労災保険は、業務上の災害と通勤途上の災害の両方をカバーしており、給付の内容は、業務上でも通勤途上でも、ほぼ同じ扱いとなっている。そのためか、特に業務上か通勤途上かの判断に迷うケース(例えば「用務先へ直行する途上での事故」など)において、「労災を使えばどちらも同じ」と考える向きもあるが、果たしてそうなのだろうか。
まず、「ほぼ同じ」と言うものの、「(通勤災害に対する)療養給付」には、「(業務上災害に対する)療養補償給付」と異なり、本人から「一部負担金」を徴収する制度がある。わずか200円の話とは言え、予め本人に説明しておかないと会社への不信感につながってしまう虞もあるだろう。
そして、本人にとっても会社にとっても重要なのが、「事業主による休業補償」の有無だ。
労災保険では、「(業務上災害に対する)休業補償給付」と「(通勤災害に対する)休業給付」のどちらも、賃金が支払われない第4日目からを対象としているところ、業務上災害であった場合は、労災保険から給付を受けられない3日間については、会社が平均賃金の6割以上を補償しなければならないことになっているのだ(労働基準法第76条)。
また、労働基準法関連では、解雇制限の扱いが異なることも忘れてはならない。業務上災害であれば、その療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇できないが、通勤災害であれば労基法上の解雇制限は無い。
それから見落としがちなのだが、年次有給休暇の発生基準にも影響する。年次有給休暇は直近1年間(初年度のみ6か月間)の出勤率が8割以上で発生するところ、業務上傷病により休業した期間は出勤したものとみなす(労働基準法第39条第8項)一方で、通勤災害での傷病は、「私傷病による欠勤」として扱い、年次有給休暇を発生させないことも許される。
さらに、民事上の損害賠償請求訴訟への影響も否めない。労災保険と訴訟とは直接は関係ないとは言え、労働局が業務上災害として認めたとなれば、裁判所も「会社に責任あり」と断じる可能性が高まるのは理の必然と言えよう。
これらを踏まえて、少なくとも人事労務担当者が軽々に「業務上災害でも通勤災害でも同じ」と口にするのは差し控えたいものだ。
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