従業員が業務上の事故により死亡したり障害が残ったりしたら、本来は、会社が遺族補償や障害補償を行わなければならないが、労災保険制度から同じ事由について給付が受けられる場合は、会社はその補償義務を免れるものとされている(労働基準法第84条)。
しかし、これは、労働基準法が会社に義務づけている補償を行わなくて良いという意味であって、民事上の責任まで免れるわけではない。
その事故が、業務命令自体に問題があったために発生したものであったり、会社が安全配慮義務(労働者が安全に働けるよう配慮すべき会社の義務)を果たさなかったために発生したものであったりした場合には、会社の「不法行為」または「債務不履行」として民事訴訟が提起されることも考えられるのだ。
もちろん「業務上の事故=会社に100%責任あり」と決まっているものではないので、会社側としては「業務命令に問題は無かった」、「安全配慮義務は果たしていた」と抗弁し、また、「被災労働者にも過失があった」と主張することもあろうが、裁判所は往々にして弱者(=労働者)に有利な判決を出しがちであることは承知しておかなければならないところだ。特に死亡事故の場合は、会社の存亡に関わるほど多額の補償を命じられる可能性もある。
そういう事態に備えて、会社は、できれば、労災保険の上乗せとして「使用者賠償責任特約」を付けておいた方が良いだろう。これは国の制度ではなく、民間の保険会社が商品化しているものであり、もちろん保険料の負担は余分に掛かるが、いつどこでどういう事故が起こるか分からないなか、“安心料”として検討してみる価値はあるのではなかろうか。
もっとも、上乗せ保険を掛けたからと言って安全配慮義務をないがしろにして良いものではない。会社は、労働力の喪失を未然に防ぎ、また、日常の業務を効率的に進めるためにも、事故防止に努めるべきであることは言うまでもないだろう。
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