労働契約も契約の一種であるから、その内容は、原則として、当事者同士で自由に決めることができる。したがって、労働条件を労働者にとって不利益に変更することも、両当事者の合意があれば可能だ。
ただし、こと労使関係においては使用者側が労働者側よりも情報量や交渉力の点で圧倒的に勝っているため、「契約自由の原則」に法令で一定の制限が設けられていることは、前提条件として押さえておきたい。
ここで言う「(広義の)労働契約」には、「雇用契約」(狭義の「労働契約」;労働者各人と個別に締結するもの)ばかりでなく、集団的な労働契約である「労働協約」や、使用者が一方的に制定する「就業規則」も含まれる。
そして、これらの優劣関係に関しては、労働基準法第92条第1項では「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と、労働契約法第12条では「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする」とされている。
これを整理すれば、「法令>労働協約>就業規則>雇用契約」という図式になる。
これを踏まえれば、就業規則を変更しようとする場合でも、新しい労働条件が労働協約に反してはならない。そのため、就業規則変更に先立って新たな労働条件を含む労働協約の締結を要するわけで、事実上、労働組合の同意を得なければ、仮に労働契約法第10条の要件を満たしたとしても、就業規則の変更による労働条件の不利益変更はできないのだ。
一方で、従業員各人と雇用契約を交わし直して(個別同意を得て)労働条件を不利益に変更しようとするのは、一見問題なさそうに思えるが、これとて就業規則に定める労働条件を下回ってはならないので、就業規則の変更も同時に必要となる。この手続きを失念しないよう、実務担当者は細心の注意を払いたい。
もっとも、個別に従業員各人を説得して同意を得ているのなら、就業規則の形式を整えるだけのことなので、この期に及んで特段の問題が生じる心配は無いだろう。
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