会社として行うべきインフルエンザ対策は、大きく「従業員に向けての対策」と「事業運営に関わる対策」との2面がある。

 従業員に向けての対策としては、「ワクチン接種の奨励」や「手洗い・うがい・咳エチケットの徹底」といった、インフルエンザの予防や感染防止に関する呼び掛けを中心とした活動が必要だろう。

 一方、事業運営に関わる対策としては、「従業員本人や家族が感染した場合の出勤見合わせ等の手続きルール」や「従業員が多数感染した場合やパンデミックで交通機関が遮断された場合等における事業活動の維持継続案」といった、いざと言うときに備えたプラン(BCPやBCM)を予め検討しておきたい。 これらをパンデミックになってから“泥縄”で考えたのでは対応が後手に回りがちであるし、実際にかかる事態下において対策を検討するのに充分な人的資源が会社に残されているかも心配だ。
 また、これらを「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」を受けて整備した会社も多いが、喉元過ぎて熱さを忘れてしまったか(あるいは“仏造って魂入れず”だったか)、今は有耶無耶になっているという会社も散見される。 それは実に勿体ない話だ。

 もちろん、相手が病気の話なので流行するもしないもこちらで予想した通りになるものではないが、それは、臨機応変に対策を変更できる柔軟性を持たせておけば良いことだ。 いざ緊急時に、事業活動が(縮小するのはやむを得ないとしても)完全に麻痺してしまうことだけは避けたい。
 油断禁物。 お気をつけあれ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする