「出向」とは、自社の従業員を他社の指揮命令下に移管させることであり、大きく、自社に籍を置いたまま他社で勤務してもらう「在籍出向」(単に「出向」とも言う)と、自社から他社に籍を移して勤務してもらう「移籍出向」(単に「移籍」あるいは「転籍」とも言う)とに分類される。
どちらも、わが国の長期雇用慣行と相まって、「配置転換」(略して「配転」とも言う)の発展形として根付いている制度だが、この2つは同じ「出向」と称していても、性格が異なるので、注意が必要だ。今回は、特に労働契約面での性格の違い、そして、本人の個別同意が必要かどうかに着目して述べてみたい。
まず、「在籍出向」については、労働契約(適正に制定・周知された就業規則を含む)に出向させることがある旨が明記されていれば、それをもって、会社は出向を命じる権利を有していることになる。
したがって、個々の出向を命じる前に該当者から個別同意を取る必要はないし、出向命令に応じなかった従業員は懲戒の対象とすることができる(東京地判S45.6.29、新潟地高田支判S61.10.31等)。ただし、不当な動機によるものや従業員に過度な不利益を強いるものは、権利の濫用として無効になることは言うまでもない。
ところが、「移籍出向」は、会社が一方的に命じることはできないものとされる。こちらは在籍出向とは異なり、自社との雇用関係を終了させたうえで移籍先との新たな雇用関係を結ぶことを意味しているからだ。
そのため、企業再編の場合(労働契約承継法第3条)・整理解雇に準ずる場合(大阪地決H1.6.27)・実質的に企業内配転と同視されうる場合(千葉地判S56.5.25)等を除き、労働契約における包括規定のみをもって会社が移籍を命じることはできず、個々の出向を命じる前に該当者本人の個別同意を得る必要がある。
もちろん移籍命令を拒んだことを理由に懲戒したり不利益に扱ったりすることも許されないし、「移籍命令に従わなければ不利益に扱う」と告げる行為すら「“退職”の強要」とみなされかねないので、気を付けたい。
昨今は、働き方の多様化もあって、出向命令に応じない従業員も珍しくなく、労使間のトラブルに発展した事例も頻発している。
在籍出向であれ移籍出向であれ、該当者本人にとっては使用者が変わるのだから大問題であることを理解し、その実施に際しては、労使それぞれのメリットとデメリットを長期的かつ広範的な視野を持って検討するべきだろう。
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