「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、上場企業は、昨年(2019年)3月期決算から、有価証券報告書に役員報酬の決定方法を記載することとされた。もっとも、それ以前から、役員報酬の総額および連結報酬1億円以上の役員については個別に報酬額を開示することが義務づけられていたところではあるが、この府令改正は、すべての上場企業に役員各々の報酬について公開することを求めている。
さて、これは役員報酬に関する話だが、従業員の賃金に関しては、その決定方法や個別の賃金額を公開することに、どのような意味があるのだろうか。
もちろんこれは法律上の義務ではないため、公開するもしないも各企業の任意なのだが、上述の府令改正の影響もあってか、昨今、従業員の賃金を公開する(または公開を検討している)企業が増えてきているので、ここで考察してみたい。
まず、「賃金の決定方法」については、透明性が高まり、公正性を維持しようとする力も働くので、ぜひ公開するべきだ。
中小企業の中には「各人ごとに“お手盛り”部分があるので、公開をためらう」という経営者がいるかも知れない。しかし、その“お手盛り”が合理的なもの(「上司の命令に従順である」「将来性が期待できる」「従前の給与額とのバランス」等)であるならむしろ従業員全員に理解させておくべきであるし、不合理なものなら制度を改めるきっかけとしたい。
一方、「個別の賃金額」を公開することについては、一概にどの企業にも勧められるものではない。
そもそも賃金額を公開することは、「納得性」と「公平性」を得られることを目的とする。従業員各人が自分の賃金額を他の従業員と見比べる(同時に自身も他の従業員から見比べられる)ことで、満足(あるいは奮起)してくれるなら、奏功したと評価できる。しかし、却って不満材料となったり不公平感を与えたりしたのでは、逆効果だ。
経営者のキャラクターと従業員間の人間関係にもよるところだが、“お金”の話を嫌う企業風土の会社では、避けたほうが無難と言えよう。
なお、従業員個々の賃金額は「個人情報」には違いないので、それを公開することにするなら、就業規則にその旨を定めておくべきであり、できるなら個別同意も取っておきたい。
さて、以上は、あくまで、社内で公開するにあたっての話だ。社外に対してまで従業員個々の賃金額を公開するのは、メリットがあるとは言い難く、また、従業員の反発も免れまい。
社外向けには、「賃金テーブル」や「モデル賃金」を公開することで、多くの場合はリクルーティングの材料として利用している。一部のアパレル会社や旧財閥系の保険会社等にその成功事例を見ることができるが、これも非常にリスキーなので、どの企業にも安易に勧められるものではない。
企業ごとに、従業員の賃金を公開することで本当にメリットが得られるのか、慎重に見極めたい。
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