ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労災保険を使えば「業務上災害」でも「通勤災害」でも同じ?

2014-07-23 10:28:08 | 労務情報

 労災保険は、業務上の災害と通勤途上の災害の両方をカバーしており、給付の内容は、業務上でも通勤途上でも、ほぼ同じ扱いとなっている。そのためか、特に業務上か通勤途上かの判断に迷うケース(例えば「用務先へ直行する途上での事故」など)において、「労災を使えばどちらも同じ」と考える向きもあるが、果たしてそうなのだろうか。

 まず、「ほぼ同じ」と言うものの、「(通勤災害に対する)療養給付」には、「(業務上災害に対する)療養補償給付」と異なり、本人から「一部負担金」を徴収する制度がある。わずか200円の話とは言え、予め本人に説明しておかないと会社への不信感につながってしまう虞もあるだろう。

 そして、本人にとっても会社にとっても重要なのが、「事業主による休業補償」の有無だ。
 労災保険では、「(業務上災害に対する)休業補償給付」と「(通勤災害に対する)休業給付」のどちらも、賃金が支払われない第4日目からを対象としているところ、業務上災害であった場合は、労災保険から給付を受けられない3日間については、会社が平均賃金の6割以上を補償しなければならないことになっているのだ(労働基準法第76条)。

 また、労働基準法関連では、解雇制限の扱いが異なることも忘れてはならない。業務上災害であれば、その療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇できないが、通勤災害であれば労基法上の解雇制限は無い。
 それから見落としがちなのだが、年次有給休暇の発生基準にも影響する。年次有給休暇は直近1年間(初年度のみ6か月間)の出勤率が8割以上で発生するところ、業務上傷病により休業した期間は出勤したものとみなす(労働基準法第39条第8項)一方で、通勤災害での傷病は、「私傷病による欠勤」として扱い、年次有給休暇を発生させないことも許される。

 さらに、民事上の損害賠償請求訴訟への影響も否めない。労災保険と訴訟とは直接は関係ないとは言え、労働局が業務上災害として認めたとなれば、裁判所も「会社に責任あり」と断じる可能性が高まるのは理の必然と言えよう。

 これらを踏まえて、少なくとも人事労務担当者が軽々に「業務上災害でも通勤災害でも同じ」と口にするのは差し控えたいものだ。


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「事業場外みなし」は“例外”の扱い

2014-07-13 12:49:16 | 労務情報

 外勤営業マン(外勤営業ウーマンを含む。以下同じ)に「事業場外みなし労働時間制」を適用して、彼らに残業代を支払わない、もしくは一定額の残業代のみ支払う、としている会社は珍しくないが、その大多数において労基法違反が疑われるので、注意しておきたい。

 労働基準法第38条の2は「従業員が事業場外で業務に従事し、労働時間を算定しがたい場合には、所定労働時間(もしくは通常必要とされる時間または労使協定で定めた時間)労働したものとみなす」旨を定めている。逆に言えば、“労働時間が算定できる場合”には、この規定は適用されないのだ。
 例えば、予め上司に届け出ていたルートで外勤営業するのであれば、会社が労働時間を算定することは可能だろう。また、携帯電話で会社の指示を受けながら取引先を訪問するのであっても労働時間の算定は可能だ。そういった外勤営業マンは、事業場外みなし労働時間制の対象にならず、実労働時間を把握して、残業があれば残業代を支払わなければならない。
 海外ツアー添乗員の業務について事業場外みなし労働時間制の適用が争われた訴訟事件でも、最高裁は「予め旅程管理に関する具体的な業務指示がなされている」、「携帯電話を所持して常時電源を入れておくよう求められ、重要な問題が発生したときには個別の指示を受ける仕組みが整えられている」、「事後に『添乗日報』により業務内容を報告することが義務付けられている」等から、「労働時間の算定が困難とはいえない」と判じた(最二判H26.1.24)。

 そう考えれば、やはり、実労働時間を把握することが原則なのであって、事業場外みなし労働時間制は、どうしても労働時間を算定できない事情がある場合に限り、例外的に適用できるものと認識しておかなければならない。
 ただ「外勤だから」とか、まして「営業マンだから」というだけで当然のように適用していないか、自社の制度を再チェックしておきたい。


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「振替休日を取らせる」という表現の危うさ

2014-07-03 15:09:32 | 労務情報

 従業員に休日出勤させた場合には、基本的には、休日手当を支払うことになる。
 これについて、「休日出勤させても代休を取らせれば、休日手当の支払いは不要」と考える向きもあるが、それは厳密には正しくない。と言うのも、休日出勤させたのが法定休日(原則として週1回)にあたる場合は135%の休日手当を支払うべき(労働基準法第37条)であるので、代休を取らせたとしても、割増しの「35%」の部分については、支払い義務が残ったままになるからだ。

 一方で、「休日出勤させて代休を取らせる」のでなく、「休日と労働日とを振り替える」という形で所定休日に出勤させる方法もある。
 これは労働契約(適法に制定された就業規則を含む)に規定されていれば可能であるし、こういう形にすれば、上述の「割増し部分」も支払わなくて良い。なぜなら、振替えによって「休日」であった日は「労働日」に変わったわけで、そこには「休日出勤」という概念自体が発生しないからだ。

 ところが、これを誤解してか、「振替休日を取らせるので休日手当は支払わない」としている会社も少なからず見受けられる。
 言葉尻を捉えるのは本意でないが、「振替え」とは「特定の休日を労働日に変更し、同時に、特定の労働日を休日に変更する」ことなのだから、「振替休日を“取らせる”」というのは、日本語としておかしいのだ。
 事実、そういう表現を用いている会社では、振替日を予め特定しないまま休日出勤させるという実態が多く見られる。それは「振替え」とは呼べないし、しかも、休日手当を支払わないのだから、すなわち「賃金不払い」ということでもある。また、“代休”が取れないまま働き続けることから、従業員の健康管理の面でも問題がありそうだ。

 「休日の振替え」は上手に利用したい制度であるが、正しい知識に基づいた運用が求められる。


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