ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

従業員の賃金を公開することの意味とリスク

2020-04-23 18:59:10 | 労務情報

 「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、上場企業は、昨年(2019年)3月期決算から、有価証券報告書に役員報酬の決定方法を記載することとされた。もっとも、それ以前から、役員報酬の総額および連結報酬1億円以上の役員については個別に報酬額を開示することが義務づけられていたところではあるが、この府令改正は、すべての上場企業に役員各々の報酬について公開することを求めている。

 さて、これは役員報酬に関する話だが、従業員の賃金に関しては、その決定方法や個別の賃金額を公開することに、どのような意味があるのだろうか。
 もちろんこれは法律上の義務ではないため、公開するもしないも各企業の任意なのだが、上述の府令改正の影響もあってか、昨今、従業員の賃金を公開する(または公開を検討している)企業が増えてきているので、ここで考察してみたい。

 まず、「賃金の決定方法」については、透明性が高まり、公正性を維持しようとする力も働くので、ぜひ公開するべきだ。
 中小企業の中には「各人ごとに“お手盛り”部分があるので、公開をためらう」という経営者がいるかも知れない。しかし、その“お手盛り”が合理的なもの(「上司の命令に従順である」「将来性が期待できる」「従前の給与額とのバランス」等)であるならむしろ従業員全員に理解させておくべきであるし、不合理なものなら制度を改めるきっかけとしたい。

 一方、「個別の賃金額」を公開することについては、一概にどの企業にも勧められるものではない。
 そもそも賃金額を公開することは、「納得性」と「公平性」を得られることを目的とする。従業員各人が自分の賃金額を他の従業員と見比べる(同時に自身も他の従業員から見比べられる)ことで、満足(あるいは奮起)してくれるなら、奏功したと評価できる。しかし、却って不満材料となったり不公平感を与えたりしたのでは、逆効果だ。
 経営者のキャラクターと従業員間の人間関係にもよるところだが、“お金”の話を嫌う企業風土の会社では、避けたほうが無難と言えよう。
 なお、従業員個々の賃金額は「個人情報」には違いないので、それを公開することにするなら、就業規則にその旨を定めておくべきであり、できるなら個別同意も取っておきたい。

 さて、以上は、あくまで、社内で公開するにあたっての話だ。社外に対してまで従業員個々の賃金額を公開するのは、メリットがあるとは言い難く、また、従業員の反発も免れまい。
 社外向けには、「賃金テーブル」や「モデル賃金」を公開することで、多くの場合はリクルーティングの材料として利用している。一部のアパレル会社や旧財閥系の保険会社等にその成功事例を見ることができるが、これも非常にリスキーなので、どの企業にも安易に勧められるものではない。
 企業ごとに、従業員の賃金を公開することで本当にメリットが得られるのか、慎重に見極めたい。


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営業マンにも時間外賃金が必要?

2020-04-13 15:28:29 | 労務情報
 「営業マンには残業代を支払わなくてよい。」と思い込んでいる経営者も見受けられるが、それは、必ずしも正しいとは言えない。
 たしかに、事業場外で労働する者については「所定労働時間(または一定の時間外労働を含む時間)を労働したものとみなす」(労基法38条の2)とされているので、実際に何時間働くかは労働者の裁量に任されるのだが、その“みなし労働時間制”が適用されるためには以下の要件を満たさなければならない。

 まず第1に、“事業場外”で労働していること。
 文字に書けば至極当然と思えるが、意外に誤解されているところでもある…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  


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賃金請求権の消滅時効が3年に!

2020-04-03 23:01:59 | 労務情報
 この4月1日から施行された改正民法は、債権の消滅時効に関し、次のように定めている。

  第166条
   債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
   一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
   二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
   (第2項・第3項は省略)

 従来は債権の性格ごとに短期消滅時効が設けられていたが、時効期間の統一化・簡素化を図り、その一方で、証拠保存の便宜等のため「主観的起算点から5年」という概念を新設したものだ。

 これを踏まえて、賃金請求権の消滅時効等を見直す労働基準法改正案が、3月27日、可決・成立した。民法と同じ4月1日から施行されている。

 この改正では、以下3項目について、いずれも、その期間を「5年間」とし、ただし、当面(5年経過後に実施される見直しまで)は「3年間」とすることとしている。
  1.労働者名簿・賃金台帳等の保存期間(現行法でも3年間)
  2.付加金(※)の請求を行うことができる期間
     ※労基法違反事案に際して裁判所が追加で支払いを命じることができる金員
  3.賃金請求権の消滅時効期間

 なお、検討課題に挙げられていた「年次有給休暇の取得」に関しては、消滅時効期間を長くすると制度本来の趣旨(労働者の健康確保及び心身の疲労回復)に反するおそれがある等の理由から、今般の改正案には盛り込まず、現行(2年間)のまま変えないこととされた。

 さて、これら改正点のうち、企業にとって最もインパクトが大きいのは、やはり3つめの「賃金請求権の消滅時効」だろう。
 ただ、誤解されがちだが、今からすぐに未払い賃金を3年遡って請求されてしまうわけではない。消滅時効が進行するのが4月1日からであるので、この法改正が実効性を持つまでには、まだ2年近くの猶予がある。

 そもそも賃金を支払わないのは論外だが、労働時間の管理がルーズな会社では、知らずに未払いの残業代が発生しているリスクがある。そういった会社は、この2年のうちに、労働時間を適正に管理し、賃金(特に残業代)を正しく支払う仕組みを整えておきたい。


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