新型コロナウイルスの影響もあって、来春新卒者の採用活動を見送った会社や、採用規模の縮小を余儀なくされた会社も多い。
ところで、初めから採用見送りを決めたなら問題にはならないが、採用活動を進めておきながら、途中で「内定」や「内々定」を取り消すのは企業にとって法的リスクが高いので、注意したい。
一般的に「採用内定を出す」とは、応募者からの労働契約締結の申し込みを企業が承諾したということであり、「解約権を留保した労働契約」が成立した状態と解されている(最二判S54.7.20、最二判S55.5.30)。 そして、内定を取り消すということは、企業側が労働契約を一方的に終了させることに他ならず、「解雇」と同じく労働契約法第16条の適用を受ける。 つまり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効になるということだ。
ここでいう「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」であるかどうかは、「整理解雇の4要素」により判断される(東京地決H9.10.31)。 すなわち、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続の妥当性、を総合的に勘案しなければならない。
また、仮に整理解雇の4要素を満たすものとして内定取り消し自体は是認されたとしても、企業側の一方的な都合で内定を取り消す以上、民事上の損害賠償責任は免れない。
とは言うものの、その金額的な“相場”は計りにくい。 訴訟が提起されても判決に到る前に和解して合意内容が公開されないケースが多く、また、弁護士や労働組合が“成功事例”として公表しているのは、(当然ながら)うまく行ったケースであるので、その金額を鵜呑みにはできまい。
原告(労働者)側にとっても、損害額をいくらと見積もるかは悩ましい。理屈の上では「就職の機会を1年延期させられたのだから1年分の賃金相当額を支払え」という請求も考えられうるが、「別の就職先が決まるまでの(例えば3か月分の)賃金+就職活動費」くらいの請求が、現実的な線ではなかろうか。
では、「内々定」(一般的には「内定を内定した」という企業側の一方的な意思表示)であれば取り消しても差し支えないかというと、そういうわけでもない。
片務契約にも「債務不履行」および「(それに基づく)損害賠償請求」という概念はあり、実際「内々定の取り消し」が争点になった裁判例(福岡地判H22.6.2)も存在する。 この事例では、学生に対し5月に内々定を出したマンションディベロッパーが、「10月1日に正式な内定通知を出す」旨を9月25日に連絡していたにもかかわらず、9月30日にそれを取り消したというもので、裁判所はこのマンションディベロッパーに100万円の慰謝料支払いを命じている。
しかし、これらを踏まえたうえでも、背に腹は代えられない。 冷たいようだが、現に雇用している従業員を解雇するよりは、内定取り消しや内々定取り消しを選択するべきだ。
もちろん、そのような事態を極力回避するべく最大限の努力を尽くすことが前提の話ではあるが。
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ところで、初めから採用見送りを決めたなら問題にはならないが、採用活動を進めておきながら、途中で「内定」や「内々定」を取り消すのは企業にとって法的リスクが高いので、注意したい。
一般的に「採用内定を出す」とは、応募者からの労働契約締結の申し込みを企業が承諾したということであり、「解約権を留保した労働契約」が成立した状態と解されている(最二判S54.7.20、最二判S55.5.30)。 そして、内定を取り消すということは、企業側が労働契約を一方的に終了させることに他ならず、「解雇」と同じく労働契約法第16条の適用を受ける。 つまり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効になるということだ。
ここでいう「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」であるかどうかは、「整理解雇の4要素」により判断される(東京地決H9.10.31)。 すなわち、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続の妥当性、を総合的に勘案しなければならない。
また、仮に整理解雇の4要素を満たすものとして内定取り消し自体は是認されたとしても、企業側の一方的な都合で内定を取り消す以上、民事上の損害賠償責任は免れない。
とは言うものの、その金額的な“相場”は計りにくい。 訴訟が提起されても判決に到る前に和解して合意内容が公開されないケースが多く、また、弁護士や労働組合が“成功事例”として公表しているのは、(当然ながら)うまく行ったケースであるので、その金額を鵜呑みにはできまい。
原告(労働者)側にとっても、損害額をいくらと見積もるかは悩ましい。理屈の上では「就職の機会を1年延期させられたのだから1年分の賃金相当額を支払え」という請求も考えられうるが、「別の就職先が決まるまでの(例えば3か月分の)賃金+就職活動費」くらいの請求が、現実的な線ではなかろうか。
では、「内々定」(一般的には「内定を内定した」という企業側の一方的な意思表示)であれば取り消しても差し支えないかというと、そういうわけでもない。
片務契約にも「債務不履行」および「(それに基づく)損害賠償請求」という概念はあり、実際「内々定の取り消し」が争点になった裁判例(福岡地判H22.6.2)も存在する。 この事例では、学生に対し5月に内々定を出したマンションディベロッパーが、「10月1日に正式な内定通知を出す」旨を9月25日に連絡していたにもかかわらず、9月30日にそれを取り消したというもので、裁判所はこのマンションディベロッパーに100万円の慰謝料支払いを命じている。
しかし、これらを踏まえたうえでも、背に腹は代えられない。 冷たいようだが、現に雇用している従業員を解雇するよりは、内定取り消しや内々定取り消しを選択するべきだ。
もちろん、そのような事態を極力回避するべく最大限の努力を尽くすことが前提の話ではあるが。
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従業員を解雇する場合には、原則として、30日以上前に予告するか、予告できない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないが、“労働者の責に帰すべき事由”に基づいて解雇する場合はこの限りでないとされている。(労働基準法第20条)
しかし、誤解も多いのだが、「労働者の責に帰すべき事由であるかどうか」を判断するのは、会社ではない。会社が「懲戒解雇」として処分する場合であっても、労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を得て初めて予告義務(または予告手当の支払い義務)を免れるのであって、「懲戒解雇イコール予告不要」ということではないのだ。
現に、懲戒解雇であっても、労働基準監督署が解雇予告の除外を認めなかったケースも少なくない…‥
※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。