ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

給与の過誤払い分を次月給与から相殺してもよいか

2021-05-23 21:47:53 | 労務情報

 毎月の給与計算作業の中で、給与を多く支払いすぎてしまうことが起こるかも知れない。
 こうした場合に、その過誤払いした額を次月給与から相殺することは可能なのだろうか。

 まず押さえておかなければならないのは、当該従業員の申告漏れにより家族手当や通勤手当等を余分に支払ってしまったようなケースは言うに及ばず、会社(給与計算担当者)のミスで多く支払ってしまったのだとしても、それは当該従業員が本来受け取るべきでない金員(不当利得)であるので、会社はその返還を求めることができる、ということだ。
 そして、その過誤払いが長期間にわたっていたとしても、法律上は、権利を行使することができる時から10年間(民法第166条第1項第2号;ちなみに同項第1号「知った時から5年間」はこの場合は考えにくい)は、不当利得返還請求権を行使できるとされる。 とは言え、逆に支払った給与額が少なかった場合の労働者側からの請求権が3年間で消滅する(労働基準法第115条・第143条第3項)ことを鑑みれば、過誤払いの返還請求も「最大で3年間」と考えるのが妥当と言えるだろう。

 さて、では、この不当利得を“返還”ではなくて、給与から“相殺”することが許されるかという話になると、「条件によっては可」ということになる。
 労働基準法第24条第1項本文には「賃金の全額払い」が定められているところではあるが、裁判所は、「過払いのあった時期と賃金の精算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期に」、「あらかじめ労働者にそのことが予告され」、「その額が多額にわたらない」、「要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」は同項の禁止するところではない(最一判S44.12.18)と判じている。 「前月分の過払賃金を翌月分で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、法24条(労働基準法第24条)の違反とは認められない」との行政通達(昭23.9.14基発1357号)も参考にしたい。

 以上を踏まえると、給与の過誤払いが起きてしまったら、その額の多寡にかかわらず、まずは当該従業員に事情を説明し、「返還」を求め、「返還方法を相談する」ことを第一に考えるのが望ましい。
 その返還方法の一つとして「次月(または次月以降の数回)の給与からの相殺」も選択肢に入れておき、それを本人の意思で選ぶのなら問題ない。 そして、本人が相殺に同意したなら、その旨を文書に残しておくべきだ。

 なお、ミスを犯した給与計算担当者に損害賠償を求めるのは、損害額や過失の程度にもよるところではあるが、「通常の業務内で起こりうる些細なミスによる損害については求償権を行使できない」(名古屋地判S62.7.27など)とされているので、かなり難しいだろう。
 そもそも、会社は、このような事故が起きないよう、担当部内でダブルチェックする等のミス防止策を講じ、また、従業員にも給与明細を毎回確認するよう注意を促しておくことが肝要だ。


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派遣労働者の労災事故は、派遣元・派遣先のどちらに責任が?

2021-05-13 10:59:11 | 労務情報

 派遣労働者が労災事故に遭った場合は、一般の労働者とは異なる扱いが発生する。

 まず、労働基準法および労災保険法に基づく災害補償については、事故現場である“派遣先”ではなく、賃金支払い義務者である“派遣元”が責任を負う。そのため、労災保険の各種給付に関する事務手続きは、派遣元で行わなければならない。

 ところが、同じ労働基準監督署関連の手続きでも…‥


※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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部分的なテレワークなら導入可能では?

2021-05-03 19:14:05 | 労務情報

 四都府県に3度目の緊急事態宣言が出されている今だから言うわけではないが、テレワーク導入のメリットは、計り知れない。

 社会全体の観点からは、通勤による社会的コストや環境への負荷を軽減でき、地域活性化や少子化対策にも良い効果をもたらす。
 企業にとっては、通勤手当・単身赴任手当等やオフィスの賃料・光熱費等のコストが削減できる。
 労働者にとっては、フレックスタイム制と組み合わせればより効率的な働き方が期待でき、育児・介護・病気療養等と仕事との両立も容易になり、ひいては、ワーク・ライフ・バランスの向上にもつながる。
 もちろん、通勤による感染症罹患リスクが低下することは、特に今の時期は、大きなメリットに違いない。

 日本生産性本部の調査(※)によると、わが国の企業・団体に雇用されている人のテレワーク実施率は、昨年5月は31.5%だったものが7月には20.2%へと低下したものの、10月には18.9%と微減にとどまり、約2割の人(「約2割の企業・団体」ではないことに要注意)にはテレワークが定着しているようだ。
 また、5月の同調査では「効率が下がった・やや下がった」と感じている人が66.2%だったものが、7月にはちょうど50.0%、10月には49.5%と、これも落ち着いてきている。
 とは言え、約半数の人は効率の面で満足しておらず、約8割の人はそもそもテレワークをしていないわけで、テレワークの普及にはまだ程遠い様子が窺える。
  ※日本生産性本部「第3回 働く人の意識に関する調査」
   → https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/3rd_workers_report.pdf

 テレワーク導入に否定的な企業からは、「書類が電子化されていない」、「セキュリティ上の問題がある」、「勤怠管理が難しい」、「従業員間のコミュニケーションが取りづらい」といった声が聞かれる。業態によっては「テレワークできない業務がある」のも事実だろう。
 しかし、これらをもってテレワークを全否定する理由にはなりえない。
 「従業員がまったく出社しない」のが難しいとしても、部分的なテレワーク、例えば「交替で週1日ずつテレワークする」といった程度なら、導入できないだろうか。それがうまくいったら、今度は逆に「週1~2回、全員が顔を合わせる機会(『昼礼』等)を設ける」まで歩を進めることを考えたい。
 また、これを、「書類の電子化」や「(勤怠状況ではなく)成果による評価システムの構築」など、業務の手順や管理方法を見直す“好機”ととらえるのも悪くない。

 国(経済産業省・厚生労働省)や地方自治体(東京都等)も、少なくともコストの面から企業がテレワーク導入に二の足を踏むことのないよう、助成金等の支援策を充実させている。
 テレワークは、今や、「やれない理由を挙げる」のではなく「やる方法を考える」段階まで来ている“喫緊の課題”と言えそうだ。


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