ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

学生アルバイトも「4分の3」で社会保険に加入

2016-09-23 10:50:01 | 労務情報

 現行制度においては、同種の労働者の「4分の3」以上を労働しているものは、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の強制適用となる。
 これは、昭和55年6月6日に「厚生省(当時)保険局保険課長」・「社会保険庁(当時)医療保険部健康保険課長」・「社会保険庁(当時)年金保険部厚生年金保険課長」三者連名で発せられた「内翰(ないかん)」に示された基準だ。本来「内翰」は単なる部局内の指導文書にすぎないはずだが、社会保険審査会における審査でもこの基準で判断されており、事実上の「行政通達」と化していた。
 今般、健康保険法・厚生年金保険法等の改正により、この「4分の3ルール」が法文中に明記され、平成28年10月1日から厳格に適用されることとされた。
 なお、同じタイミングで、従業員501人以上の企業における「週20時間以上、月収8万8千円以上」で社会保険適用となることも法定化されたが、その件に関する考察は別稿に譲ることとする。

 さて、この「4分の3ルール」は、いわゆる「パート」だけでなく「アルバイト」に対しても適用される。すなわち、概ね週30時間以上働いている者(一部例外あり)は、社会保険への加入義務があるのだ。学生も例外ではない。
 そもそも「アルバイト」という法令上の用語は無いのだが、日本語で「アルバイト」と言うと、本業(別の職業に就いていたり学生だったり)を持っている者の「副業」というニュアンスを含むものと解されるのが一般的だ。而して、週30時間というのは、「副業」と主張するには多すぎる労働時間ということになる。
 これに違反して強制適用なのに資格取得しなかった事業主に対しては、罰則も用意されている。健康保険法第208条には「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」、厚生年金保険法第102条には「6月以下の懲役または20万円以下の罰金」、と一応定められている。もっとも、現実には、罰則適用の前に行政指導がなされるので、通常は、罰金や懲役まで処せられるのは極めて特殊(悪質)なケースに限られると言っても良いだろう。

 ちなみに、“雇用保険”の取扱いに関しては、昼間部の学生は被保険者とならないことになっている。もしかしたら、これと混同して社会保険でも学生を加入させないと誤解している人がいるかも知れないが、雇用保険制度では「学業に専念する者は離職しても失業給付が受けられない」ことの裏返しでそう定めているので、むしろ、雇用保険の方が例外と考えるべきだろう。
 蛇足だが、“労災保険”では、学生だろうがパートだろうが“すべての労働者”が対象となる。

 制度を正しく理解しておきたい。


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能力不足による労働者派遣契約の中途解除は可能か

2016-09-13 10:29:23 | 労務情報

 派遣労働者を受け入れたものの、その者の能力が期待していたよりも低かったということが、まれにある。そうした場合に、派遣先としては、期間満了前に派遣契約を中途解除したくもなろうが、それは法的に許されるのだろうか。

 これに関して、まず正しく理解しておくべきなのは、「派遣労働者の雇い主は派遣元(派遣会社)であって派遣先ではない」ということだ。
 つまり、派遣契約を中途解約することは「B to B」の問題であって、原則として、行政機関はこれに介入しない。労働者派遣法でも、派遣労働者の国籍・信条・性別等を理由とする派遣契約解除を禁じ(第27条)、派遣先の都合による派遣契約の中途解除にあたっては、当該派遣労働者の新たな就業機会の確保、派遣元が支払うべき費用(休業手当等)の負担などの措置を講じなければならない旨を定めている(第28条)が、それ以上のことは制限していない。

 こうしたことを踏まえて考えれば、派遣契約の中途解除の可否は「会社間でどのように取り決めているか」次第と言えるわけだが、派遣会社が用意する契約書には、「派遣元の責めによらない中途解除にあたっては、休業手当や解雇予告手当、場合によっては残余期間の派遣料金を賠償する」といった特約条項が設けられているのが通常だ。
 したがって、結論としては、その派遣労働者が職場の風紀を乱したとか、企業イメージを著しく損ねたといったことでない限り、原則として派遣先側から派遣契約の中途解除はできない(中途解除するのであれば、最大で残余期間の派遣料金を全額補償しなければならない)と考えるべきだろう。

 そもそも、冒頭の命題における「能力不足」が派遣労働の本旨を満たさないほどであったなら別の者を派遣するよう求めることは可能である一方、「“期待していたよりも”低かった」という理由による派遣契約の中途解除は、労働者派遣法第26条第6項が禁じる「派遣労働者の特定」に類する行為とも見られかねない。
 派遣労働者に一定水準以上の職務遂行能力を求めるなら、それは派遣契約を締結する前に明確にしておくべきではなかろうか。


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合理的理由を欠く資格等級の降格は無効

2016-09-03 22:59:32 | 労務情報

 資格等級制度を設けている会社において従業員個々の資格等級を変更する場合、特に“降格”にあたってはトラブルとなりやすいので、慎重を期したい。

 そもそも降格するには(本来は“昇格”するにも)、合理的な理由が必要だ。
 しかし、「年功型人事」をベースに置いたままの資格等級制度は、一般的には「経験が長くなるほど能力が高まる」という前提で設計されているため、「能力が低まった」と判断する基準を設けていないことが多い。このような制度の下では、降格することは、非常に困難と言える。

 「成果主義」を取り入れた資格等級制度ならば昇格も降格もありうることに合理的な説明が可能となるが、もし従来無かった制度を今後導入しようという話であれば労働条件の不利益変更となりうる点に配慮しなければならないし、また、成果主義人事のデメリットも数多く指摘されているところであるので、安易に新規導入を考えるべきではない。

 一部には「昇降格は人事権の行使であるので会社の裁量が広く認められるはずだ」と主張する向きもあるが、会社の主張を認めている判例は、ほぼすべてが、役職を下げる「降職」(これも含めて「降格」と呼ぶこともあるが、ここでは区別しておく)についてのものである。資格等級を下げる「降格」は、明らかな指標によるものでない限り認められにくいと考えるべきだろう。
 ましてや、経営者の恣意による降格や、賃金を下げることや自発的な退職を促すことを主眼に置く降格は、それが無効となるばかりでなく慰謝料まで支払うよう命じられるリスクすらある。

 なお、「懲戒処分としての降格」というのもあるが、これについても、就業規則等に根拠規定を設けておかなければならず、かつ、社会通念上の妥当性も欠いてはならないので、注意を要するところだ。


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