今年の春先、牛丼チェーンや回転寿司チェーンのアルバイト従業員がSNSに投稿した“わるふざけ動画”が拡散して、大騒ぎになった。 結局、問題となった牛丼チェーン・回転寿司チェーンとも、「当該従業員を退職処分にした」旨を公表し、事態の収拾を図ることとした。
いずれも「退職処分」という表現であり、「懲戒解雇」とも明言していないことから、おそらく「諭旨解雇」もしくは「退職勧奨」、あるいは有期雇用であれば「出勤停止と契約更新拒否の“併せ技”」であったと推測される。
ところで、今回ほどまで企業イメージを損ねた場合には「懲戒やむなし」と判断されそうに思えるが、類似のケースにおいて従業員を懲戒することが、必ず労働契約法第15条の求める「合理性」と「相当性」をクリアできるか、と考えると、そうとは限らない。
具体的に言うと、次のような場合には、懲戒が無効とされる可能性があるので、懲戒処分はこれらの背景を確認したうえで慎重に行いたい。
1.就業規則に懲戒の規定が無い。またはその内容を従業員に周知していない。
※ 特にアルバイト従業員には、就業規則の内容を説明していないことが多々見受けられる。 周知されていないルールは、ルールとして存在しないのと同義だ。
2.懲戒処分を科すための手続き(特に「弁明の機会の付与」)を適切に踏んでいない。
※ 事実と背景を正しく把握しなければ適切な処分は下せない。 また、真相究明と再発防止のためにも、本人の弁明を聴いておくべきだ。 例外も無いわけではないが、多くの裁判所が「弁明の機会が与えられない懲戒処分は懲戒権の濫用として無効」(福島地会津支判S52.9.14、東京地判H8.7.26等)との立場を取っていることは承知しておきたい。
3.行為と処分とのバランスが合っていない。
※ 特に「懲戒解雇」は、雇用関係を完全に絶ってしまう最終手段であるので、より軽い処分(「減給」や「出勤停止」等)で済ませられないかを検討する必要がある。 そのうえで、当該従業員を排除する以外に方法が無い場合に初めて許される、と解するべきだろう。
4.会社の教育が不充分であった。
※ 就業中の私的動画撮影の禁止や食材の扱い方をはじめとする就業態度について、また、顧客情報の守秘義務等についても、適切な教育を施していたのか、会社の体制も問われる。
なお、以上は、社内での懲戒処分に合理性・相当性が認められるかの判断材料であって、現に会社の被った損害額については、懲戒処分の有無にかかわらず本人に賠償を求めることができるとされる。
もっとも、懲戒したり、損害賠償させたりすることよりも、こうした事件が起こらないようにすることこそが肝要なのは、言うまでもない。
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