ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「家族手当」が違法とされる可能性あり?

2016-12-23 19:49:19 | 労務情報

 賃金決定の要素としては“属人給”から“仕事給”へウェイト付けが移行しつつあるが、他の属人的な諸手当(住宅手当等)の多くが廃止されてきた中で、「家族手当」だけは廃止に抵抗感の有る会社も多い。
 賃金には「労働の対価」というだけでなく「労働者やその家族の生活保障」という性格も有ることは否定できず、それゆえ、家族手当を支給すること自体には問題は無い。しかし、支給対象者や支給対象となる家族の範囲をどう定めているかによっては、違法となってしまう可能性もあるので、注意したい。

 まず、男女で支給方法や支給額に差が有ってはならない。
 さすがに今時「家族手当は既婚男子に支給する」としている会社は無いだろうが、まれに「世帯主に支給する」と規定している例を見掛けることがある。しかし、これは、「格差を生成するような支給要件」として都道府県労働局雇用均等室が改善指導するべき項目の一つとなっており、また、訴訟においても、これに否定的な裁判例(仙台高判H4.1.10、東京地判H6.6.16等)が多い。

 また、ここ数年ほどは、配偶者を家族手当の支給対象とすることの是非が議論されてきている。
 「配偶者を対象とする家族手当」は、「仕事に専念する夫」と「家事・育児に専念する妻」といった夫婦間の性別役割分業が一般的であった高度経済成長期に日本的雇用慣行と相まって定着してきた制度であるが、今や、これが女性の就労意欲を阻害している要因となっている(平成23年パートタイム労働者総合実態調査「(表10-2)就業調整をする理由別パートの割合」)ことから、政府内で見直しが検討されているのだ。

 考えてみれば、確かに、未成年者(20歳未満とするか18歳未満とするか中学卒業までとするかの意見は分かれるものの)を扶養することは社会全体に課せられた義務とも言えるが、配偶者を扶養することを社会(会社)が支援することの意義を合理的に説明するのは難しいだろう。
 とは言え、これは、健康保険における被扶養者、国民年金の第3号被保険者、税法上の控除対象配偶者など、行政上の各種制度ともリンクしている問題であって、私企業における手当支給基準だけを悪者扱いするのは無理筋ではなかろうか(筆者の私見であるが)。

 しかし、そう遠くない将来に「配偶者を対象とする家族手当」が法令で禁じられることも予想されるので、この制度がある会社は、今のうちから廃止を検討しておくのも悪くはないだろう。
 ただ、その場合でも、労働条件の不利益変更には労働契約法第8条ないし第10条に則った手続きが必要であること、そして、現にこれを支給されている従業員に対して当面は同額の調整手当を支給する等の緩和措置を講じるべきであることは、忘れてはならない。


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計画的かつ継続的な配置転換を

2016-12-13 17:39:01 | 労務情報

 日本の労働法制および判例において、会社は、従業員を安易に解雇できないこととなっている。会社側に責任のある整理解雇のケースではもちろんのこと、例えば私傷病や能力不足など本人側に問題があるケースであっても、場合によっては懲戒解雇に相当するケースですら、会社は解雇を回避するように努めなければならないのだ。
 その一方で、会社には、従業員を自由に解雇できないことの言わば“裏返しの権利”として、広い「人事権」(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)が認められ、それを根拠に、仮に従業員本人が望んでいなかろうと、会社は配置転換(以下、「配転」)を命じることが可能とされている。

 とは言っても、会社がまったく自由に配転を命じられるわけではなく、「権利の濫用」として無効とされてしまう例も多い。
 では、どういう配転命令が「権利の濫用」とみなされるのか。判例を整理すると、次の3つに集約できそうだ。
  (1) 不当な動機・目的によるもの
  (2) 当該従業員に著しい不利益を負わせるもの
    (収入減少、遠方への通勤、未習熟業務への適応、育児や家族の介護等への支障など)
  (3) 経営上の必要性が無いもの
 これらのうち、(1)は論外として、また、(2)は個別の配慮が求められるべきものとして、(3)の「経営上の必要性」というのが、会社にとっては説明しやすそうで説明しにくい、最もやっかいなものかも知れない。「定期人事異動」など、個々の配転命令すべてにおいて経営上の必要性と当該従業員の適性とをそれぞれ紐づけるのが難しいケースもあるだろう。

 しかし、どのような配転であれ、最初の話に戻って、「長期雇用を約する代わりに本人の適性を探る」という観点から、その必要性が説明できないだろうか。
 ただ、そのためには、計画的かつ継続的な配転を社内慣習化しておきたいところだ。その時々の「経営者の思いつき」で配転を命じていては、(3)を説明できないばかりか、(1)や(2)の要因ともなりうる。

 そして、策定された配転計画は、できれば公開しておくのが望ましい。そうした方が、本人の意欲や周囲の意識にもつながるからだ。
 もちろん、計画は内外の情勢が変われば変更されるべきものであり、逆に言えば、計画の変更を恐れてはならないし、それほどまでに初めから硬直的な計画を策定する必要も無い。


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インフルエンザ感染者の休業は無給で良いのか?

2016-12-03 11:49:04 | 労務情報

 厚生労働省は11月25日、第46週(11月14日~11月20日)のインフルエンザ感染者が全国で6843人を数えたことから、インフルエンザの流行シーズン入りを宣言した。(例年より早め)

 ところで、労務管理上、インフルエンザに罹った従業員を就業させて良いのか、というのは悩ましい問題だ。
 それが“新型インフルエンザ”であれば、感染者はそもそも就業してはならないことになっている(感染症予防法第18条)が、“季節性インフルエンザ”は就業制限の対象にはなっていないからだ。
 会社としては、他の従業員への感染のおそれを考えれば出社させたくないところだが、インフルエンザに罹った当人としては、特に欠勤した場合にその分を賃金から差し引かれる会社においては、無理してでも出勤して来る者もいるかも知れない。

 その対策として、まず、就業規則に「伝染性の疾病に罹った者は就業を禁じる。」といった規定を盛り込んでおくべきだろう。

 そして、それを有給とするのか無給とするのかも、明記しておきたい。
 ちなみに、従業員がインフルエンザで休んだ場合、法律上は、就業規則や労働協約等で賃金を補償する特約が無い限り、賃金を支払う義務は無いとされる。普通の風邪などで欠勤する場合と同じ考え方に立つ理屈だ。
 現場での運用しやすさ(従業員の納得・同意)の面から考えれば、会社は、インフルエンザ感染者に対して、自宅勤務を認める、特別休暇を付与する、あるいは休業手当(6割以上)を支給して休業を命じる、といった対応を検討しても良いだろう。
 しかし、そうは言ったものの、こういった対応を安易に採用するのは、あまりお奨めではない。例えば従業員の大多数が感染して会社の業務がストップした場合にまで賃金を補償しなければならないのか、また、他の感染症にも同様に適用するのか、等の問題について、会社ごとの事情に即して慎重に考えたうえでの結論でなければならないからだ。

 なお、ここまで書いてきた内容は、インフルエンザに感染した者(もしくは正当な理由をもって感染が疑われる者)本人についての話だ。家族がインフルエンザに感染した者に自宅待機を命じたり、海外から帰国した者に健康診断を義務付けるといったケースでは、通常の賃金(少なくとも休業手当)が発生することになる。


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