ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「昇格・降格」と「昇進・降職」に関する注意点

2014-08-23 16:26:39 | 労務情報

 人事担当者としては、社内での資格等級に係る「昇格・降格」と、役職に係る「昇進・降職」とは、厳密に区別して考えなければならない。昇格・昇進ならまだしも、「(資格等級の)降格」と「(役職の)降職」とを混同して取り扱うとトラブルの素になりかねないので、特に注意を要する。

 まず、資格等級の昇降格についてであるが、資格等級制度のある会社では、資格等級ごとの要件を設けているはずなので、昇格も降格も、その基準に照らして合理的に行わなければならない。
 ところが、多くの企業で見られるような「年功型人事」をベースに置いたままの資格等級制度においては、「経験が長くなるほど能力が高まる」という前提で設計されているので、簡単に降格できるものではない。こういう制度の下で降格するには、「能力が低下したのが明らか」もしくは「懲戒処分に該当した」といった客観的な資料が必要になる。

 片や、役職については、会社は、人事権行使の一環として、従業員を役職に就けたり解任したりすることができるものとされる。すなわち、「昇進させるのも降職させるのも基本的には会社の裁量で可能」ということだ。しかし、これにも注意すべき点がある。
 1つ目は、法律に明確に規定されている「違法な降職」というものがある。例えば、労働組合の活動を行ったこと、育児休業・介護休業や年次有給休暇を取得したこと、会社の違法行為を公益機関に通報したこと等を理由とする降職は、許されない。
 2つ目に、「違法」ではなくても、「合理性の無い降職」は、権利を濫用したものとして、無効とされる。セクハラ事件・パワハラ事件として訴訟にまで発展するケースも少なくない。
 そして3つ目が、賃金の問題だ。「役職を解かれたことに伴う役職手当の減額(もしくは不支給)」には、一応の合理性があるとされるが、しばらくの間、その差額を「調整手当」として支給する等の“激減緩和措置”が必要だろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

求人票に書いた内容と実際の雇用条件が異なっても良いか

2014-08-13 11:38:02 | 労務情報

 従業員の募集にあたっては、学校やハローワークや求人雑誌・求人サイト等に「求人票」や「求人広告」(以下、「求人票等」と呼ぶ)を出すのが一般的だが、求人票等を見て応募してきた者を、そこに記載した内容と異なる条件で雇い入れることは、許されるのだろうか。

 これについては、「求人は労働契約申込みの誘引であり、求人票はそのための文書であるから(中略)本来そのまま最終の契約条項になることを予定するものでない」(東京高判S58.12.19)という古い判例を引用して「求人票等と実際の雇用条件が異なっても良い」との見解を述べる識者が少なからず見受けられる。しかし、この論は、少々リスキーだ。
 と言うのも、この判決文は、その前段において「求人者はみだりに求人票記載の見込額を著しく下回る額で賃金を確定すべきでないことは、信義則からみて明らかである」とも明言しているからだ。つまり、この事案(八洲測量事件)では、「いわゆる石油ショックによる経済上の変動により、求人票に記載した条件で雇用できなくなった」という特殊事情があったため、裁判所はそれを是認したと解釈するべきなのだ。

 したがって、冒頭の命題については、やはり、原則として「求人票等の記載内容と異なる条件で雇い入れることは許されない」と考えるべきだろう。まして、応募者増を企図して求人票等に偽りの“美辞麗句”を書き並べるのは、「信義則に反する」と言わざるを得まい。
 しかし、そうは言っても、現実に、求人票等に記載した条件で雇い入れることができなくなる事態も起こりうるだろう。そういう場合は、雇い入れ前に、本人にその旨を説明し、納得のうえで入社してもらえるよう、努めるべきだ。会社はその労を惜しんではならない。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「退職願」を受理すべき場合と受理すべきでない場合

2014-08-03 22:19:28 | 労務情報

 従業員から「退職願」(「退職届」でも効果は同じ。以下、本稿では「退職願」で統一する)が出されたとき、会社がそれを受理しないことは許されるのだろうか。

 答えを先に言ってしまうと、「不受理が許されるケースもあるが、受理しないことに意味が無い」ということになる。
 何とも歯切れの悪い表現だが、つまり、こういうことだ。

 例えば、契約社員が期間満了前に退職するのは契約違反であるので、やむを得ない事情がある場合を除き、会社が退職願を受理しないことは許されるものと解される。しかし、退職願を受理しなかったところで、会社は本人の意に反する労働を強制することはできない(労働基準法第5条)のだから、退職させないことの意味が無いのだ。
 いわゆる正社員が、就業規則に「退職願は1か月前までに提出すること」と定めてあるのを守らなかった場合でも、あるいは、民法第627条(第1項に定める「2週間」もしくは第3項に定める「3か月」)の期間内の退職を希望した場合でも、考え方は同じだ。

 したがって、退職願が出されたら、会社は「黙って受理する」のが正しい対処と言えよう。
 ちなみに、「慰留」は、インフォーマルな“相談”の段階ならともかく、正式に意思表示された以上、引き留めても従前同様の働きは期待できないので、徒労に終わる可能性が高い。

 ところで、そうは言うものの、唯一、退職願を受理してはいけない場合がある。それは、「懲戒解雇を予定している場合」だ。懲戒解雇された者には退職金の全部または一部を支給しないこととしている会社も多いが、それだけが理由ではない。
 当該従業員が退職してしまうと、会社が懲戒することはできなくなる。本人が会社からいなくなるという結果は同じだとしても、組織の規律を維持するうえで「会社が懲戒した」という事実を残すことが重要なので、こうした場合には自己都合退職させてはならないのだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする